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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
閑話 ヒロイン達の思惑、あるいは平穏な日常
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05 『リリィ・ベンダーズ』

 訓練校を出発してから、2日が経ちました。

 クレル先生にフィメル先生。

 ゼシカちゃんにアーリアちゃんにジルくん。

 私を含めてこの6人で課外授業に出られるなんて、楽しみで仕方なかったです。

 現にすごく楽しいし。


「ん……むにゃむにゃ……」


 私の隣で寝言をいいながら寝ているゼシカちゃん。

 私の大の仲良しの生徒。

 親友――だと私は思っている。


「ふふ、ゼシカちゃん。涎垂らして寝てる……。変な顔ー」


 軽くゼシカちゃんの鼻の頭をつつく。

 擽ったそうにその手を払いのけるゼシカちゃん。

 最初に出会った頃はすごく怖い子だと思っていたけれど。

 今では授業中も放課後も、休みの日だって一緒に遊ぶ仲となった。


 眠るゼシカちゃんに一通り悪戯し終えた私は、ベッドに潜り天井を眺める。

 いつからだろう。


 こんなに笑って過ごせるようになったのは――。





 私は小さい頃からずっといじめられていた。

 理由は家が貧乏だったからだ。

 ベンダーズ家は名のある伯爵家とは程覆い、庶民レベルを遥かに下回る家柄だった。

 お父さんとお母さんは早朝から深夜までずっと働きづめ。

 お兄ちゃんは家を出て他の国で傭兵として働いている。


 この街に来たのは両親の仕事の関係だった。

 有名な伯爵家が集う街。

 おのずと国内外から商人や傭兵たちも集う。


 私は不安だった。

 どの街でもいじめられ、友達など1人も出来なかった。

 どうせここでもいじめられるに決まっている――。


 街外れにある小さな借家を格安で借りることが出来たのは、ミュンヘン伯爵のお口添えがあったからだ。

 その理由は私に眠る未知の『技』――。

 特待生としてグランディア訓練学校に入学できたのも奇跡に近い。

 今まで何をやっても中の下くらい。

 落第とまではいかないが、特に頭が良いわけでも特技があるわけでもなかった。


 入学してすぐに、ゼシカちゃんと知り合った。

 動体視力の試験項目だけは好成績だった私達は、同じ『敏速科』に所属することになった。

 毎日がトレーニングの日々。

 でも頭を使わなくていい授業ばかりだから、気持ちは楽だった。


 ある日怪我をして、ゼシカちゃんの実家の『ラインセル医院』に連れていかれたことがあった。

 彼女の父が経営する、この街きっての名医。

 祖父のゼノンさんはラインセル家直属の担当医をやっているらしい。

 医者の家系に生まれた彼女が、どうして私なんかに優しくしてくれるのか――。


 その日、彼女は私に言った。

 『どうしていつも、そんなに悲しそうな目をしているのか』と。

 私は答えた。

 『家が貧乏で友達もいないし、楽しいと思ったことなど一度もないから』と。


 じっと私の目を見つめたゼシカ。

 そしてそっと、私を抱きしめてくれた。


 彼女は言った。

 『家なんて関係ないじゃない。楽しくないなんて、そんな悲しいことを言わないでよ』と。

 彼女の声は震えていた。

 私の肩に、彼女の涙が零れ落ちた。


 どうして、彼女は私の為に泣いてくれているのだろう。

 私は彼女に質問した。

 そして彼女から答えが帰ってきた。

 彼女が発した言葉。

 それは――。


 ――『友達だからに、決まっているじゃない』。





 それからすぐに、私とゼシカちゃんは友達になった。

 そのことを後から話したら『ひどーい! それまでは友達だとは思っていなかったわけ!?』と罵られたのだが。


 私に数年ぶりの笑顔が戻った。

 いつから笑っていなかったのか全く思い出せない。


 それから1年が経過し、私とゼシカちゃんは『敏速科』から『技能開発科』へと移動することになった。

 私達を含めて、たった4人の生徒。

 新任の教師は、最近急に話題になった『クレル・アースガルド』という臨時教師だ。

 

 一体、どんな教師なのだろう。

 私の心に不安が広がったが、ゼシカちゃんがそれを一掃してくれた。

 彼女がいれば、どんな場所でもやっていける――。

 それにアーリアちゃんもジルくんも、変わった生徒ではあるけれど、すごく根は優しい子だと知った。

 

 私は恵まれている。

 この街にきて、笑顔を取り戻して、親友が出来て――。


 これからきっと、もっと私の人生は楽しくなる。

 みんなと一緒なら、それが出来る気がする。


 もう、あの頃のような過酷な日々は戻ってこない。


 私の笑顔は、永久になくならない――。





 目を覚まし、辺りを見回す。

 横では静かに寝息を立てているゼシカちゃんとアーリアちゃんの姿が。

 フィメル先生はきっとクレル先生の部屋にいるのだろう。

 そっと部屋から抜け出すのをゼシカちゃんと一緒に確認してヒソヒソと話をしていたのは、つい先程のことだ。


 そういえば、ジルくんはどこで寝るつもりなのだろう。

 部屋割りは男女で分けてあるはずだ。

 クレル先生とジルくん、フィメル先生とゼシカちゃんとアーリアちゃんと私。


「うーん……。なんか可哀相だから、こっちの部屋に呼んであげようかなぁ」


 女子の寝室に男子を招くのもどうかと思うが、なんとなくジルくんは大丈夫な気がする。

 クレル先生とは違い、男気(?)というものをまったく感じないのだ。

 そんなことを本人に言ったら怒られてしまいそうだけれど。


 部屋の扉をそっと開け、廊下に出る。

 すぐ向かいの部屋がクレル先生とジルくんの部屋だ。

 その部屋の前まで行き、ノックをしようとしたが手を止める。

 中から微かに声が聞こえてくる。

 これは――フィメル先生の声?


「……」


 これは、駄目なパターンだ。

 時刻は深夜を回っている。

 ということは、そういうことだ。

 あの艶めいたフィメル先生の声を聞けば、何が行われているのか容易に想像できる――。


 大きく溜息をついた私は、風に当たろうとテラスに向かう。

 そこで1人たそがれているジルくんを発見した。

 

 彼は月を眺めていた。

 どうしよう。声を掛けるべきか。

 彼もきっと困っているに違いない。

 でも今さっき、フィメル先生のあんな声を聞いてしまったのだ。

 なんとなく声をかけづらい――。


 彼は何かを呟いていた。

 手には携帯用の聖書を持っている。

 きっと寝る前に必ず読んでいるという、彼なりのおまじないの一種なのだろう。

 明日は巨龍種討伐遠征の日なのだから、気持ちの高ぶりを抑えるのは当然のことなのかもしれない。


 彼に声を掛けることをやめた私は、そのまま部屋へと戻った。

 相変わらずゼシカちゃんの寝相は最悪だ。

 その横で眠るアーリアちゃんはきちんとした姿勢で眠っているのに。


「ん……。リリィ……。わたし……が……助け……」


 なにかまた寝言を言っている。

 私の名前が出たということは、きっと夢の中で私と遊んでいるのだろう。


 彼女の乱れた毛布を正し、再び私も横になった。


 明日に備えて、私ももう寝よう。

 


 そっとゼシカの手を握り、私もまどろみの中へと落ちていった――。


















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