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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第零章 生み出された創造主
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002 氷の魔法

 草原を疾走する。

 持ち物は多少の回復薬と解毒薬、それに暗視薬。

 ヴィゼンド洞窟には毒の状態異常攻撃をしてくるモンスターがいるが、取るに足らない雑魚モンスターだ。

 問題は暗視薬が底を尽きないかどうか。

 松明を持って探索する手もあるが、それではモンスター共の格好の餌食となってしまう。


(レグザもテレミウス伯爵も、俺を馬鹿にし過ぎだ……!)


 既に街を飛び出してから半刻ほど過ぎたというのに、未だに気持ちが収まらない。

 ミリアはこのことを知っているのだろうか。

 本当は心の中で義兄であるこの俺を馬鹿にしていたのだろうか。

 あの笑顔の裏で、俺のことを嘲笑していたのだろうか。 


『ピギギィ!』


 モンスターの鳴き声が俺の思考を遮断する。

 前方約20メートルほどの位置にいる一匹のスライム型モンスターがこちらを威嚇している。


「舐めやがって……!」


 俺は速度を緩める事無く、腰に差した細剣レイピアを抜く。

 徐々に狭まるモンスターとの距離。

 この世界に存在するあらゆるモンスターの中でも最弱の敵。

 

 俺は細剣レイピアを水平に構え、力を込める。

 柄の部分に刻まれた紋章が一瞬だけ光を宿すがすぐに消えてしまう。


「くそっ! くそっ、くそっ!」


 何故、俺は『技』を使うことが出来ない?

 この世界に生まれた人間は、生まれながらにして『武』の才能を宿しているはずなのだ。

 人間だけではない。

 動物だって、モンスターだって。

 下手をしたらそこらへんに転がっている石にだって――。


『ピギッ! ピギギィー!』


 スライムの中心に赤く紋章が浮かび上がる。

 こんな雑魚モンスターでさえ『技』が使えるというのに、俺は――。


「くそがああああああ!」


 渾身の力を込めて細剣レイピアを突き出す。

 『技』を発動することなく、ただただ腕力に頼っただけの一突き。

 スライムの中心に突き刺さった細剣レイピアはそのままゼリー状の身体に埋もれてしまう。


「こんな……こんな雑魚でも一撃で倒せないのか俺は……!」


 足でスライムの胴体を押さえ、無理矢理に細剣レイピアを抜く。

 紋章ごと貫かれたスライムは再度『技』を発動しようと体制を立て直す。

 俺は何度も何度も細剣レイピアを振り上げ、無心でスライムの胴体を串刺しにする。


『ピイィィ……! ピギィ!!』


「死ね! 死ね! 雑魚が!」


 薄緑色の液体が俺の全身に降りかかろうとも、決して手を休めない。

 何度も何度も。

 悲鳴を上げるスライムに対し、俺は無情に刃物を突き刺す。


「はあっ、はあっ、はあっ……! ……くそっ!」


 動かなくなったスライムを蹴り飛ばし、その場にしゃがみ込む。

 ふと左肩に痛みを感じ右手で拭うと、薄く血が付いているのを確認する。

 俺は溜息を吐きながら回復薬を取り出し左肩に流し込む。

 徐々に傷が消え、痛みも治まってきた。


「……どうして……俺はこんなにも役立たずなんだ……?」


 自分で自分が嫌になる。

 小さい頃は『技』が使えなくたって誰にも馬鹿にされることなど無かった。

 しかしそれはきっと俺が伯爵家の人間だったからだ。

 テレミウス伯爵家に肩を並べるほどの権力を持つアースガルド伯爵家。

 しかしもう、今は家の名など無くなったにも等しい。

 戦争により、俺以外のアースガルド家の人間はすでにこの世には存在しないのだから――。


「……行くか」


 ここでうな垂れていても仕方が無い。

 地に落ちたのであれば、これから這い上がればいいだけだ。

 いつか絶対に見返してやる――。

 

 俺を馬鹿にした奴等全員を、必ず――。





 それから数刻ほど雑魚との戦闘を繰り返し。

 既に回復薬は底を突いてしまった。

 ここからは自分で素材を採集して調合しなくてはならない。

 しかしここら一帯ではいくらでも回復素材は採集出来る。

 やたらと傷口に染みる即席の回復薬ではあるが。


 前方には大きな洞窟が口を開けているのが確認出来る。

 ヴィゼンド洞窟。

 ここの最奥にいる『大眠兎スリーピィラビット』という兎型モンスターを倒せば依頼は終了だ。

 年中冬眠をしている変わったモンスターだが、その毛皮は広く一般に取引されている。

 

 洞窟周辺に生えている回復素材をあらかた採集し終えた俺は暗視薬を飲み、洞窟へと向かう。


 薄暗い洞窟内は静まり返っていた。

 暗視薬のお陰で俺の目には白黒だがはっきりと内部が映っている。

 俺は足音を立てないように最深部を目指して進んでいく。


(おかしい……。どうしてモンスターが何処にもいない……?)


 ヴィゼンド洞窟には俺が知っているだけでも数種類のモンスターがいたはずだ。

 どれも雑魚には違いないが、毒攻撃をしてくる奴だけが厄介だった。

 だからこそ解毒薬を用意しておいたのに、これは一体どういうことなのだろう。


 全くモンスターと遭遇することもなく、俺は難なく最深部へと到着する。

 違和感を感じながらも、俺は辺りを見回す。


(……あそこか)


 洞窟の奥まった場所に目的の大眠兎を発見する。

 大きくいびきを掻きながら眠っている大眠兎。

 こいつの急所はあの長い耳の裏にある。

 そこを細剣レイピアで一突きすれば、一瞬であの世行きだろう。

 俺は足音に注意しながらそっと細剣レイピアを抜く。


ゾクッ――!


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 俺は全身に鳥肌が立ってしまっている。

 なんだ、これは。

 

 足元に視線を落とす。

 白黒の視野の先に、何かが流れているのが見える。

 これは、血――?


 恐る恐る後ろを振り向く。

 そこには、見たこともない化物が立っていた。

 くちゃり、くちゃりと音を立てながら何かを食べている。

 あれは、この洞窟にいるモンスター?


「あ……あ……」


 俺は恐怖のあまり声を出せなくなっていた。

 白黒の視野に映った化物は巨大な蜘蛛のようにも見える。

 あれは一体なんなのだ。

 あんな化物はギルド情報にも載っていなかったはず――。


『ギリギリギリギリ……』


 食事を終えた化物は次の捕食対象を決めたようだった。

 俺は、こんな場所で死ぬのか。

 あの化物に喰われて、それでお終いなのか。


 ……嫌だ。

 死にたくない。

 俺は、これからやるべきことがある。

 

 震える手つきでどうにか細剣レイピアを抜く。


 勝てるわけが無い。

 『技』すらも使えない俺に。

 だが、死にたくは無い。

 俺は。

 俺は――。


『ギシャアアアアアアアアア!!』


「うわああああああああああああ!!!」


 化物の咆哮に釣られ、死に物狂いで細剣レイピアを片手に突っ込んでいく。

 右腕に鋭い痛みを感じる。

 軽く視線を振ると肘から先が無くなっていた。


「くそがあああああああああああ!!!」


 すぐさま地面に落ちた細剣レイピアを拾い上げ、今度は左で構える。

 タイミングを同じくして、化物の二撃目が俺を襲う。

 今度はスレスレでその攻撃をかわす。

 あれか。

 あの鋭利な刃物のような、鎌状の爪か。


 地面を蹴り、もう一度突進する。

 しかし先程避けたはずの腹部への攻撃が避けきれていなかったようだ。

 脇腹から臓腑が零れ落ちる。

 それでも俺は足を止めない。

 止めたら、殺される。

 俺は、生きるんだ。

 生きて、生き残って、やつ等を、見返すんだ。


「あああああああああああああああああ!!!」


 俺は渾身の力を左手に込め、化物の腹部に突き立てる。

 それと同時に背後から迫った長い尻尾のようなもので包まれてしまう。

 全身を拘束された俺は何故かふっと笑みを零した。


「……はは……ここまでか……。でも、最後に、一撃でも喰らわせてやったぜ……」


 そのまま持ち上げられた俺は化物の口へと運ばれる。

 もう全身の痛みが麻痺してきている。

 どちらにせよ、この出血量では助からないだろう。

 諦めたように笑った俺は、そのまま目を瞑る。


 ……。

 …………。


 いつまで経っても意識が途切れない。

 何故、この化物は俺を喰わない?


 恐る恐る薄目を開ける。

 化物は俺を口まで運んだ所で停止している。


「……? 死んで、いるのか……?」


 まさか、あの一撃で倒したのか?

 『技』の使えない俺が?

 

 まさか、そんなことが――。


「うっ……!」


 突如化物の身体の中心から眩い光が溢れ出した。

 そのまま地面に叩きつけられる俺。

 一体、何が起きているのだ?

 化け物が、光に包まれ消滅していく――?


 しかし既に俺の意識は途切れかかっている。

 右腕を失い、臓腑が脇腹から漏れ出しているのだ。

 せっかくこんな化物を倒したというのに。

 俺はここで、死んでしまうのか。


 完全に消滅した化物の傍らに何かが落ちているのを発見する。

 俺は導かれるように、無心で這いながらそれを目指す。

 

 そこには一冊の『書物』があった。

 俺はすがるようにそれを手に取り、ページを開く。


「これ、は……」


 先程と同じような光が開いた書物のページから溢れ出す。

 そして俺の全身を淡い光が包み込んだ。


「頭の、中に……なんだ……?」


 次々と流れ込む『言葉』。

 一体どこの国の言葉なのかは定かではない。

 もしかしたら言葉では無いのかもしれない。

 しかし、俺は全てを理解した。


 これは、『神の力』――。

 俺に注がれているのは、唯一無二の、絶対の力――。


「はは……ははは……!」


 徐々に意識が戻っていく。

 視線を落とすと、失った右腕の先に氷柱つららのような物が生えていた。

 それが次第に人の手の形となり、右腕が再生されていく。


 同じ様に腹部に視線を移すと、傷口が氷のベールのようなもので包まれていた。

 完全に出血は止まり、いつの間にか臓腑も元通りに体内に仕舞われている。


「……『魔法ディザ・ベル』……これは『氷の魔法アイス・ディザ・ベル』の力……」


 立ち上がり、両の手に視線を落とす。

 俺は、力を手に入れた――?

 この力を使って、俺は――。


『グルルル……』


 声のした方角へ振り向くと目覚めた大眠兎がこちらを威嚇していた。

 寝覚めの悪い大眠兎は、眠っている時とは違い目覚めると凶暴性を増すモンスターだ。

 鋭い牙を立てながら、徐々にこちらに近付いてくる。


「……」


 俺は逃げることも無く、そのまま右手を前へと突き出す。

 俺は既に・・・・理解している・・・・・・

 『氷の魔法アイス・ディザ・ベル』の力を手に入れた俺は、誰に屈することも無い――。


『グルルルルゥ!!』


 大きく跳躍し飛び掛ってくる大眠兎。

 俺は動じることなく、こう呟いた。


凍れフリーズ


 ピンと空気が張り詰め、冷気が大眠兎に襲い掛かる。

 中空で一瞬にして凍りついてしまった大眠兎は、地面に落ちることなくそのまま停止している。


「くく……くははは! 凍れと命令しただけで対象だけではなく・・・・・・・・時間まで・・・・凍ったということか・・・・・・・・・! まさしく『神の力』! ははは! ははははは!!」


 無性に可笑しくなり、笑いが止まらなくなる。

 俺は手に入れたのだ。

 神の力を――。

 『魔法ディザ・ベル』の力を――。


 俺の笑い声がヴィゼンド洞窟に響き渡る。


 

 ――これが俺の、『復讐』という名の世界征服の始まりだった。



















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