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その娘の顔は最期まで

性格の悪い女が完全勝利する話なので苦手な方はご注意下さい。

 私のお父様は可哀想な方だった。

 子爵家の次男坊として産まれた彼には双子の美しく病弱な兄がいたの。

 両親の関心は全て伯父に向かい、お父様は蔑ろにされていたのよね。お父様は容姿は平凡でも健康で優秀な方だったから、手がかからなかったせいで余計に。

 私の祖父母に当たる人達はそのつもりじゃなかったらしいけど、どうせロクに挨拶もできぬ伯父の誕生日は盛大に祝うくせ、お父様は誕生日すらいつも忘れられてたんだって。

 そう言いながらお父様は私とお母様のささやかなお祝いに毎回涙ぐんでいたわ。

 病弱だったけど、伯父が長男であることは絶対変わらない。だから伯父がいる限り、お父様は子爵家を継ぐことはできない。

 だけど伯父は十を迎える前に命を落とすと、どの医者も口を揃えて告げていた。だからお父様は子爵の世継ぎ教育を早々に身に付けた。

 にもかかわらず、伯父は十を過ぎてなお、しぶとく生きながらえてたの。それどころか徐々に健康体へと育っていった。なんて生き汚いのかしら。さっさとくたばっておけばよかったのに。


 貴族は皆、成人と共に三年間学園に通うことが決まってるのよね。

 そこでお父様は伯父とは違って、優秀な成績を収め、学年の首位を維持し続けてたのよ。

 それでもなお、祖父母達の感心は変わらず伯父へと注がれるばかりで、お父様は一切顧みられることはなかったの。お父様のお友達の皆様から、何度も聞いてるわ。酷い話よね。

 ただ幸いなこともあったの。お父様は学園で身分を問わず多くの友人を得たわ。そして最愛のお母様とも出会ったの。

 平民でありながら奨学枠で入ってきたお母様は商家だったから、お父様は卒業後に婿入りする予定だった。

 貴族としての教育が無駄になるとしても、平民となり新たに商人として一から学ぶ必要があっても、お父様は喜んで商家の婿としての知識を身に付けたの。

 だって伯父がいる限り、お父様は子爵家に居場所などないんだから。まあ伯父がいなくなっても、できなかったんだけどね。


 でも伯父が卒業を目前に急死したことで、すべてが狂ったの。

 それだけであればまだ取り返しがついたのにね。

 お父様はご友人を通して様々な家の当主の方と交流を深めてた。だから万が一、子爵家を継ぐ事態になれば、ご友人の家にお母様を養子として迎えいれる約束も取付けていたのよ。

 ええ、お父様は伯父なんぞと違って責任感のある方だから、己はスペアだという自覚を忘れてなどいなかったの。いざという時の備えをちゃんと用意していた。

 でもまさか伯父に高位貴族の秘密の恋人がいて、それもその女が身ごもってるなど、さすがに想像できるはずないわよね。平民の私だって初めて聞いた時びっくりしたわ。


 侯爵令嬢が私生児を生むなんて、家が傾きかねないほどの醜聞なんですってね。

 でも責任を取らせようにも当の伯父は死んでいる。だからお父様が侯爵家に婿入りさせられることになったの。

 子爵家の世継ぎだという主張は侯爵家の圧に屈した祖父母が親戚から養子を取ると宣言した為に潰されちゃった。

 純潔が重視される身分でありながら婚前に体を許すようなアバズレ、母子ともども潔く修道院にでも行けばいいものを。その身持ちの悪さと根性しっかりたたき直してもらえばよかったのに。

 抵抗すればお母様や友人達が手に掛けられるかもしれない。かといって真実を知らせることすらも危うい。

 だからお父様は周囲から裏切り者、婚前交渉をした馬鹿者とありもしない汚名を背負わされても、黙って侯爵家へと入ったの。

 

 妻となった女をお父様は徹底的にないものとして扱ったわ。

 当然よね。憎き兄の子供を孕み、大切な友や愛する恋人から引き離した女を許せるはずないわよ。

 にも関わらず令嬢についてきた家令やら従者達はお父様に口答えしたんだけど。

 お父様は完全に被害者でしょうが。侯爵代理として仕事をこなしていただけありがたいと思いなさいよ。

 母親の命と引き換えに子供が生まれたのを機に、前侯爵がちょうどくたばったこともあって、お父様は仕事を終えた後、街へ繰り出すようになった。

 それにもアイツらはごたごたぬかしてたらしいけど、血の繋がらない子供を虐げず、ちゃんと次期侯爵として育つよう教育係を付けただけでも過ぎた温情だと思わない?


 そうして街で束の間の休息を楽しんでいたある日、カフェで働いていたお母様と再会したの。

 お母様はくたびれたお父様を心配こそしても、突然何も言わず別の女と結婚し子を設けたにも関わらず、責めるような真似は一切しなかったんだって。

 何も言われずとも、ずっとお父様を信じていたの。真相を聞いたお母様はお父様のこれまでの苦労に涙したんですって。これこそ真実の愛ってやつよね。

 お父様は街に家を買って、家令達に仕事を引き継ぐとお母様と暮らし始めたわ。

 ちゃんとお父様は約束を守ったにも関わらず、お母様の家はどこぞの貴族に潰されていたんだもの。そんな血も涙もない外道の元に帰りたがる物好きいるはずないわよね。


 お母様との生活が始まって一年が過ぎた頃、私が生まれた。

 お父様は全権を任せていたのに、代理のお父様じゃなければダメだって言われてしばしば本宅に戻っていたけど、殆ど私達の家で一緒に過ごしてくれたわ。

 ……それで満足してたらよかったのに。今思えば、私があんなこと言わなければこんなことにはなってないのよね。ごめんなさい、お父様、お母様。

 私が街の空気が合わなくて、試しに本宅の方に連れて行ってもらったら喘息が治まったの。

 それにまるで絵本に出てくるみたいなお屋敷だって私が気に入って、ここに住みたいって行っちゃったから。

 だから、お父様はお母様と私と共にここに移り住んだのよね。

 ええ、お父様は自分のせいにしてたけど私が原因よ。お父様は身を挺して我が子を守れる立派な人だから。どこぞの種と迷惑だけ撒き散らしたどっかの馬鹿と同じ血を引いてるなんて信じられないわね。


 移住して間もなく血の繋がらない姉を紹介されたけど、がっかりしたわ。

 だって侯爵令嬢でしょう。性格はともかく、きっと物語に出てくるお姫様みたいな美人なんだろうな~って楽しみにしてたのに、実際に出てきたのが顔つきは派手だけどキノコでも生えてそうなジメジメ鬱々した地味な根暗女なんだもの。私が世界で一番不幸ですみたいな顔してばっかみたい。

 それでも私、その女のこと、いじめたりしなかったわ。内心蔑んではいたけど、手を出したり言葉にはしなかった。

 お父様に散々聞かされてたもの。貴族は怖い。特に高位のものほど理不尽で身勝手だって。

 だからどんなに気に入らなくたって虐げたりしなかった。ひたすら避けて関わらなかった。

 ――なのに、まさか身をもって体験することになるなんて思わなかった。


「あとはアンタが目論んだ通り、こうして一家揃って牢屋行き。満足した? オネーサマ」


 なーんにも知らないくせに、実親の業のわりに充分過ぎるくらい恵まれてたくせに、ひたすら被害者の私達を恨んでたなんて滑稽ね。アンタが恨むべきは身勝手で救いようのない馬鹿な実母と実父だったのに。

 というか公爵夫人って暇なのね。もうすぐ斬首台に乗せられる罪人の元へわざわざ足を運ぶなんて。

 私が訊ねているというのに檻の向こう側の女は青ざめるばかりで何も言わない。

 平民の質問なんて答える必要はないってことかしら。うわ、性格悪。


 入学前に婚約破棄されたこの女は私が通えなかった学園で公爵令息に見初められた。

 まあ母親似の派手な顔つきは受ける相手には受けるものなんでしょ。蓼食う虫も好き好きってやつ?

 その悪趣味な男は思い込んだら一直線の考えなしで、いかにもお父様が語る貴族らしい男だった。

 お父様はちゃーんとこの女に教育を受けさせたし、お金も渡してたわよ。それも侯爵代理の仕事ですもの。本宅に戻ってからはちゃんと全面的に行うようにしてたのよ。

 この女が地味なドレスしかもっていないのは単にセンスがないだけ。仮にも侯爵令嬢なのに成績が悪いのは単純に頭のできの問題。元婚約者が私に惚れたのはこの女が好かれる努力をしなかったから。

 なのに全部この女の夫は私達が侯爵令嬢を虐待しているのだと決めつけた。私達は正式な跡取りを虐げ、侯爵家を乗っ取ろうとした大罪人と、そう世間に広められた。

 冤罪でも覆せないことはわかってたから、お父様とお母様は必死で私の助命を嘆願したけど一蹴したの。

 ただお父様には悪いけど、あの男の陰湿さからして、もし生き残ったら罰とか称して、どこかのヒヒジジイに嫁がされてただろうから……今の方がマシだわ。まったく、どっちが冷血人間よ。


 そもそものっとりなんてできるわけないのに。お父様以外の貴族ってホンット馬鹿ばっかり。私、お母様の私生児で平民だったのよ。お父様は認知したくても、それこそ疑われかねないから我慢してたのに。

 まあ平民だったおかげで、この女の元婚約者は即座に逃げていったのだけは幸いだったかも。

 一応、未来の家族ってことで最低限にこやかにしてただけなのに好きになるなんて、どれだけこの女、元婚約者への対応手を抜いてたのかしら。

 平民は兵役があるから貴族と違って、私生児でもそんなに悪い扱いは受けないのよね。

 お父様はこの女が卒業して侯爵家を継がせたら引退して平民として暮らすはずだったのよ。そうして本当の意味で私はお父様の娘になれたのに。


「……質問に答えてないわ、メリエル」

「そうだっけ? ああ、なんで今から処刑されるのに幸せそうなのか、だっけ」


 女がだんまりだったから色々考えを巡らせていれば、見ててうんざりする陰気な表情で女が訊ねる。

 アンタの旦那、思い込みが激しくて今はよくても、もう少ししたら嫌になってくるでしょうね。あ、もしかしたら既に嫌気がさしてるんでしょ。

 だから私が処刑間近なのにパニックになったり、泣いたりしてないのが気に入らないんだ。あるいはこんな状況でも前向きでいられる方法が知りたいってところか。そっか、そっか、そうなんだ。

 納得した私は、お母様にそっくりな優しくて楚々とした美貌で、最高に可愛らしい笑顔を見せた。


「教えない。そうやって一生不幸面してろ、ブス」


 同じ方法で同じ時間帯に殺されるんだもの。

 幽霊になったら、もうこれまでのしがらみは全部ない。

 だからもうお父様とお母様は引き離されることはないし、私も大好きな家族と一緒にいられる。

 きっとアンタは言ったところで理解できないでしょうけど、違う形でずっと抱いていた夢が叶うの。それってこの上ない幸せでしょう?

ざまあ対象に事情があるとつい同情してしまうので、できればとことんクズでいてほしいなあ→いっそざまあされる側視点で書くかあ……と思いながら書きました。

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― 新着の感想 ―
子供に罪は無い、と言って許される年代までだったら、この姉もクソ過ぎる実父実母と祖父母の被害者だったでしょう。 しかし妹が結婚できる(させられる)年齢になってまだ頭お花畑では……。 強いて言えば主人公の…
まえがきの通り、とんでもなく胸糞悪い話でした。これは酷いw 物語が終わった後で、クソ公爵子息とクズ女は盛大にざまぁ死すればいいのに。
ざまぁされる側が可哀想すぎる 旦那にドレスを贈られてるうちは気が付かないだろうけど 溺愛が落ち着いてから、あれ?妻の服の趣味なんか悪くね?って気づくんかね?
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