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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第三章 世界を壊す悪魔
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034 遅れてきた敗退者

「あ、帰ってきましたよー」


 宿に到着するとリリィがこちらを振り返りニコリと笑った。

 どうやら学生らは4人でトランプをやっているようだ。


「お帰りなさい、クレル先生。今、紅茶を用意しますね」


 すでに用意してあったのか、フィメルは空いたカップに紅茶を淹れてくれる。

 一瞬ドキリとしたが、そう毎回ドジを踏むわけではないらしい。

 俺は上着を脱ぎ、空いている席へと座った。


「で? どうだったの? 話はまとまった?」


 こちらを振り返りもせず、ゼシカは俺に質問する。

 『魔法』による記憶封印は正常に機能しているようだ。

 昨日の出来事が俺の脳裏に蘇る。

 恥辱に顔を歪めながら、リリィの代わりに身体を差し出したゼシカの姿が――。


「な、何よ……。私の顔に何か付いてる?」


「……いや。何でもない」


「?」


 何も答えない俺に訝しげな表情を向けたゼシカは、しきりに首を傾げている。

 俺はフィメルが淹れてくれた紅茶に口を付け、本部の指示を皆に伝える。


「今日はこの宿に泊まり、明日の昼に王立騎士団のメンバーと共に『巨龍種討伐クエスト』へと向かう。王立騎士団から派遣された部隊は30名。ギルド支部から派遣された部隊は合計60名だそうだ」


 デウスとの会話後、俺はクエストカウンターで巨龍種討伐クエストの説明を受けた。

 総勢90名での大掛かりな討伐クエスト。

 それだけ巨龍種ドラゴンが脅威ということに他ならない。


「すごい数ですよね……。しかし鉱山で採掘される《龍玉石》は国の重要な資金源でもあります。そこに巨龍種が出現したとなれば、国中の猛者を集結させるのも仕方がない話かもしれませんね」


 そう言い、自身のカップにも紅茶を注いだフィメル。

 元々《龍玉石》が採れる場所には、必ずといっていいほど巨龍種が出没する。

 が、今回はその数が予想以上に多いらしい。

 正確な数は分かっていないが、確認できただけでも5体はいるとの報告を受けたばかりだ。


「巨龍種1体につき、精鋭部隊が10人でも足らないそうだからな。そんな場所に僕らを連れてきて、『課外授業』だという教師の気が知れないよ」


 トランプのカードを出し、ジルがぼそりと呟いた。


「ああ! ジル君! そのカードちょっと待って!」


「駄目だ。アーリア、次は君の番だろう?」


 リリィの懇願を無視し、次の順番へと振ったジル。


「私はこれであがり」


「あ、ちょっと! もう~! リリィの馬鹿! 貴女がそのカードを出すから――」


 カードの束の前に伏せてしまったゼシカ。

 こいつらには緊張感というものがまるで無い。

 俺は溜息を吐き、カップをテーブルに置いた。


「どこかへ行かれるのですか?」


「ええ。ちょっと街を見学に」


「そ、それなら! わ、私も一緒に……」


 急にモゾモゾし始めたフィメル。

 その姿に生徒らの視線が集中する。


「うわー……。生徒の前で堂々とデート宣言とか……」


「フィメル先生! 顔が真っ赤ですよ!」


「でででデート!? かかか顔が真っ赤になんてなっていません!!」


 慌ててゼシカとリリィに言い訳をしだしたフィメル。

 アーリアとジルは冷めた目でその様子を眺めている。


「お前達は夜まで自由行動だ。街の外に出なければ好きにして構わないぞ。フィメル先生、行きましょう」


「は、はい!」


 そう言い残し部屋を出た俺とフィメル。

 なにやら後ろで生徒らが歓喜の声をあげていたが、あとは好きにすればいい。



 宿を出た俺達は表通りをゆっくりと歩く。

 俺の少し後ろを、俺の歩調に合わせて歩くフィメル。

 なんとなしに彼女に視線を向けると、恥ずかしそうに下を向いてしまった。


「手を繫ぎましょうか、フィメル先生」


 そっと彼女の前に手を差し出す。

 『魔法』を使うまでもない。

 彼女が何を求めているのか、手に取るように分かる。


 顔を真っ赤にしながら、そっと俺の手に触れるフィメル。

 そして軽く2本の指を俺の指に絡めた。

 彼女の指の温もりが伝わってくる。

 しばらくはそのまま何も話さず、ぐるりと都市を取り囲む外壁に沿い、街を見回した。


 ふと視線を前に向けると、見知った顔が俺達に近づいてくるのが見えた。

 あれは――。


「おい、グラッドじゃないか。どうしてお前がここにいるんだ?」


 先に俺から声を掛けると、グラッドは大きく肩を揺らし明らかに動揺した。

 まだあのときの『デュエル』の恐怖がその身に焼きついているのだろう。

 あれ以来、ギルドでめっきり大人しくなってしまったグラッド。

 次期ギルド長の噂も無くなり、つるんでいた仲間も徐々に離れていったようだった。


「……けっ、良いご身分だなクレル。巨龍種討伐の前日に女とデートなんてな」


 吐き捨てるようにそう言ったグラッドだったが、言葉に覇気はない。

 俺の反応を気にしながら、精一杯の虚勢を張っているようにしか見えない。

 周囲を見回してみるが、どうやら1人のようだ。

 まさか1人でここまで来たのだろうか。


「レグザから聞いた。お前が生徒を連れて巨龍種討伐クエストを受注したってな。このクエストは俺が受けるつもりだったんだ! それなのにお前は……!」


 唇を噛みしめ、そう叫んだグラッド。


「嘘を言うな。レグザはお前やレックには断られたと言っていたぞ。俺が受けなかったら、奴が自ら受注しなくちゃならなかったともな。巨龍種を恐れ、先に逃げ出したのはお前らのほうだろう」


「くっ……!」


 事実を突かれ、なにも言い返せない様子のグラッド。

 恐らくレックや他のギルドメンバーを誘ったが、全員から断られたのだろう。

 たった1人でここまで俺を追いかけてきたことは素直に褒めてやるが。


「どうするんだ? 1人で来たのだろう? 俺の『討伐遠征メンバー』に加えてやろうか」


「!! ふざけるな!! 俺はお前を見返すためにここまで来たんだ! 今に見てろよ……! 巨龍種の一匹や二匹、俺の力でねじ伏せてみせる……!!」


 そう叫んだグラッドは俺達の前から走り去っていった。

 不安そうな表情で俺に視線を向けるフィメル。


「大丈夫なのでしょうか、あの方……。クレル先生の同僚の方ですよね。何度か街でお見かけしたことがあります」


「ええ。今回の巨龍討伐のクエストを一度辞退したのですが、俺が受けたと知って慌てて追いかけてきたのでしょう。剣の腕はかなりのものですので、滅多なことにはならないと思いますが……」


 俺の言葉を受け、フィメルがぎゅっと手を握った。

 まさか、俺に『奴を支援しろ』とでも言うのだろうか。

 今まで俺が奴にどんな目に遭わされてきたのか、彼女は知らない。

 同僚とは名ばかりの、家畜以下の扱いをされてきた日々――。


 しかし、彼女は期待の眼差しを俺に向ける。

 まるで正義のヒーローかなにかを見るような目で――。


「……分かりました。一応、気にしておきましょう。さすがにグラッドも1人で鉱山には向かわないと思います。この街でメンバーを集め、最低限の戦力を揃えてクエストに参加するでしょうから」


 溜息を吐き、そう答えた俺に安堵の表情で胸を撫で下ろしたフィメル。

 彼女のこういった性格は嫌いではないが、俺の覇道の足枷になるのは考えものだ。


(……いや、それでいい。こういう人間が近くにいるからこそ、逸脱した行動を事前に防げると考えれば……)


 俺の目的は悪逆非道の限りを尽くすことではない。

 あくまで『表向きは』、という前提のもとではあるが。


「行きましょう。見て回りたいお店などはありますか、フィメル先生?」


 俺の言葉に目を輝かせたフィメル。

 彼女の素直な気持ちが俺の心に伝わってくる。

 

 少しだけ――。

 少しだけ、肩の力を抜こう。

 明日には戦いが待っている。



 そして、この戦いに勝利すれば、その先に見える俺の未来は――。 


















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