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悪役令息に転生した俺は『原作知識』を駆使して破滅エンドを回避する 〜 原作に無い展開が始まったんだけど、ちょっと待って!?〜  作者: 彼方こなた
第一章

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3. 破滅エンドまで進行中



「さすがヴォルフシュタイン家ですね。立派な庭園です」

 

「……そうだろう」

 

「お身体の方は大丈夫ですか? 病み上がりでお辛いでしょう」

 

「…………大丈夫だ」


 時刻は昼過ぎ。俺の提案により庭園を案内することになった。あれ以上部屋に居座られて、万が一にでも原作設定ノートを発見されないためだ。


(なんでこの人がここに。……というか、あのセリフを言うってことはもう破滅まで秒読みなのか……?)


 綺麗に整えられた庭木に、透き通る小川。そんな穏やかな光景とは対照的に、俺の心の中は荒れていた。


「……先ほどから上の空ですが、どうかされましたか?」

 

「っ、何でもない。少し考え事をしていただけだ」


 リリスは俺の婚約者で、マギアカのヒロインのひとりだ。金髪碧眼の正ヒロインみたいに端正な顔立ち、健康的な太もも、……そして冷徹で合理的な性格。


 リリスルートでは、自滅を除けばアルベルトの最期は謎の不審死である。この真相は判明していないが、直前にアルベルトとリリスが会うシーンが挟まれていることからほぼ間違いなくリリスが犯人だろう。


 腹黒王女リリス。合理主義の権化。小悪魔の皮を被った大魔王。ゲームが違えば黒幕。

 呼び方は色々あるが、要は破滅エンドを避けたい俺にとって最も危険な人物だ。


「……それで、今後の話というのはどういう意味だ」

 

「そんなに身構えないでください。あと数ヶ月で魔法学園に入学するので、その前に色々と話しておきたいと思っただけです」


 つまり、『学園に入る前に婚約者の価値を査定しに来ました』ということだな。

 内心ビビりまくっていることを悟られないように、平静を装う。


「話とは?」

 

「……私、不安なのです。アルベルト様がほかの方に懸想を抱くのではないかと……」


 そっと腕を引いて、熱っぽい碧眼が俺を見上げる。


「……心配しなくて良い」


 さすがヒロイン、顔がめちゃくちゃ可愛い。

 中身を知っているため警戒しなくてはと思うのだが、それはそれとして心臓の鼓動が早くなる。


「本当、ですか……?」


 瞳が不安そうにうるうると揺れる。


(落ち着け、俺。これは全部演技だ。どれだけあざとかわいくても、本性は俺のことを都合の良い道具として思ってない。…………これ全部演技なのかぁ)


「俺は学園でも貴方の婚約者として、悪印象を与えないように振る舞うつもりだ。態々こうして釘を刺しにこなくても良い」

 

「そのようなつもりで来たわけでは…………いえ、お気遣いありがとうございます」


 何かを察したかのようにお礼を述べるリリス。彼女の目はすべてを見通してるかのような気がして、いつ俺が別人のようになってしまったことに気づかれるかと思うと本当に怖い。


 何か話題を変えなければ。

 俺はこの状況をどうにかしようと視線を動かす。すると、ある人物の姿が目に見えた。


「……リリス様、ひとつ頼みたいことがあるのだが」

 

「アルベルト様の頼みならば、私に出来ることなら何でも致しますわ」


 にっこりと笑みを浮かべながら平然と答えるリリス。

 だが、俺は知っている。この笑顔は相手を見定めている時の表情であることを。ここで妙な願いを申し出たなら、破滅エンドに一直線になってしまうだろう。


「……妹と友達になってやってくれないか」


 背中に冷や汗が伝うのを感じる。おかしな願いでも、無理な頼みでも無いはずだ。


「ええと……どういう意図なのでしょうか?」

 

「言葉通りの意味だ。アメリアは少し人見知りだから、学園に入学する前に友達が出来ると良いのではないかと考えてな」


 困惑したかのような表情。だが、アウトな願いであるなら即座に拒否していただろうから、これはセーフと考えていいはずだ。……多分。


「失礼な頼みだったか?」


「いいえ。驚いているだけです。アルベルト様はご自分のことにしか興味のない御方だと思っていましたから」


 歯に衣着せぬ物言い。

 それに何か言い返すよりも早く、「返事をする前にひとつ尋ねてもよろしいでしょうか?」と続けた。


「何だ」


「なぜ私に?」

 

「色々とあるが、一番は相性が良さそうだからだな」

 

「相性、ですか……」


 原作設定によると、アメリアは植物を育てるのが好きで、リリスは花が好きなのだそうだ。アメリアルートでは、彼女とリリスが花を通して友達になっていた。


 アメリアルート以外では友達にならないので、そのルートを防ぐ者としては二人の仲を取り持ちたいと考えていたのだ。

 

 まさかここまで早いとは思わなかったが……。


「どうして、私とアメリア様の相性が良いと思ったのですか?」

 

「アメリアは植物を育てるのが好きらしい。だから花が好きなリリス様と気が合うのでは、と」

 

「……私、特に花が好きというわけではありませんが。どうしてそのようなお考えに?」


 にっこりと微笑むリリス。

 そこで選択を間違えたことに悟る。そういえば、以前の記憶のどこにもリリスが花が好きだと言っていた記憶がない。

 

(まずい! これでは貴方を調査しましたと言っているストーカーみたいじゃないか。何とか誤魔化さないと……!)

 

「見ていればわかる。それよりも、どうして好きであることを否定するんだ?」

 

「花を好きであることは何の利益にもなりませんから、です」


 無理やりであることは承知の上で、話を逸らす。一瞬だけ間があったものの、リリスは深く追求せずに答えてくれた。


「庭の整備や装飾は専門の者に任せればいい。なので私が好きであることに価値はないのです。わざわざ非生産的なことをする必要はないでしょう?」


 彼女は損得でしか考えられない。設定としては理解していたが、実際に話してみると機械のような異質の冷たさがヒシヒシと伝わってくる。


 だが、むしろチャンスだ。ここで世界には損得以外でも考えられることを教え、影響を与えれば俺に興味を持ち、破滅エンドが一歩遠ざかるかもしれない。


「価値があるかどうかは一面で判断できるものでは無い。見方を変えれば、価値が生まれることもある」

 

「……アルベルト様は私が花を好きだとして、どんな利益があると考えているのですか?」

 

「俺からの印象が良くなる」


 困惑。リリスは今、初めてはっきりと表情を変化させた。俺はその事に手応えを感じつつ、続ける。


「リリス様が見舞いの品として持ってきた花、あれはガーベレだな?」

 

「そうですが、それが何か?」

 

「ガーベレの花言葉は『希望』、そして『前進』。あれは評判の悪い俺への激励の言葉であると受け取った」

 

「そのような意図を含んだわけではありません」

 

「そうかもしれないな。だが、リリス様が花を好きだと思っている俺はそのように解釈して、喜び、リリス様への印象が良くなる。特別なことを何もしなくても、だ」


(理由としては弱いだろうか。ただ、即興で考えたものだからこれ以上求められても何も言えないぞ)


 どうにかこれで納得してくれることを祈りながら、何とか言葉を捻り出す。


「損得でものを考えることを悪いとは思わない。だが、一度の判断ですべてを決め、否定するべきではない。それが自身に関わるのであればなおのことだ」


 これを翻訳すると、『もしも俺を処分しようと思っても、一度考え直してみてください』という意味になる。どうにか意図だけ伝わるといいが……。


 俺はそこまで言いきって、ようやくリリスが何やらじっと俺を見つめていることに気がついた。


「……どうした?」

「何でもありません。ですが、アルベルト様の言いたいことは理解しました」


 その言葉にほっと胸を撫で下ろす。これで一歩破滅エンドから遠ざかった。

 そう思った矢先、彼女はずいっと体を寄せてくる。


「アルベルト様。……私、初めて貴方に興味を持ちました」


 こしょりと耳元で囁くと、すぐに体を離してしまう。何をされたのかわからず固まる俺に、彼女はにこりと微笑むと。


「それでは、アメリア様とお話してきますね」


 そう言って立ち去るリリスを呆然と見送ることしか出来なかった。




 ☆ ☆ ☆



 リリスの襲来から少しの時が経った、穏やかな日のこと。俺は自室で原作設定ノートに現時点の状況を書き記していた。


「アメリアとリリスは順調に仲を深めているようだな」


 最近、アメリアが以前より明るくなってきているように思う。それ自体は喜ばしいことではある。あるのだが……。


「まさか俺まで文通をすることになるとは」


 頻繁に会う暇がないからか、二人の基本的な交流方法は文通になっている。そこは良いのだが、婚約者として気を遣ったのか「せっかくなのでアルベルト様も文通をしましょう」とリリスが提案してきたのだ。


 これで少しでも印象が良くなり破滅エンドを避ける一因になればいいが、逆効果になっていないか心配だ。


「さて、今回の分も書いてしまうか」


 そう思い筆を取った瞬間、部屋の扉がノックされる。入れ、と返事をするよりも早くに開けられた。


「何の用だ。返事をする前に入るなと――」

「――大変です! 旦那様が!」


 俺の知らない間に、破滅イベントが始まっていた。


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