君と桜とラブソング
いかにも童貞って感じの少年を書きたかったんです。
特にストーリー性もオチもありませんが、
少年のナイーブで気持ち悪い心情描写に力を注ぎました。
そういえばこのあたりは桜の名所だったな、
と僕は長い坂を上る途中で思い出した。
僕は桜が、というか花が好きというわけではない。
花なんか見たってなんにもならないじゃないか……そんな風に考えていたフシがある。
けれども改めて見てみると満開の桜を風が揺らしている光景はなかなか壮大で、
僕の足を止めるには十分すぎる魅力をもっていた。
でも僕はその桜を眺めていると、
どうしようもなくいたたまれない気分になってしまうのである。
それはきっと彼女のせい。
桜の花のように可憐で美しく、優しい彼女。
おそらく、僕の初恋の人。
恋なんて無縁な人生を送ってきたのだと自分でもはっきりと分かる。
みっともなく慌てふためき、自分の感情が理解できず一人で苦しんだ。
でもそれが恋というやつなのだろう。
自分でも驚いた。まさか今まで勉強だけしてきた僕が恋をするなんて。
でもそれが少し嬉しくて、ただの収監所でしかなかった学校を少し好きになれた。
そんな自分が照れくさくもあったけれど。
とにかくもう僕は彼女のことが好きで好きで仕方ないようなのだ。
しかし僕は彼女と付き合いたいとか
肉体的接触がしたいとかそういうわけではなくて、
ただぼんやり彼女を眺めながら音楽なんぞ聴いてるだけで満足なのだ。
……なんて言ってみても結局ただの強がりでしかないって、自分でも理解しているけれど。
気がつけば僕は結構な時間その場に立っていたようで、
坂を上る学生たちの数はずいぶん少なくなっていた。
そういえばさっきまで僕の耳の中で流れていた騒がしいロックは
いつのまにか切なげなラブソングへと変わっていた。
恋焦がれて意味も無いのにラブソングを買いあさった。
でも赤の他人の歌う恋の歌なんかじゃ僕の心は全く動かないようで、
そこいらの女どもの下らない世間話に付き合えるほどに
歌手の名前を覚えたわけでも、
お気に入りの歌手を作ったわけでもない。
ただ一曲だけミュージックプレイヤーのお気に入りリストに
登録しているのは彼女が好きだといっていた曲。
たまには登校中にクラシック以外も聞こう、
そう思って気まぐれでその曲を再生してみた。
やっぱりどうしても好きにはなれない。
声も、歌い方も、どストレートな歌詞も。
でもたまにはこんなのもいいか、なんて納得しつつふと腕時計に目をやる。
そろそろ彼女が来る時間だな、と思い自然と笑みがこぼれた。
以前までは毎日早めに登校しては図書館で暇を潰していたわけだが、
彼女がいつも遅れて来ると気づいてからはこうしてここで桜を眺めながら時間を潰している。
我ながら気持悪い。ストーカーじゃないか。
偶然を装って彼女を追い抜いて、ただ一言「おはよう」と交わす。
ただそれだけの事を生きがいにしている自分が厭になる。
けれどそんな自己嫌悪は彼女がこの坂のすぐ上の道を通るのを見つけた瞬間に吹き飛ぶ。
目一杯ミュージックプレイヤーの音量を上げて、坂を早足で上る。
「君もその曲聞くんだ」
その一言を内心期待しながら。
小説についてはほぼなにも書いてませんが、
もしよければブログもご覧下さい。
http://ameblo.jp/fujima-monogatari/
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