5. 唐突な濡れ場は死亡フラグ
――アルベルトの父親が倒れ、亡くなるイベントはマギアカにおいて中盤のイベントだ。
「当主が居なくなったヴォルフシュタイン家は当主代理として出てきた親戚に乗っ取られる、と」
それにアルベルトは怒り狂い、忌み嫌っていた自身のスキル『堕落の契約』を使ってしまい、暴走。主人公とアメリアのパーティーに討たれる、か。不幸の連鎖だな。
「今回は俺の暴走は考えなくていい。あとは親戚だが……学園に行くまでは大丈夫のはず」
問題は俺が学園に行ってからだが、そうなる前に何かしらの決着はついている。今は考えなくていい。
「直近の問題は……これによるシナリオの影響と父上を死に追いやった犯人探しだな」
まだ死んではいないが。ただ、あまり悠長にはしていられない。原作のイベントが早まっただけならば、父の命のリミットは十日後。それまでにどうにかしなければ。
「俺のスキルが役立ってくれるといいのだが……」
俺のスキル、『縁結び』。これは互いの同意の上で結ばれた契約を遵守させる効果を持つ。犯人を特定して父を治すと約束させることが出来れば、父を助けることが出来る。
「……助けられるのか、俺に」
わからない。でも、やるべきことは決まっている。なら俺はやるべきことをやるだけだ。
シナリオが書き変わるのであれば、俺は都合の良いように修正しつつ元に戻すだけだ。
☆ ☆ ☆
――あれから九日の時間が過ぎた。
「アメリア。話がある」
扉を叩くと、ドタバタと中から音が聞こえる。そして、恐る恐る扉が開かれた。
「おにい……さま?」
「悪いが部屋に入れてくれ。人に聞かれたくない話がある」
一言断りを入れて、強引に部屋に押し入る。
アメリアの部屋は本棚があり、そこには所狭しと本が詰められている。そして机の上にはちょうど書いていたのであろう、ペンと便箋があった。
「お兄様、その……大丈夫、ですか? お疲れのようで……」
「……問題ない」
今の俺は酷い顔をしているだろう。慣れない業務、取り入ろうとしてくる親戚の対応。果てには犯人探しまで並行して行わなければならないのだ。
また、順調に俺の悪評が広まっているようで精神面でも疲労は溜まっている。
寝る時間すらも捻出するのが難しい。そんな地獄のスケジュールの中だったが、どうにかアメリアと会う時間を設けられた。
「父上が倒れたことについて、話がある」
残り一日。もう既に時間は無い。
「お父様が倒れたこと、についてですか?」
「ああ。俺は父上が倒れたのは何者かによる策謀だと考えている」
突然押しかけてきた俺に戸惑っていたアメリアの表情が、強ばったものに変わっていく。
「ぇ……?」
「父上が邪魔だったからなのか、ヴォルフシュタイン家を乗っ取ることが目的なのか。そこまではわからなかったが、既に犯人の目星はついている」
俺はおもむろに机に近づき、その上にあるものに視線を移す。そして、それを手に取り言葉を続けた。
「……そういえば、アメリアは近頃リリス様と文通をしているようだな」
「は、はい。お兄様のおかげでリリス様と仲良くさせていただいております。……それが、どうかしたのですか?」
「実は俺も文通をしていてな。内容は今日咲いた花だとか、困ったことは無いかだとか、家の近況といった取り留めのないことだが」
「なにを」
何かを言いかけたアメリアを手で制止する。
「俺は――リリス様が父上に毒を盛ったのだと考えている」
「そんなっ!?」
「タイミングとしては俺の見舞いに来た時か。父上が倒れた時期としてはピッタリだ」
「それは……」
衝撃的な事実を受け入れられず、アメリアは俯いた。
「俺は明日、確証を取るつもりだ。そこでアメリアに頼みがある」
「お兄様が、私に、ですか?」
意外そうな顔をするアメリア。俺はああ、と頷きを返した。
「俺に何かあれば、お前が当主代理となれ」
「私にそのような力など……」
「アメリアでなければならない。ほかの者では、我が家を乗っ取られる」
「…………お兄様は私にできると思いますか?」
「出来ると信じている」
即答する。
アメリアは知らない未来を俺は知っている。だから、大丈夫だと断言できるのだ。彼女は自身が思っている以上に強いということを。
だが、一言付け加えるとしたらこうだろう。
「安心しろ。俺は何も失うつもりは無い。すべてを掬いあげてやる」
――誰も破滅エンドを迎えないために。
☆ □ ☆ □ ☆
「……話は以上だ。突然の訪問、悪かったな」
「私はお兄様と会えて嬉しいですから! ……ぁう。そ、その、変な意味ではなく……!」
私は慌てて言葉を絞り出し、変なことを言ってしまった。失敗した……! もっともっと上手に話したいのに、お兄様を前にするもどうしても出来ない。
わたわたと慌てる私を無視して、お兄様は部屋を出ようと足を進めます。そしてそのまま、出て行って――。
「あの、お兄様」
心の奥がひどく冷える。
「お兄様は、いなくなりませんよね……?」
私は、幼少の頃にお母様を失った。だから、ずっとずっと家族を失うことが怖かった。
冷たい目で見られても、酷いことを言われても、昔のように優しくしてくれなくても。家族が一緒に居られるのが一番の幸せだと思ってるから、耐えてきた。
「……アメリア」
お兄様の瞳が私を真っ直ぐに見る。それは、昔と同じ私の大好きな優しい眼差しだった。
「死ぬつもりは無い。絶対にな」
誰も未来のことはわからない。それでも私は、お兄様の言葉を信じたいと思った。
きっとそれが、皆のハッピーエンドに繋がっていると思うから。
☆ ☆ ☆
(ようやく一日が終わる)
何日かぶりのベットに寝転がり、俺はこれからのことをぼんやり考えていた。
この騒動が終われば、すぐに学園に入学することになる。そうなれば、主人公やほかのヒロイン、サブキャラなんかと会えるだろう。
それは楽しみであることと同時に、破滅エンドに向けたストーリーの開始でもあるわけで、そこが少しだけ怖い。
――コンコンっ。
「……入れ」
俺は要件を尋ねることはせずに、入室を促す。
「失礼します」
入ってきたのは見覚えのあるメイド――フェリシアだった。
だが、その様子はいつもと少し違っている。メイド服ではなく、ガーディガンを羽織ったラフな姿。瞳にはじっとりと熱を帯びた感情が宿っていた。
「まさか、貴様がこんな時間に訪ねてくるとはな。――フェリシア」
彼女は小さく息を飲む。そして、どこか甘い声でこう続けた。
「アルベルト様……私の想いを受け取ってください」
――パサりっ。
彼女の裸体を包んでいたガーディガンが床に落ちた。
陶器のように白い肌が惜しげも無く晒される。
大粒のメロンのような二つの膨らみ、美しい曲線を描く滑らかな腰のくびれ、すらりと伸びる脚のライン。
そのどれもが魅力的で、俺は時が止まったかのように魅入ってしまっていた。
「アルベルト様……愛しております」
艶やかな笑みを浮かべた彼女が紡ぐ言葉は、やけにしっとりと耳に残った。




