22. 死の気配は唐突に
「――というわけで、お暇をいただきます」
「どういうわけかは後で聞いてやる。……それよりも、一つ答えろ」
「はい、なんでしょう」
俺は目を覚ました状態のまま、目の前のフェリシアに問いかける。
「なぜ、天井に張り付いている?」
「今回は趣向を変えてみました。次はベットの下に潜ります」
「そんなことはしなくて良い」
「いえいえ。御遠慮なさらず」
淡々とそう答えるフェリシア。
ここに来たばかりなら冗談と思えるが、今ならわかる。フェリシアは本気ですると。
「……まあ良い。それで、休暇を求める理由はなんだ?」
「一身上の都合です。旅行で大はしゃぎするつもりは微塵もありません」
「ないのなら何故それを言うのだ」
そうは言っても、これまでフェリシアにまとまった休日を与えていない。
都合がなんであれ、俺の世話から開放されるいい機会か。
「良い、許す。どれだけの休暇を申請するのか、あとで書類を用意しろ」
「ありがとうございます。私の代わりはバトラー様が受け持ってくださる予定です」
「あいつは執事長だろう、あまり屋敷を離れさせるな。代わりの世話係は不要だ。自分のことは自分でする」
俺がそう言ってやると、手で目元を隠してよよよと泣き真似をする。
「私はもう用済みというわけですね……」
「下手な芝居はよせ。そしてお前はまだ価値がある。捨てる予定は無い」
そう言ってやるとピタリと泣く真似が止まった。満足したのだろう。
「それでは後ほど休暇申請書を持ってきますね」
「ああ」
フェリシアはスタッと床に降りると、恭しく頭を下げた。
「改めまして。おはようございます、ご主人様。気持ちの良い朝ですよ」
フェリシアがそういうのでふと身体を起こして横を見る。
窓の外はまだ完全に日が出ておらず、薄暗かった。
☆ ☆ ☆
フェリシアが休暇を取って数日が経過した。
日常生活には大きく変化は無い。強いて言うのなら一人の時間が増えたことぐらいだろうか。
彼女が居なくなって一番の問題は情報の収集力が落ちたことだ。俺が動いてもいいのだが、ヴォルフシュタイン家の俺は何かと目立つ。
「だからといって私を使うのはどうなの?」
「俺よりは目立たないだろ」
「それはそうだけど。……でも、私は別に情報収集得意じゃないから」
「知っている」
情報の質も量もフェリシアの方が遥かに上だ。それはサーシャに限った話では無いが。
「今回サーシャに求めたいのは質でも量でもなく、視点だ。フェリシアでは見えてこない、見落としてしまうこともサーシャなら見つけられる」
「そう。なら、今回集めてきた情報はドンピシャかな」
そう言いながら、サーシャは二つの資料を手渡してくる。その資料にはそれぞれ『魔法解放連合』と『白翼の典礼』と書かれていた。
「……白翼の典礼の方は表立った動きは無いな」
「当然と言えば当然だけどね。なんと言っても、シナリオにおけるラスボスなんだから」
『白翼の典礼』。この世界の宗教団体のひとつである。
この教団の理念は『真なる祝福への回帰』。
魔法は神のものだと考え、祝福以外での魔法の行使は神への冒涜として魔法の封印を目論む。
最終的に始まりの魔導書を用いれば魔法の封印が可能だと考え、王都を襲撃してくるという内容になっている。
「私ぐらいで尻尾を掴まれるぐらいなら、あんなに大それたことは出来ないでしょうから」
「それもそうだが……なにか気になることはないのか?」
「この時期に彼らが何をしていたかなんて知らないから、何も言えないかな。ただ妙な噂は耳にした」
「噂?」
「資料にも書いてあるわよ」
指し示されたそれに目を通す。
「教会の前に馬車が止まっていた、灰色の髪をした怪しい人物が頻繁に出入りしていた。噂の中だとこの二つが気になるわ。……確かなのかどうかは保証できないけど」
「十分だ。精査はこちらでしておく。……そして問題は」
「『魔法解放連合』ね」
ヤツらが動くのは原作通りだと二学期の終わり。だが、そう考えるとおかしな行動があるとフェリシアから聞いている。
「武器の大量購入……戦争でも始める気か」
「学園に襲撃をかけるのはまだ先かと思っていたけど……」
ここまで大きく動いているのなら、悠長にしている時間はないはず。予定が幾らか……いや、二学期の終わりから一学期の終わりに早まった可能性すらある。
「フェリシアのいないのは痛いな。……ヴォルフシュタイン家を使って探りを入れてみる」
「それしかないよね。まさか、ロイドくんに聞くわけにはいかないから」
ロイドは魔法解放連合と関わりを持っている。というか、幼少の頃から何かとロイドの面倒を見てきたのは魔法解放連合のトップだ。
そういう経緯から、情報収集をするのならロイドに聞くのが一番だが、それをすると俺たちが魔法解放連合を怪しんでいるように思われる。
まだ、ロイドと魔法解放連合との関係を終わらせるん家にはいかないし、俺たちもロイドと距離が出来ることは歓迎していない。
「とりあえず、この話はロイドくんには――」
その時だった。
ドンドンっと扉が荒々しく叩かれる。
そして、続いてちょうど今、話にあがっていたロイドの声が聞こえてきた。
「大変だ! 精霊の森で――火事が起きた!」
精霊の森。火事。
この二つのキーワードから俺とサーシャの頭の中に一つのイベントが浮かび上がる。
俺たちは慌てて扉を開けると、焦った様子のロイドの姿がそこにあった。
「ロイド、それは本当か?」
「あ、ああ。本当だ。そして、その森に――ついさっきセラフィが行っているところを見たんだ!」
このイベントは、セラフィの強化イベントだ。
ただひとつ、注意点があるとすれば。
このイベントは選択を間違えると――セラフィが死ぬエンドに向かう。
「面白かった」「また読みたい」と思っていただけたなら、広告下にある☆ ☆ ☆☆ ☆ をタップして、ブックマークをしていただけると幸いです。
また、感想を貰えるととても嬉しいです




