プロローグ
ガタガタと音をたてて乱暴に走ってる。やはりここを走り慣れていないらしい。正真正銘の地下ゾーンの人間ならこのくらいの道を何一つ引っからずに綺麗にはしる。
「ちくしょう、見失った!」
「これ以上先に行くと地上に戻れなくなるぞ。最悪……」
殺される、という言葉をのみこんだ。
今、ここでそんなこと言ったら5人あまりの人数の統率が乱れる可能性がある。全員地下に来てストレスがたまってる。
「……出直すぞ」
リーダー格の男がそう言った。
「仕方ないか」「チッ」「くそぅ、覚えてろ」
引き返していく黒いスーツを着た男達でリーダー格の男がぽつりと言った。
「………さすがは、逃がし屋エスケープといった所か」
「行ったの?」
質の良さそうな服を着たいかにもお嬢様風の少女が聞いた。
一方、逆に薄汚れたジーンズに黒の半袖ワイシャツとシンプルな服装をした少年は
「みたいだな」
と無愛想に答えた。
「ねぇ、これからどうするの?」
「とりあえず少し間を置いてから俺の家に行く」
「私、早くここから出たいんだけど」
「わがまま言うな」
しかし少女がそういうのも無理はない。何故ならそこは建物と建物のすごく狭い隙間の上に地面には腐った生ゴミやらのごみがたくさんあるためすごく臭い。少し下を見渡すとネズミや猫、犬の死体があちこちに散らかっていた。
「うぇっ……」
あまりの臭いと光景に思わず吐きそうになった。
少年はなぜこの臭いの中でも平気そうなのか少女には不思議だった。
「そろそろ行くぞ」
少年は少女の手を引いた。
(これからどうしよう……) 少女はこれからのことを思うと思わずため息がでた。
高級ゾーンから逃げたはいいがそれから先のことをまたっく考えていなかった。
空を見上げようとしたが無理だった。
何故なら空がなかったからだ。変わりにあるのは暗い灰色をした天井だけだった。
隙間から出て前を見てみるといくつもの出店と露店、両側には違法に増築された建物が並んでおり看板のネオン、天井の照明、露店に灯してあるランプらがこの街を照らしていた。
昔、たまたま知った九龍城を連想させる風景だった。
ここでようやく自分が地下ゾーンに来たのだと自覚した。
「離れるなよ」
少年は先にそう言って前に歩き出した。
少女も後を追って歩き出した。
「とにかく、頑張ろう!」
威勢よく少女は叫んだ。