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中々良いスタート

 ヴィクトリアは長柄の刃を軽い身のこなしで避けつつ上手くエルダの懐に入ろうとするも、そうはさせるかとエルダも武器だけではなく身体能力を活かして相手の拳を蹴りで相殺したりと上手く対処していた。

まだ経験の浅いヴィクトリアはエルダよりも体力があるはずも無く、最終的には体力切れで足元がふらついたところを見抜かれて柄で転ばされ、首筋に刃を向けられてしまい負けになったが大健闘だった。

 槍を地面に置き、ヴィクトリアの前にしゃがんでは片手を差し伸べて立ち上がらせるとエルダ将軍はニッと笑みを見せる。


「中々いい筋してる。これからも頑張れよ」

「は、はい!ありがとうございました!……あ、あのお顔の方は」

「あ?ああ気にするな。口の中も切れてないし、歯も折れてない。後でちょろっと冷やしておくさ。……ほら、次の新兵。とっとと挑戦する兵士決めてリングに上がりな」


 あっけらかんとエルダは話しているが頬はヴィクトリアがかろうじて打ち込んだ頬への一撃の痕が赤く残っていた。手をひらひらさせて気にするなと言うと槍を背に抱えてリングを降りて行く。

リングを降りたヴィクトリアは新人達の輪に戻ると周りの人から肩を叩かれたりと大騒ぎ。


「お前すごいな!あのエルダ将軍にあそこまで戦えるなんて!」

「え?あはは全然。一撃いれられただけで幸運と言うか、もらいもんというか…」

「ンなとこねぇよ!…うし、俺も女の子に負けてらんねぇぜ」


最初にヴィクトリアに賛辞の言葉を送ったのは、赤地に稲妻のような模様が入ったバンダナを額に巻き茶髪を逆立たせている男。服装からして学園の卒業者ではないようだ。

 男はニッと笑みを向けてからリングへと上がって行く。背中にはどでかい大剣を背負った、屈強な男だった。


「俺はエイベル。傭兵をやってたモンだ。…ご指名はそこの大剣使いの隊長殿。俺は同じ武器を使う奴と戦いたくてな!」


 背負っていた剣を抜き片手で持つと切っ先をその隊長へ向けて言い放つ。豪胆そうなその言い方に、今度はさながら闘技場のような声援が上がった。いつの間にか近くの訓練場に居た騎士団の人など部外者も観戦している。

どうやらヴィクトリアのあの熱戦で火がついたのは新人達も隊長達も同じなようで、指名された隊長はフン、と鼻で笑いリングへと上がる。


「俺を指名したのを後悔させてやるからな。」

「ヘッ、言ってろおっさん!」

「誰がおっさんだ誰が。まだ20だバカタレ。俺はエイルマー。大剣使用者の指導を任されている者だ」

「ああそうかいそうかい。…んじゃまぁ、どっちがエースか、とっとと決めようぜ」


 鋼に赤縁の兜を被りなおしてエイルマー隊長は言う。隊長格の兵士達は皆その兜を被っているので恐らく支給されている兜なのだろう。

しかしエイベルが見せたその大剣を見て一瞬エルダ将軍の表情が驚いたものの小首を傾げたあとふぅ、と小さくため息をついてはいつものクールな表情に戻る。

2人は互いに大剣を両手に持ち見据えた。そして同時に飛び掛り戦いが始まったのだ。


 その後も大きな熱気と歓声の中新人達のテストは進んで行き無事(?)全員のテストは終わり、今日は解散と言うことが告げられた。そして明日以降の予定も伝えられた。

この熱気と一体になったのもあってか新人達は帰る頃には皆それぞれ仲良くなっていたが、ヴィクトリアも帰ろうとした時ふと声をかけられる。


「ね、ヴィクトリアちゃん!」

「!は、はいなんですか」

「そんなたじたじしないでよ~。私クレリア。同じ軍所属の女の子だし、一緒に頑張ろうね!」


 声をかけてきたのは新人の中では二人目の女性、クレリア。綺麗に切り揃った前髪、銀糸のような綺麗なロングヘアを靡かせ優雅な物腰で話す彼女は、新人の中ではヴィクトリア以外の唯一の女性。彼女は先ほどの試合では細剣と魔法を組みあわせて戦うという華麗な戦い方を見せて会場を一層沸かせていた。

こんなにも早く友達が出来ると思っていなかったヴィクトリアはびっくりしてしまったが笑ってクレリアと握手をする。


「よろしくね、クレリアさん」

「もー'さん'なんてつけなくていいのに。ヴィクトリアちゃんて名前長いよね……よし、ヴィッキーとかっていうあだ名はどう?」

「あ、かわいい!兄からはヴィクターって呼ばれてるんだけど……」

「なにそれー!男の子みたいなあだ名!ヴィッキー可愛いのに!」

「ハハハ、男勝りだからかなぁ。ありがとクレリア」


 2人は和気藹々とガールズトークをしながら廊下を歩き帰路につく。

 道中クレリアは実は貴族の家の出だということ、国立学院ではない別の学校で剣を習っていたことなどを話した。ヴィクトリアも自分の家のことを話すのは少し気が引けたが隠したってしょうがないのでさらっと流すように話した。

 この国では所謂貴族と平民の間は貧富の差もあればいろんなことで格差がある。まぁ貴族層が住む区画などは平民も出入りはしていいのでそういう意味では隔たりは無いが、政治的には平民が議会に出れるのは3人だけであり、この3人は平民投票によって決まる。そして平民と貴族では一票の格差もある。更に平民より下もあり、彼らは外民と言われていた。

 外民には選挙権も無い。法的な恩恵も受けづらい。西からの亡命者などはここに該当する。外民のための移住区画もあるが、貴族はまず近寄らないだろう。外民が平民になるには一定の所得、そして一定の教養や技術がいる。

 ヴィクトリアは平民の中でもとりわけ貧乏で、家も外民区画と近かったこともありそこまで嫌悪してはいなかった。というより、外民だからといって蔑ろにしたりはしなかった。

 こういう事を言うとやんごとなき貴族の人はまぁ眉を顰めて縁を切るとか極端な態度をとる。外民は信頼しないに等しいという暗黙の了解があり、そんな奴と仲良くやってるお前の気が知れない、と言ったところだろうか。

 しかしクレリアはああ、そうなんだというくらいでそこまで嫌悪感を示す事はなかった。ヴィクトリアは驚いたが、そういう分け隔てない人でよかったと安堵の笑みを浮かべる。2人は城門まで来ればそこで別れた。

 これからの軍での生活は充実したものになりそうだ、とヴィクトリアは笑顔を浮かべながら石畳の道を歩いて帰る。それはもう、るんるん気分で。






「おい、聞いたか?あの新兵の話……」

「ああ。あの鬼将軍と闘って無事だった女の子の事だろ?闘ったっつーだけですげぇのに、なんとまぁ素手で将軍の顔面に一発ぶち込みかけたらしいぜ」

「うわぁ…すげぇ…あとわざわざ将軍を指名する辺り肝が据わってるというか命知らずというか…今年の新兵は曲者ぞろいかもなぁ。お前ん所の騎士団はどうよ?」

「こっちも曲者というか、質がいいのばっかりだよー。いやぁ先輩としてしっかりしなくちゃなぁ俺も。その女の子を見習わないと、かもな!」

「ハハハハ、無鉄砲だけはやめろよ?騎士団が盾捨てて捨て身、なんて洒落になんねーからさ。ハッハッハッハ!」


 試験が終わって一週間が経つと軍だけではなく他の部署にまでヴィクトリアの噂は広まっていた。

 あの壮絶な試合は勝敗こそヴィクトリアの負けになったものの、あの将軍に一撃を打ち込んだり、そもそも将軍を指名する辺りのことが噂になり城中を駆け回っていたのだ。勿論、その噂は兄の耳にも届き頭を抱えているなんて妹は知らない。

騎士団の2人は噂の当人の兄がいることなど知らず横を素通りして行く。兄は本を塔のように積み上げたものを両手で抱えていたので急いで研究室に戻り、その本を置いてから妹が居るだろう訓練場へ向かおうとした。


「あ、フィーディさん、また発掘所ですか?」

「いや、今度は訓練場に!!」

「へ?あ、行っちゃったよ……どうしてまた訓練場なんて縁のなさそうなところに。」


 フィーディは妹を叱り飛ばしに行こうと思っていたが、この際だからちゃんと釘を刺しとこうという魂胆だった。

勿論、その場に居た研究者達はかの噂の女の子がフィーディの妹とは知らないのでなんのこっちゃである。





to be continued....

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