たいふう
試合はプリンス達の大活躍のお陰で大勝した。
もっぱら白衣のプリンスは「どうやって巨大ロボットを実用化するか」についてのほうが重要だったらしいのだが。これについては別の機会に話すことにして。
試合後。
きゃあきゃあと群れる女の子たちを尻目に、私はいそいそと退散した。
空くんに試合を見にきているという事実を知られたくなかったから。
じゃなくて、本当は……
「空ー。差し入れだよ?たべてねっ!」
「おう、さんきゅ。ありがとな。」
なんて会話を、目にしたくなかったから。
と言いつつ、既にきこえてきているんだけど。
「いいの?ゆあ。あれらほっといて。」
蝶空が私を追いかけてくる。
「うん。いいの。付きまとわれても、迷惑だろうし。私はこのままで……」
「ぜんぜん良さそうな顔、してないけどなー」
蝶空の言葉が的確に胸を刺した。
本当は。
すっごくイライラする。こっちを向いてくれないことに嫉妬している。そんな黒い自分が一番嫌いだ。
自覚してるんだよ、もう。
私、空くんが好き。
思った瞬間、涙が勝手に溢れてきて、隣を歩く蝶空をびっくりさせた。
「うわ!ゆあごめんて!なんかわかんないけどごめん!」
「ちが、う、の。ちよちゃん、の、せい、じゃ、なくて……」
ごめんね、うまく言えない。だけど、切ないの。
しばらくして涙は止まったけれど、心の疼きは、収まることを知らなかった。
次の日曜日は、前日によく似た晴天だった。こんな時はフルートの練習をするに限るのに、部活は今日も無い。仕方なく家で練習しようかとも思ったけど、誰に聞いて貰えるでもない自主練はすぐに飽きてしまって、モノの一時間で断念した。
勉強しようと思っても手に着かないようなこんな時は。
肺活量をつけるためにも、走りに外に出ようか。
と思ったのがあたしの運のツキだった。
「あっつっ……」
外は初夏。
いつも長距離を走るのは朝方だったから気にならなかったけど、よく考えたら今は日が高く上がっている時間帯ではないか。
もういいや。私の目的は脚力の向上じゃなくて有酸素運動の消化。暑いせいで体力は存分に使えただろう。ものの10分でダウンした言い訳をしつつ、帰ろうと思ったその時。
信じたくないような光景が、私の目に飛び込んできた。
河川敷でドリブルを繰り返すサッカー青年と、それを横で見守るショートカットの女の子。あれは……
「空くん、と、蝶空ちゃん!?」
なん、で?
考えたくないとショートしてしまった思考回路。頭が真っ白になる。
同時に、「ああそうか。」なんて妙に納得してしまう自分がいた。
どうして蝶空がサッカー部の内情に詳しくて、一人ひとりのプロフィールに詳しかったのか。
「なんで今日は学校じゃなくってここで練習することにしたの?」
聞きたくないと思うのに聞こえてくる会話。
「今日は」ってことは、いつもも知ってるんだ。自然と考えることはそちらへと向いてしまう。
「うーん。気分。」
「気分ってなんだそれ……」
動きたいのに、動けないのはなぜ?
「ところでさ、昨日の試合。」
「ん?」
「姫城さん来てなかった?」
ほんとに、ほんとに、どうしてこの人は。
私の予想のはるか上を越えた発言をしてくれるのだろう。
心臓がいくつあっても足りない。
「来てたよ。ゆあ。」
「だよね!?やっぱり俺の見間違いじゃなかったんだよね?」
気付いてたの!?
「俺、試合中にふっと見えたから確認したくて。だけどすぐいなくなっちゃったでしょ。姫城さん、やっぱり来てたん……姫城さん!?」
私は心底、この会話を立ち聞きしていたことを後悔した。
同時に、立ち聞きに気付かれたと判断した時点で、私は訳も分からずその場から逃げ出した。
「姫城さん!ちょっと待って姫城さん!?」
その声は、すぐに聞こえなくなってしまった。
終盤にさしかかってきましたよー。