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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
閑話 ヒロイン達の思惑、あるいは平穏な日常
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side 05 裏切られた心

 アスダール練炭店の前まで辿り着き、息を切らす。

 まずはテトに事情を話し、それから皆に事の次第を話そう。

 私の身に起きてしまったことを。

 主教様を、殺してしまったことを――。


「あれ、ライカじゃん。そんな血相変えてどうしたんだ?」


 店の扉が開き、中から現れた金髪の少年。

 私はその顔を見た途端、彼の胸に飛び込んでしまう。


「うわっと……! 珍しく積極的だなライカ……って、どうして泣いてるの?」


 私の頭を優しく撫でながらテトが顔を覗き込んで来る。

 大丈夫。

 彼ならきっと私の話を聞いてくれて、私の味方になってくれる。

 私の事をお嫁さんにしてくれると彼は常々言っていた。

 彼の父であるべゼウスさんだって、私の事を気に入ってくれている。

 全てを、打ち明けよう。

 もう1人で抱え切れない。


「……あのね、テト……。話が、あるの――」





 べゼウスおじさんは買い物に出掛けているみたいだった。

 まだ早朝ということもあり、店内には誰もいない。

 私はホットココアをご馳走になりながら、テトに全てを打ち明けた。


「……はは、いつからライカはそんな冗談を言う子になったんだ? そんな話、信じられるわけが無いだろう。君が主教様を殺した? そんな馬鹿な……」


 鼻で笑いながらココアを啜るテト。

 しかし私の真剣な表情を見て、少しだけ顔が強張っている。


「……本当なの、テト……。私……取り返しのつかない事を……」


 昨晩の惨劇を思い出し頭を抱え蹲る。

 燃えて行く主教の手――。

 大好きだった、主教の手――。


「君の言う、その……ディザ・ベル? 本当に君が謎のおじいさんからその力を得たと言うのならば、僕の前で見せておくれよ」


 ココアの入ったカップを置き、テトが隣の席に座る。

 そしてそっと私の肩に腕を掛ける。

 いつもの私ならば直ぐにでもその腕をどかすのだが、今日は大人しいままだ。

 テトの生唾をゴクリと飲む音が聞こえる。


「……力を……『焔の魔法フレイム・ディザ・ベル』の力を、見せればいいのね……?」


 彼の顔が私の顔に接近して来る。

 私は人差し指を立て、室内にある灯籠を指差す。

 そして軽く念じる。

 すると、灯籠に灯りが燈る。


「……え?」


 突然のことに驚き、私から顔を離すテト。

 今度は指を軽く鳴らす。

 すると灯籠の火は消えた。


「……」


「これで、分かってくれた? テト……」


 彼の腕をどけた私はソファから立ち上がる。

 彼を連れて、今度はべゼウスさんにも事情を聞いてもらおう。

 テトとべゼウスさんが居てくれれば皆に話すときにも心強いから。


「……はは、それはどんなマジックなんだい? 僕にも教えておくれよ」


 未だに現状を理解していないテトは半笑いでそう答える。


「テト……。信じて。これはマジックなんかじゃないの。禁断の魔法ディザ・ベルの力なの……」


 悲痛な表情で彼に語り掛ける。

 するとテトの表情が徐々に青ざめて行く。


「そんな馬鹿な……。冗談も大概にしないと、僕だって怒るよライカ。主教様を殺したって言うのも、僕をからかっているだけなんだろう? 大方ミレイさんと話を合わせて僕を驚かせようと――」


「どうして分かってくれないの!」


 私の叫びと同時に、室内にある全ての灯籠に灯が燈る。

 そのうちの2つほどが強烈な炎により燃え上がり消失してしまった。

 いけない。

 感情を爆発させてしまっては、また主教様のときみたいに――。


「……化物……」


「え?」


 テトが何かを呟いき、私は耳を疑ってしまう。

 今、なんて――。


「ひいいいいいぃぃ! 化物!!」


「きゃっ!」


 テトは私を突き飛ばし、叫びながら店から飛び出して行った。

 そのまま放心状態になる私。

 化物――。

 私は――。


 私は、もう、人間では無い――?





 どれくらいそうしていただろう。

 信じていたテトに裏切られ、私は放心状態のまま床に蹲っていた。

 しばらくすると店の外に複数の人の気配があることに気付き、立ち上がる。

 窓から顔を出すと、そこには青ざめたテトとガッドおじさん、ミレイ、べゼウスさん。

 それ以外にも街のほとんどの住人が店を取り囲んでいた。


「ライカ! そこにいるのか!」


 皆を代表してガッドおじさんが大声を上げる。

 凄く険しい表情をして、まだ早朝だというのに手には松明を持っている。

 ガッドおじさんだけでは無い。

 皆、一様に松明を掲げている。


「お前が主教様を殺したというのは本当か! お前があの禁断の『魔法ディザ・ベル』の力を宿したというのは本当か!」


 いつものガッドおじさんではない。

 あんなに怖い声を上げるおじさんを、私は今までに一度たりとも見たことは無い。

 街の住人も皆、険しい表情をしている。

 私は恐怖で震えている。

 皆、私をどうしようというの?

 怖い。

 皆が、怖い――。


「答えなさいライカ! 皆お前のことを心配しているんだ! いるなら出てきなさい!」


 何も答えない私にイラついた声を張り上げるガッドおじさん。

 出て行ったら、私はどうなるの?

 どうして皆、そんなに怖い顔をして松明を持っているの?

 テトは皆に何を言いふらしたの?

 信じていたのに。

 私の味方になってくれるって、信じていたのに――。


「……仕方が無い。皆、松明に火を」


 ガッドおじさんの号令により、皆一斉に松明に火を灯す。

 店をぐるりと取り囲んだ幻想的な灯の光。

 まさか――。


「嗚呼、神様……。憐れなライカに、せめてもの情けを……」


 ミレイが十字を切り祈りを始める。

 それと同時に皆が祈りを始める。

 どうして?

 どうして私は――。


「…………火を放て!」


 ガッドおじさんの号令と共に皆が松明を放り投げる。

 一瞬のうちに店に火の手が回る。

 その間も祈りを捧げている住人達。

 窓硝子が割れ、あっという間に店内にも火が回る。

 商品である木炭や練炭に瞬く間に火が回り、私の全身は炎に焼かれて行く。


 誰にも分かってもらえない。

 皆の事を信じていたのに。

 打ち明ければ、分かってもらえると信じていたのに。


 どうして、私はこんな力を手にしてしまったのだろう。

 あの黒いフードのおじいさんは、私に何をさせたいのだろう。


 店全体が業火に包まれて行く。

 燃えやすい商材ばかりが並んでいるのだ。

 あっという間に全焼してしまうだろう。


 もう、この街にはいられない。

 私はこれからずっと独りぼっちなのだろうか。

 

 燃え盛る炎の中で、私は涙を流し蹲る。

 このまま死ぬことが出来れば、どんなに幸せなのだろう。

 全身が炎に包まれようとも、一切熱さを感じない。

 もう私は、死ぬことさえ許されない。


 流した涙が炎と変わる。

 私は化物だ。

 炎に焼かれても、決して死ぬことの無い――。



 ――正真正銘の、化物なのだ。


















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