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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第零章 生み出された創造主
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001 役立たず

 剣と技が全ての世界。

 この世界では『武』こそが正義だ。

 鍛錬に次ぐ鍛錬の日々。

 ギルドの所属となったはいいが、才能の無い俺は一向に『技』を身に付けることが出来ない。


「おらおら、どうした! この腰抜けが!」


「ぐっ……!」


 ギルド長のレグザの咆哮が訓練場に響き渡る。

 ニヤニヤしながら訓練を眺めている仲間達。

 いや、あいつらを仲間だと思ったことなど一度も無い。


「お前は一体、今まで何を学んできたのだ! どうして覚えようとしない!」


 レグザの大斧が俺に襲い掛かる。

 俺はやっとの思いでそれを剣の腹で受け止める。


「受けるのではなく避けろ! 何のための細剣レイピアだ! お前には状況を判断する能力も無いのか!」


 そのまま地面を踏みしめ大斧に力を込めたレグザ。

 斧に刻まれた紋章に光が宿る。


「おお! 出るぞ! ギルド長の得意技!」


 観客の1人が声をあげる。

 それと同時に沸き上がる訓練場。


「《フルチャージ・パウンド》!!」


 レグザの叫びと共に紋章から光が溢れだす。

 それと同時に力の限り斧を振り抜くレグザ。

 身体が押しつぶされるかと思うほどの衝撃が俺を襲う。

 そして俺はそのまま後方に吹き飛ばされ壁に激突する。


「う……」


 上手く受身をとることが出来なかった俺は、次第に意識が薄れていく。

 ギルド長や仲間の笑い声が聞こえてくる。

 非力な俺を笑う同僚達に、何も言い返すことなど出来ないまま俺は――。


 ――そのまま気を失ってしまったのだった。





「ん……」


 目を覚ます。

 だが後頭部と腹部に鋭い痛みを感じ、また気を失いそうになってしまう。


「大丈夫……? お兄ちゃん……」


 俺の顔を覗き込む少女。

 俺の義妹のミリアだ。

 ということは、ここは俺の家か。

 俺は上半身を起こそうと身体に力を入れる。


「あ、無理はしないで。ゼノン先生も2、3日は安静にさせなさいって……」


「……そうか」


 伯爵家御用達の先生が言うのだ。

 もしかしたら骨に皹でも入っているのかも知れない。

 俺は溜息を吐き、そのまま横になる。


「今日は叔父さんはいないのか?」


「うん。また出張だって。お母さんも他の伯爵家のパーティに行くって言ってたから、今夜もまた2人っきり」


 ベッドに腰を掛けながら、何故か嬉しそうにそう言うミリア。

 俺はその笑顔を見ないように顔を背ける。


 テレミウス伯爵家に拾われてから3年の月日が流れた。

 戦争により他界した俺の両親から、俺を引き取ってくれたテレミウス家。

 しかし、今までほとんど面識の無かった俺の居場所など、当然あるはずも無く。

 2年前から俺は、街のギルドで傭兵として働かされることとなった。


「それにしても、酷いよねレグザさん。いつもいつもお兄ちゃんばかりいじめて……」


 ミリアがおしぼりを用意し、俺の額を拭いてくれる。

 もしかして俺が気を失っていた間も、ずっと介抱してくれていたのだろうか。

 

 彼女の気持ちに気付いたのは今年に入ってからだが、俺達は義兄妹だ。

 テレミウス伯爵にそのことを伝えたほうが良いだろうか。

 彼は自分の娘に対し、少し危機感を持ったほうが良いのかも知れない。


「いいよ、自分でやるから」


「いいの。私がやりたいんだから、お兄ちゃんはじっとしてて。ね?」


 強引にベッドに戻され、俺は諦めの溜息を吐く。

 彼女の気持ちは嬉しい反面、これは決して愛やら恋では無いと気付いている。

 言ってしまえば俺は、彼女のペットのような存在なのかも知れない。

 両親を失い、拾われてきた哀れな生き物――。

 ギルドに通うも、一向に顧客もつかなければ『技』も身に付けることが出来ない無能な義兄。

 俺はミリアに見えないように唇を噛み締める。


「ねえ、お兄ちゃん。もうギルドなんて辞めちゃって、お父さんの仕事のお手伝いとかしたら? 私からも頼んでみようか?」


「やめてくれ。俺みたいなひよっ子にテレミウス伯爵の手伝いなんて出来るわけが無いだろう。ギルドに通っているのだって、伯爵のお口添えがあったからだし」


「もう……。お兄ちゃんはいつもそう。本当は辞めたいくせに、そうやって我慢して」


「……」


 ミリアに心が見透かされたような気がして俺は視線を逸らしてしまう。

 後から入団した奴等にも次々と抜かされ、後輩にも馬鹿にされる日々。

 どうして俺は『技』を身につけることが出来ない?

 どうして、他の奴等よりも武器の扱いを覚えるのが遅い?


(くそっ……!)


 血が滲むほど、俺は唇を強く噛む。

 ミリアの優しささえ、今の俺に受け止められる余裕など無い。

 

 見返してやりたい。

 俺の両親の命を奪った、敵国の兵士共を――。

 役立たずとして俺を扱うギルドの奴らを――。


 俺は呪いの言葉を脳内で反芻する。

 こんな世界など、消滅してしまえばいいのに、と。





 1日半の療養を終え、俺はギルドへと向かった。

 まだ身体中が痛むが、休んでばかりいたら伯爵家を追い出されてしまうかも知れない。

 まともな収入を得ていない俺には、居場所など何処にも無いのだ。


「お、やっと来やがったか」


 ギルドの扉を開けるとさっそくレグザに声を掛けられる。

 スキンヘッドで色黒で、いかにも『斧使い』といった様相のギルド長。

 テレミウス伯爵とは旧友の仲ということで、俺はレグザの元で働かせて貰うことになったのだ。


「……皆は?」


 ギルド内のカウンターにもテーブルにも、メンバーの姿は何処にも見当たらない。

 俺は近くの椅子に腰を掛け、掲示板に貼りだされた一枚の紙に視線を移す。


「緊急招集があってな。お前が休んでいる間に全員、出突っ張りだ。ここを空にしておくわけにはいかないからな。俺は留守番ってわけさ」


 手に持った酒瓶を煽りながらそう言うレグザ。

 ……何が『留守番』だ。

 部下に面倒臭い仕事を押し付けて、自分は朝から酒を飲んでいるだけじゃねぇか。


「何だぁ? その納得いかねぇって顔は。また地獄の特訓でも受けてぇのか? あぁ?」


 酒臭い顔を近づけてくるレグザ。

 また、変に目をつけられても面白くない。

 俺は軽く言い訳をしてその場を去ろうとする。


「何処へ行く? お前には仕事を用意してあるぞ」


「え?」


 レグザの言葉に耳を疑う。

 今、なんて言った?

 『仕事を用意してある』?

 俺に?


「お前もここで働くようになってからそろそろ2年だろ。普通は半年も訓練すりゃぁ顧客がつくっていうのに、お前は未だにゼロだ。恥ずかしくないのか? テレミウス家の人間として」


「……テレミウス伯爵に何か言われたのか?」


 溜息を吐き、そのまま椅子に座る。

 俺に仕事があるなんておかしいと思った。

 あまりにも不甲斐ない俺に、伯爵がレグザに頼んだのだろう。

 それともミリアが伯爵に頼んだのか?

 『可哀相な義兄に仕事を与えてもらえないか』と。


「ご明察だな。良かったじゃねぇか、初仕事だぞ。ほれ」


 乱暴に手渡されたギルドの依頼書。

 俺はそれを受けとり、嫌々ながらも内容を確認する。



====================

【依頼主】

ガーノルド・テレミウス

【依頼内容】

ヴィゼンド洞窟の最奥に眠る『大眠兎』の討伐。

ドロップアイテム《大眠兎の白紫毛皮》の納品。

【報酬】

500G

====================



「はっはっは! 楽な仕事だろう? 洞窟に潜って、眠った兎を狩るだけの仕事だ! お前にはうってつけだな!」


 大声で笑いながら酒瓶を煽るレグザ。

 俺は依頼書を握り絞め、立ち上がる。


「行くのか? そりゃ行くよな? なんたってガーノルドからの依頼だもんなぁ! 断れるわけねぇよなぁ! がっはっは!」


 俺は何も答えずに扉を開け外に出た。

 背後ではまだ高笑いをしているレグザの声が聞こえる。


(馬鹿にしやがって……!)


 そのまま逃げるように街を走る。

 『大眠兎』というモンスターは、街の女でも討伐可能なくらい大人しいモンスターだ。

 ドロップ素材である《大眠兎の白紫毛皮》も広く一般に取引されている、珍しくも何ともない一般素材だ。

 なのにテレミウス伯爵は、わざわざ俺をヴィゼンド洞窟まで向かわせ。

 『大眠兎』を討伐して毛皮をドロップさせ、それを納品しろと言っている。

 完全に、俺を馬鹿にしている――。

 俺の力では『大眠兎』を討伐するのもやっとだと思っている。


(くそ、くそ、くそ……!)


 叫びだしたい気持ちを抑え、俺は街の東門を目指す。

 ヴィゼンド洞窟は街から数刻ほど歩いた場所にある小さな洞窟だ。

 すでにここら一帯の凶悪なモンスターはギルドにより駆逐され、行商もスムーズに行われている。

 さっさと依頼を終え、このイラつきを収めたい。



 俺は怒りを抑えきれないまま、街を出発した――。


















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