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只今、作戦会議中

「というわけで、これから会議を始めます!題して【東の国の民会議】!」

「まんまじゃねぇか」


 起きたばかりだというのに何故こんなにも元気なんだとフィーディは妹をげんなりとして見つめた。研究者は朝に弱い。

 一階の食堂に集まった四人を前にして、ヴィクトリアは言い放つ。エイベルのつっこみも少し声が小さめだ。


「まぁ、宿屋のおっさんとかが居なくてよかったよな。朝の礼拝だったっけ?」

「うん。えっとここの町の人皆早起きで、日が昇るのと同時に起きるくらいの人もいるんだって。わたし達の部屋にも朝早くおじさんが来てノックしてくれたんだけど……」

「なるほど、ヴィクターは爆睡だったと。」

「ううううるさい!仕方ないでしょ今までずっと砂の上で寝てたんだもの!暖かいベッドの誘惑に勝てるはずない!」

「はいはい、兄弟喧嘩はそこまでにしとけよー。で?会議っつても、何を話あうっつーんだ」

「簡単よ、これからどーするって話!今後のプランよ、プラン。」

「これから、なぁ。正直、俺ァここいらで手ぇ引いても良いと思ってんぜ。ここの長老に王子様は渡した。これで安全っちゃー安全だろ。護衛の任務も、達成できたっつっても過言じゃねぇ」


 腕を組んでは椅子に深く腰掛け訝しげに斜め前のヴィクトリアを見つめるエイベル。


「確かにそれはそれで賛成だが、研究者としては正直まだここで調べたいとは思うな……」

「おっと、そこは俺達’軍人’の仕事じゃねぇ。今はあくまで仕事の話だ。」

「全く義理も恩義もないのか君は……ヴィクターの同僚とは思えない粗雑っぷりだなぁ…」

「アンタも私用と仕事を混ぜてんじゃねぇ。大体アンタは魔法研究室所属だろ?だったらあの時帰ってりゃあよかったんだ。シスコンこじらせてこんなところまで付いてくるこたなかったわけ」

「身内を心配するのは当たり前だろ!確かに私情が入ってないって言ったら嘘になるけれど、」

「ほれみろ、認めた時点で後は全部言い訳だろうが。」


 殴り合いになってないのが不思議な位お互い喧嘩腰の口調にテフはあたふたしつつ落ち着いてとエイベルの肩を叩く。


「私情っていったらわたしもだし、それはフィーディさんだけのことじゃないわ。ね?わたしだって、勝手についてきてるようなものだし……」

「テフには関係ねぇ、事情が違う。」

「ちょっとそんな言い方しなくてもいいでしょ?!ほんっとデリカシーない男ね。テフ、気にしないでね。」

「……確かにわたしは捨て子だから本当に東の国の人間かもわからないし、たかが森の薬草売りよ。エイベルさんの言う国のことになんか関わりは無いわ。でもここまでついてきて、事情を知っている以上無関係ってわけにはいかないと思うんだけれど。国のことに関係はなくても、今ここにいるあなた達には少なくとも関係あるわ。」


 いつもは控えめなテフだが、言う時は言う。それを身をもって知ったからかエイベルは驚いたように目を丸くしてテフを見遣ったあとフン、と鼻を鳴らしては腕を組みなおす。


「へぇ、いっちょ前に言うじゃねぇか。じゃあ今後のプランかなにかはあんのか?」

「……わたしの個人的意見だけれど、このままもう少し、王子様と行動するべきだと思うわ。わたしから見た見解だけど言っても言い?」

「おぉじゃんじゃん言えよ」

「確か、東の国を離れる時あのエルダさんから、お2人は王子様の護衛を頼まれたわけよね?」

「ああ、そうだな」

「王子様はきっと王様に戻るわ。……でもそうするために危険な場所にいくことくらい私にはわかる。それって、護衛の仕事に含まれないかな。」

「…あ~、まぁそう言われればそうとも言えるな。……だけどあえて言えば、西の国の王族問題に東の国の俺達が関わっちまうってのはヤバい気もするぜ?」

「それについて一言物申させてもらおう。」


 テフとエイベルの議論に割って入ったのはフィーディ。椅子に浅く腰掛け、二人を見やる。


「西の国に来た時に追い掛け回してきたアイツは、’西の国お墨付き’と言ってた。恐らく王かはたまた軍の子飼い、っていう事なんだろう。そいつらが、東の国の侵入者を追っ払うような真似をしていたということは、今の政権では東の国とやる気満々なんじゃないのか?もしくは今の王が死ぬまで国交断絶とか。」

「ありえるわ。流石兄さん、冴えてる時は冴えてるのね」

「まーな。この場合、もう少し様子見、もしくは成り行きを見守ってその結末を将軍に報告すべきだと思う。」

「確かに、筋は通ってンな。うし、じゃあそれでいこうぜ。上手くいきゃ給料上がりそうだしな。」

「お前って現金な奴だなぁ。っていうかあっさりだな。」

「何事もスタラは必要だからな。ま、傭兵ってのは金でなんでもやるもんよ。……それに、俺もあの王子様の結末が気にならないわけでもねぇ。もしかしたらあの王子様に恩売っておいて国交復活も有り得るだろうし、そしたらスタラは倍以上になんだろ!」

「さすがほんとーに元傭兵なだけあるわね。がめつい。」

「そんな褒めンじゃねぇよヴィクター。」

「あ!そのあだ名はやめてって言ってるのに!ヴィッキーにして!」


 ころころと会議の雰囲気も話も変わるが、一応本題は決まったので後はほぼ雑談の時間になりつつあった。

 昔のこと、好きなこと、特技、嫌いな食べ物……そういえば、一緒に旅をしているとはいえイラフェルクに着くまでは緊張感があったのでここまで普通な話題の話をしてなかった事に一行は途中で気付き、この際だと皆和気藹々と喋りだす。


しかし暫く話した後ふと気がついたようにヴィクトリアがあ、と言葉を漏らした。


「そういえばさ。」

「ん?どうしたヴィクター」

「殴るよ兄さん。……あのさ、長老様に私達が東の国の住人だってバレてるんじゃないかなって。」

「……まぁ、あんなお粗末な演技じゃ誤魔化せてないだろうしねぇ…」

「まぁバレてたとしても、軍人であることさえバラさなきゃいいンじゃねぇの?あの長老なら穏便に済ませてくれそうだし。……勿論町のヤツらにはそれさえも禁句だろうけどよ。」

「まぁそうだろうね……。というかここに東の国の熱心な宗教家がいなくて良かったと思うよ…」

「え?なんで?」


 テフは首を傾げるとフィーディは苦笑を浮かべる。


「ほら、昨日長老が話してた、西の国のやつなら誰でも知ってる太陽のおとぎ話があっただろう?」

「うん。」

「あれとほぼ同じような話が東の国にではあるんだ。こっちでは、太陽の神がその信徒を束ねて東の国に攻め入ってきた事になってる。」

「え?!それって真逆と言いうか……。確かにそれじゃ怒るかも…」

「そう。どっちがけしかけてきたかは置いといて、まぁ考古学的な観点からみれば両者に戦争があったことは間違いなさそうだ。あとは宗教観の違いと言うかそんなところだろう。」

「この手の話はガキの頃に聞かされたもンだぜ。……ま、信心深いわけじゃねぇから信じはしなかったがそれこそおとぎ話だとは思ってたな。」


 椅子の背もたれから伸びをするように腕を伸ばしてはそのまま両手で後頭部を支えるようにして体制を楽にし、小さくケタケタと笑った。どうやらあまり神を信じてないようだ。


「確かにエイベルは教会とか行くような感じはしないな。」

「これでも毎週月曜のミサは出てたンだぜ?5歳くらいまでだったがな。」

「月の女神様もこれじゃ~見放すわけだわ。」

「あンだとぉ?あのな、漁師ってのは信心深いンだぜ。」

「エイベルって生まれは漁師なの?」

「ああ、言ってなかったか。俺は東の国の港町、クスタハーヴの出身だ。」

「そうだったんですか。どうして傭兵に?」

「簡単なことだ、家業が潰れたンだよ。俺ァ別に魚釣るのが好きなわけでもなかったし、当時鍛冶屋でバイトしてたからそこで作った大剣担いで手っ取り早く行商の護衛とかして稼いでたわけだ。」

「ほへ~、なんかすっごい経歴ね~。でもなんで軍人になろうと思ったの?しかも優先志願だったでしょ。あれってそれなりに実績があるか学校卒業者しか取れないのに。」

「ハハッ聞いて驚け見て叫べ!俺はあの闘技大会で一回優勝してんだよ。その実績を買われて誘われたんだ。ちょうど定職もほしかったし、こりゃ渡りに船だと思ってよ。」

「な、なんだってー!」

「……ハッ。なんだってー!」

「ヴィクター、棒読みすぎるよ。あとテフはワンテンポ遅いよ。」


 その後ハハハと朗らかに笑いあう一同とは別の音がしてふとそちらへ全員視線をやる。食堂の扉が開いた音だった。


「おや、みなさんお集まりですね。朝食はもう少々お待ちください。準備は出来ておりますので。」

「お。おかえりご主人、朝の礼拝も終わりですか?」


 一同を見た後キッチンへ引っ込もうとする宿屋の主人にフィーディが言葉を投げかけた。すると彼は振り替えてにこやかに笑顔を浮かべて頷く。


「ええ。今日も清々しい朝でして、日によって御山が綺麗に照らされておりましたよ。明日は礼拝に出てみたらどうです?」

「ハハ、そうですね。徹夜せず、そして起きれたら出たいんですがねぇ。ハハハハ。」


 夜型のフィーディは乾いた笑いを洩らしながら頭をかいて言うとそれに釣られてか宿屋の主人も笑いながら徹夜も程々にと言葉を残してキッチンへ去って行った。

 流石にキッチンに人がいるので込み入った話は出来ず、その後は雑談をしながら店主が作ってくれたキュリウとすり潰したポテイモのサラダが挟んであるサンドイッチを食べ、終わればとりあえず長老の家へと一行は向かった。

 太陽に照らされた街並みはそのレンガや石造りも相まって明るく見え、窓のような場所から身を乗り出し商売をする者、棒切れを振り回して遊ぶ子供、畑で食物の栽培をする者、皆すれ違いざまに一行へ奇怪な視線を向けるがそれは仕方のないことだった。

 砂漠の町と言っても植物が全く無いわけではなく、一家に1つは畑があるようで根野菜、芋類などぱっと見ても砂地でも育つものは沢山あるようだ。テフは通りかかる度視線を向け一瞬の内に観察しては歩んでいく。遠くからは、ごうごうと砂嵐の音。


 長老の家に着き、とんとんとフィーディがノックすれば中からはいはいと老人の声がしたかと思えばバン!と不釣合いなほど勢いよく扉が開いた。出てきたのはソレイルだった。


「よ!」

「なっ、!……無用心すぎませんかね。村人だったらどうするんです。」

「そん時はそん時。ほら入った入った!」

「オメーの家じゃねぇだろうが何えらっそーにしてんだよ。」

「あーあー聞こえませーーん!」

「これこれ、王子、学者殿の言うとおりじゃ。少しは用心しなされ。」

「あ!爺ちゃんまで言う!?」


 なんて軽く冗談を言い合いながらリビングに集まる。さて、と絨毯に座ってから長老はソレイルへと視線を向けた。


「学者殿ご一行。今後の王子達の計画じゃが……」

「俺達もお手伝いさせて下さい。」

「なぬっ」

「え?!いいよ、アンタらの使命はオレの護衛、もうここは安全だしあとはオレの問題だから巻き込むわけにも、」

「だからこそですよ。貴方は今後、もっと危険な目にあうかもしれない場所へ行こうとしている。だから見届けさせていただきたいのです。……隣国の国民として。」

「……ほっほっほ、お主達、やはり東の国からの客人じゃったか……。薄々はわかっておったが、まぁ自分達から言うとはこりゃ正直者じゃのう。近年稀に見る好青年じゃ。」


 怒鳴られたり激昂したりするだろうと思って身構えていた東の国一行はぽかんと長老の笑顔を見つめる。


「あれ、出てけとか言ったりしないんですか?」

「なぬ?そんなことせんわい。確かに今の西の国の民の多くは東の国に不信感は抱いておれどそこまでではない。……まぁ、一部は違うじゃろうがのう。」

「一部?」

「10年前、セントコーリスに散っていった者達の身内じゃよ。国家転覆のクーデターを企てたのもその内の過激派だったそうじゃ。」

「そんな!あれは叔父上が企んだ話じゃ、」

「今の政府の発表が、じゃよ。本当は王子が言うとおりシュフラ様が企んだことやも知れぬが、公式発表はこれなのじゃ。……そもそも急な徴兵、理由不明の撤退、敗戦の理由を敵国の新兵器と言う政府の発表に技術力で劣っているとは思えぬ民は国王に不信感を抱いておったのは事実じゃ。」


 当時の事を思い出しながら長老は語る。

セントコーリスの戦い。それは、西側から見れば奪われた遺産の奪還というのが名目だったそうじゃ。こちらからの使者や文を全て無視し無言を貫く東の国に業を煮やした、とも言っておったのう。最初は使者を多く送り、会合の場を設けようとする路線だったようじゃが……いつしか、だったら奪い返せ!という風に国王や技術者達の間では纏まったようでの。そこから戦争を行うまでの準備は国民にとっては何もかもが急じゃった。その時の国民は宗教戦争か何かか、それとも偉い偉い技術者の作品や論文でも盗まれたかと思っておったが、結局何を盗まれたかは明確にせんかったんじゃ。遺産、としか言われなかった。


「西ではそんな風になってたんですね……。」

「うむ。イラフェルクへも徴兵の知らせは届いておったが、まぁ宗教色の強い町じゃ、そこまでごり押しはしてこなかったのが幸いじゃの。」

「宗教色強いって言ってる割には長老は俺達に寛容だよな。ふつー憎き月の女神の興した国の民なんて捕えて処刑とかありえるんじゃねぇの?」

「ふむ、……。まぁ考える輩はおるじゃろう。それこそかの戦争を聖戦と言っておった奴らもおったくらいじゃ。しかしわしは元々争いは好まんし、元よりそこまで視野が狭いわけではない。太陽の男神を崇拝しておっても、真実を見極めようとする眼は曇っておらんつもりじゃ。」

 

 ほっほっほと白い髭を撫でながら穏やかに笑う長老に、一行は頭が上がらない思いだ。


「それにもう20年前になるかの……東の国の考古学者がここを訪ねてきたことがあった。彼はとても博識で、偏った思想も持たず、ただひた向きに歴史の真実を求めている暑苦しい男での。奴から東の国の事は少し聞いておった。まぁ20年も経てば変わっておるじゃろうが……、偏屈になっていては見えるものも見えなくなるというものじゃよ。これ、年寄りの知恵じゃ」

「ハハ、こりゃ確かにいい知恵だな。」

「恩に着ます、長老さん」

「ただまぁ町の者には言わん方が賢明じゃろうなぁ……。この町の者がいくら穏健派とはいえ、快く思わない輩は多いじゃろうからの。」

「ええ、そのつもりです。」

「うむ、気をつけるのじゃぞ。……おっと、どこまで話したか、……おおそうじゃった、次は戦後の処理についてじゃな。」


 草原の悪雲が立ち込め始めたのは軍が引いてからすぐのことじゃ。政府からの正式発表は先も言うたが、東の国による新兵器によって撤退。締めには今後も技術力には一層磨きをかけて追い越すようにという励しまであった。

 しかしその話にそれまでちょこちょこじゃが貿易をしていた商人や行商ははて?と首を傾げる。東の国が到底そんな文明など持ってるとは思えなかったからじゃな。まぁ秘密兵器として秘密裏に製造されてましたと言われればそれまでじゃが……まぁその商人たちの噂が広まったのとほぼ同時に、悪雲の噂も広まった。亡霊がさ迷うなど、まぁおおよそ死者に関する怪談話が主だったが目撃者や襲撃者がでた為に皆本当だと思っておるようじゃな。今は人っ子一人あそこを通ろうとは思わんわい。


「う~ん、やっぱり西でもあの雲の噂はあるのね。」

「2大国分の思いの塊ならあの分厚い霧も頷けるね。」

「思いの塊?それはどういうことかのう?」


 テフとヴィクトリアは自分たちがあの草原をどうやって渡ったかをかいつまんで説明した。そしてテフの祖母から教わった魔法の原理も簡単にだが説明する。

 すると長老は深く頷きながら聞き、終わればふむ、と思案顔になるが一人納得したように頷いた。


「なるほど。その賢人の言葉、中々真理を突いている。感服じゃわい。」

「えへへ、そうですか?」

「うむ。テフちゃんのお婆様はさぞ聡明なお方なんじゃろう。」

「そんなことないですよ~。いたって普通の、でも自慢のおばあちゃんです!」

「ほっほっほ、仲好きことは良い事じゃ。」

「……まぁ、そんなこんなで俺らは東から西へ、セントコーリスを渡ってきたってワケだ。」


 西の政府の発表と、一行の経緯をまとめれば皆一斉にため息が漏れる。


「さぁて、どうしたもンかねぇ。西の国の現状はわかったが、作戦を考えるっても……」

「あ、ねぇねぇ長老さん!王族の目や髪が金色なのは、西の国の人皆知ってることよね?」

「うむ、常識じゃな。」

「じゃあもうヘルメットもゴーグルもつけずに堂々と首都に行ったら?ぱっと見ですぐあ、王族だってすれ違う人やお役人さんはわかるんじゃない?」

「それは少々リスクが高い気がするのぅ。」

「……長老様、西の国の首都の構造はどうなってます?」

「王城を中心に円が連なるように壁が各層を区分ける三重の構造となっておる。一番外側は’外層’と呼ばれ、科学者や技術者が捨てたガラクタの溜り場で、鍛冶屋や資材屋、あとは孤児が多く住んでおるのう。次の門をくぐると’中層’、普通の人間ならばここで暮らしておる。あと商店、特に飲食物となるとここに店を構えるのが多い。次の門をくぐれば’深層’、実績がある偉い科学者や技術者が住み、工房を構えておる区画じゃ。そして中心に王城、カディドハスル。こんな感じかの。」

「各層へ行く時には必ず検問する必要があるんですか?」

「うむ。必ず層を移動する時は門を潜る必要があるからのう。…あ、だが深層から中層、中層から外層等内側から外側へ行く時はほぼ素通りできるんじゃ。商店の多い中層へ買い物に行く深層の科学者などがおるから一々検問しとったら日が暮れてしまう。」

「なるほど。……では、こういうのはどうだろう。」


 計画の提案をしたのは、今まで沈黙していたヴェルだった。流石に室内だからかいつもの黒いフードは被らずに、ソレイルの斜め後ろを陣取って座っている。


「ここから首都へ出荷する荷に王子を隠し、私達は商人を装って首都へ入りましょう。外層を通り抜け、行動を起こすのは中層です。そこで出荷物を商店へ卸し、王子は顔を見せた状態で中層内を歩きます。勿論、何食わぬ顔で。そして深層へ行くための門は正々堂々、名乗って通る。……一度中に入り人目に晒してしまえば、こちらをつまみ出すような事はしないでしょう。国民の目を味方にするのです。」

「確かに、その後秘密裏に王子を処刑しようとすれば王子はどうしたと国民の反感を避ける事は出来ぬか。確かにそれなら現政府も慎重に対応せねばらなぬだろうから身に危険が迫る事も……むむう。やはりそういう方法しかないかのう。」

「ま、オレが隠し通路使って一人城内にいって正体バラすよりマシなんじゃない?」

「そんな危険な方法取らせられるわけないでしょうが。もうちょっと考えて下さい。」


 さすが付き人なだけありヴェルのソレイルを嗜める手腕はたいしたものだ。ため息を吐きながらも話をまとめていく様はさすが年長者といったところか。


「じゃあ、作戦はそれで決定ね!私達は商人のフリをすればいい?」

「うん、そうだね。……ああ、でも城内に入ってからも正直なところ心配なんだ。いくら王子の頭の中に城の地図があるとはいえ、多勢に無勢は変わらないからね。」

「……では何人か潜伏しておいたらどうだろう。先程王子が仰った隠し通路に、俺達がそこに潜みます。もし城内で騒ぎが起きていると感じたらそこから出て加勢する、と。」

「あ!それいーじゃん。そうしようぜヴェル。ヴェルの腕の力使って危なくなったら合図出してさ。」

「合図と言われてもですねぇ……、まぁ、風の力を使えば出来なくはないか……。では中層に突入するまでは先程の案で、荷を卸した後に別行動といこう。メンバーの振り分けは、君達一行と我ら2人でいいだろう。」

「おいおいおっさんアンタだけで王子の子守大丈夫かよ。」

「フフ、まぁ伊達に何年も守ってないからね。だが危ないと思ったら遠慮なく呼ばせてもらうさ。では王子、隠し通路の場所を。」

「うん。隠し通路は、中層の最東端にあたる場所の壁から城内のオレの部屋の暖炉まで繋がってる。オレが使ってた頃はその壁の周りは空き地だったんだけど……今はどうだろう。地面に接した壁の隙間があるから、そこに軽く指を突っ込めばレバーがある。それを引けば隠し扉が開くってワケ!あとは行き止まりまで歩いてけば城だぜ。」

「ふむふむ、中層の最東端の壁。地面に接したところに隙間があってそこにレバー、と……。わかりました。」


 コートのポケットから小さなメモを取り出しフィーディはメモを取る。書き終わればそれをしまい、王子を見遣って頷いた。


「うむ。これで作戦は一応整った事になるのう。……ヴェル殿、それに皆さん、王子を頼みますぞ。」

「がってん承知!任してといてよね長老さん!」

「はい、わたしも頑張ります。」

「っておいおい、マジでテフも来るのか?お前非戦闘員じゃねぇかよ。」

「こう見えてもわたしだって魔法使えるもん、少しは役に立つよ。」

「ほほぉ、一体どんな魔法が使えるんじゃ?宝石か?魔道書か?」

「あー、……えっと~…」


 長老の質問にすーっと視線をそらすテフ。最終的にはその視線はフィーディに行きつき、小首を傾げて見せれば、フィーディはため息を一つついた後頷いた。

 テフはスカートの下、包帯のように布を巻いている膝の部分を長老に見せた。


「実は私……」

「こ、これは御印ではないか…!まさか神子じゃったとは!」

「あれ?忌み子じゃないの?」

「御印を持って生まれた子は神子と呼ばれておる。部族によってその扱いはまちまちじゃが、敬われ崇拝されるのは確かじゃよ。魔法の力は神の力、それを宿す人の子を介して神と対話を試みておる部族もおるくらいじゃ。」

「東とは大きな違いね……。」

「いやしかし……まさか神子に会えるとは……、」

「ちょ、長老さん、そんな拝まなくても…!」

「いやぁ年頃の娘のナマ足などそう拝めんからのう。」

「ただのスケベ爺じゃねぇか!!おいコラ!!」

「ホッホッホ冗談じゃ冗談、イッツジョークじゃ。まったく大人の遊び心がわからん男じゃのう傭兵殿。……しかし神子殿、その御印は他の人には見せんほうがいいじゃろう。祭り上げられて大変なことになるぞ。」


 吠えるエイベルをあっさりスルーし忠告をする長老に気をつけますと苦笑しながら言うテフ。フィーディとヴェルは呆れ気味だがソレイルとヴィクトリアは何故か腹を抱えて笑っていた。


「じゃが神子殿がいるならばお主は待機ではなく王子と共にいった方がいいかもしれんのう……」

「え、わたしも?なんで?」

「神子も王の血族も、神に連なる力を持っておる。王子だけでもわしは信じるが、中には王子だけでは本当に王族か信用しない者もいるはずじゃ。その時に神子殿が自分は彼が王子だから協力していると言えばかなりの信憑性になるじゃろう。」

「なるほど、身分の保証になるのね。だったらわたしも王子様と一緒にお城へ行くわ。」

「しかしテフ、」

「お城見学だと思えばいいもの。それに長老さんのお話を聞く限り、多分露骨に危害を加えたりしてこないと思うし……。何かあったら根っこ呼び出して平手打ちしてあげるわ。」


 渋るヴェルにね?と笑顔を見せるテフにむむむ、と少し考えるもののヴェルは仕方ない、と頷いて見せる。


「アハハハ、そうそうその意気よ!テフもたまにはバチンとぶちかまさなきゃ。」

「お前みたいにがさつに出来てないんだから勧めるなよ……。というか、やっぱりテフの魔法は植物?」

「うん。お花とか木を呼び出したり、後はちょっと話しかけて言うこと聞いてもらったりすることとかかな。他にも沢山使い道はあるし何かと便利だと思うの。」

「ホッホッホ、木の女神ドリュアディケの加護を受けし神子じゃな。いやぁ縁とは不思議なものじゃ……これもライェンのお導きかもしれぬ。」


 両手を合わせてテフを拝んでは一また礼をする長老にあたふたしながら頭を上げさせ、テフは膝の印をまた布に包んで隠す。

 忌むべき子は神子でもある。その現実を、テフはとても不思議に思った。住む場所が、信仰するものが違うだけでこんなに他の人に影響があるだなんて。

 その信仰は人を幸せにもし、か弱き幼子を殺したりもする。そんな現実を目の当たりにして、どこか、胸のどこかがテフは痛んだ気がした。


 その後いつその計画を実行するかも話したが、昨日話した通り砂嵐が収まる日、一週間後の決行になった。その間は皆自由行動というわけだ。


「そう言えば砂嵐の仕組み、教えてくださるとの話でしたが!」

「落ち着いてよ兄さん……鼻息荒いよ。」

「うむ。お主たちなら教えても良いだろう。付いてきなさい。」


 よっこいしょと長老は重い腰を上げて一行を導く。石造りのリビングを抜け廊下の突き当たり、重々しい石と木枠の両扉を開ける。下へと続く階段が現れ、ぼんやりした仄かな明かりを頼りに一行は長老の後に続いてその階段を下りていった。

 暫く降りた後、幅が狭かった階段は開けた場所へとたどり着く。そこには壁は全て本棚で、それが囲むように中央には1つの台座、そして今その台座の上では本が一冊見開きで置かれており、その数センチ上の空中で人の拳ほどの綺麗な黄緑色の石がふわりと浮いては時折回転していた。

 その石は淡い輝きと緩やかな風を纏っており、見開きの本に書かれた文字は時折それに呼応するよう光ったかと思えば勝手にページが開いていく。

 その光景に一行は唖然としていた。フィーディにいたってはぽかんと口を開けていた。



「これが神の砂塵の正体じゃよ。……わしは’風神の涙’と’砂岩の魔本’と呼んでおる。」




to be continued...

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