7. エンディングにはまだ早い
「胃が痛い……」
怒涛の一ヶ月が過ぎ、学園に入学する当日を迎える。あれから、父は完全回復を果たしたようだ。これで安心して学園に入学することが出来る。
「想定外のことは多かったけど、これで一応はゲーム通りのスタートになるかな……」
俺のスキルを始めとして細々としたところが違うが、それがどう影響を及ぼすのかまではまだわからない。
「アルベルト様、支度が整いました」
思考に耽っていると、扉の向こう側から声が聞こえてきた。
「そうか。すぐに向かう」
そう返事をしながらふと思う。この口調にも慣れてきたな、と。これが単純な慣れによるものなのか、精神が肉体と同化しつつあるのかは定かでは無いが。
それでも偶に話し方が恥ずかしいと思う時はあるけど。
「この部屋に戻ることはしばらくないのか」
扉に手をかける寸前に、そう思い振り返る。無くなったものはないはずなのに、どこかガランとしていてもの寂しく感じた。
学園には寮があり、そこに住むことになる。だからここに戻るのは夏休みか、あるいは――。
「……そんなことにならないようにするんだろうが、俺」
らしくもなくセンチメンタルになってしまった。
俺は気持ちを切り替えて、部屋の扉を開ける。すると部屋の前でずっと立っていたのだろう、フェリシアの姿があった。
「行くぞ」
「はい」
フェリシアも学園に連れていく。
貴族は学園に身の回りの世話をまかせる使用人を数人連れてくることが出来るのだ。マギアカではアルベルトは誰も連れていなかったが、俺は自由に使える手札として彼女を連れていくことにした。
「例の親戚はどうした」
誰もいない長い廊下を歩きながら、隣のフェリシアに問いかける。
「取り潰しとなったそうです。その後は消息不明。調査致しましょうか?」
「必要ない。どうせ生きてはいまい」
リリスからの手紙に書かれた情報と一致する。
これで、アメリアルートの中ボスは退場したことになるな。シナリオの影響が気になるが、今回の黒幕貴族はアメリアルートのみの登場だからそこまで影響はないだろう。
「……アルベルト様は何を目指しておられるのですか?」
「それを言う必要は無い。貴様は俺の手足となり、目と耳となることのみに注力しろ」
「出すぎた真似を致しました。申し訳ございません」
俺の目的は主に二つ。
一つ目は、俺の破滅を防ぐこと。これは主人公やヒロインからのヘイトをためなければ大丈夫のはずだ。
二つ目は、主人公の育成をすること。俺の破滅を防ぐために、手当り次第にイベントを潰せば主人公は育たない。そうなれば、世界が滅亡させるほどの力を持つラスボスに打ち勝つことが出来なくなる。
頭の中を整理しながら歩いていると、廊下の先で誰かを待っているかのように立つ少女の姿が目に入る。
「あ……お兄様!」
「アメリアか」
彼女は俺の姿を見つけると、嬉しそうな顔をして駆け寄ってきた。
「あ、あの、一緒に学園に行きませんか!?」
耳まで真っ赤にしたアメリアがそう言ってきてくれた。俺としては可愛い子の頼みなら何でも聞いてあげたいところだが、はたして馬車に三人も乗れるだろうか。
そんな考えを読んだのか、いつの間にか三歩後ろに下がっていたフェリシアが口を開く。
「こうなると思い、馬車は四人ほど乗れる大きさのものを手配しました。ご安心ください」
「そうか。それならばアメリア、一緒に学園に向かうか」
「はいっ!」
アメリアとの仲も進展したように感じる。元々、彼女自身も家族と仲良くしたいと考えていたおかげで、話せるようになると自然と関係が修復していったように思う。
その代わり、父との仲は以前悪いままだ。冷えきっているとも言える。
あの事件の犯人が俺であるという誤解は解けたが、疑念は残ったまま。そのせいか、あれから父とはロクに話をしていない。
「リリス様とは今も仲良くしているのか?」
「はい。学園に入ってからも、一緒に遊びましょうと誘って下さり……!」
「よかったな」
「あ、もちろん、お兄様もご一緒に!」
「ああ。……機会があればな」
アメリアならともかく、俺がリリスと遊ぶ機会なんてそうないだろうが。ただ、水を差すのも悪いと思いとりあえず頷いてみせた。
そんな話をしていると、いつの間にか屋敷を出て門の前までやってきた。すると、見知った金色の髪が目に入る。
「ごきげんよう。アルベルト様、アメリア」
「えぇ!? リリス様!?」
「アメリア、私たちは友達なのですから敬称は不要ですよ」
「えと……その、リリス、さん?」
「もう一声」
「え!? えっ……と、リリス……ちゃん?」
「よく出来ました。アメリア」
微笑みながらアメリアの頭を撫でるリリス。
俺はそんな二人の百合百合しい様子を無視して、後ろのフェリシアにどういう事かと視線を向ける。
「先ほど申し上げた通り、四人でも余裕を持って座れる馬車をご用意しました」
「ほう。俺はリリス様が来ているとは聞いていなかったがな」
「申し上げておりませんでしたから」
普段の鉄仮面を崩さずにさらりと言ってのける。おのれフェリシア……!
「それよりもアルベルト様、挨拶が返ってきていないのですが」
「……息災のようで何よりだ。リリス様」
「ええ。アルベルト様がお元気であることは聞き及んでいます。何やら楽しそうなお遊びをしていたそうで」
笑顔のはずなのにどこか怖い。というか、怒っているように見える。
恐怖からジリジリと距離を取っていると、ニッコリと笑顔を浮かべたリリスが口を開いた。
「積もる話は色々とありますが、馬車に乗りましょうか」
「そうですね、リリスちゃん」
「アメリアさん、もっと砕けた話し方でいいのですよ?」
「そ、そうだね、リリスちゃん……?」
「さすがですね、アメリア」
続々と馬車に乗り込んでいく。俺はこれからの道中に気負いをしながら馬車に乗ろうとしたところで、扉を開けていたフェリシアが問いかけてきた。
「アルベルト様。忘れ物はございませんか?」
足が一瞬止まる。
これに乗り込めば、俺は否応なしにゲームの舞台に足を踏み入れることになる。破滅エンドに続くキャラクターとして。
だが――。
「――ああ。何も無い」
一歩前に踏み出した。
俺には『原作知識』がある。これからの展開も知っている。これまでにやれるだけの事をやった。これからも打てる手はすべて打って、破滅エンドから逃れるつもりだ。
かかって来やがれ運命よ。
お前が俺を破滅させようとするのなら、俺の都合のいいエンディングに書き換えてやる。
――大団円のハッピーエンドに。
これで一章は終わりとなります。
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