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悪役令息に転生した俺は『原作知識』を駆使して破滅エンドを回避する 〜 原作に無い展開が始まったんだけど、ちょっと待って!?〜  作者: 彼方こなた
三章

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21. 「居場所」


 ――私の一日は主を驚かすところから始まる。


「……いつから居た」


「『今日も朝が来てしまった……』からですかね」


「それならば早めに声をかけろ」


 最近では無断で部屋に侵入しても何も言われなくなった。親密度が上がったおかげだろう。決して、諦めた訳では無いはずだ。


 うんうんそうに違いない。


「……俺は着替えるが」


「お手伝い致しましょうか?」


「出ていけ、という意味なのだが?」


「お手伝い致しましょうか?」


「……もう良い。好きにしろ」


 決して諦められている訳では無いはずだ。多分。


 私とご主人様は奇妙な縁で結ばれている。主従関係と、一言で言い表せないような関係だ。それを私は心地よく感じていた。


「では、行くぞ」


「はい」


 私たちの関係の始まりはご主人様の祝福だった。『縁結び』という奇妙な祝福が、私の運命を決定付けた。

 

 身も心も貴方のもの、という言葉がどのように作用したのかは分からない。だが、それから彼の意に反するように動いたり、危害を加えようとすれば痺れや頭痛を感じるようになった。


 肉体関係を持てば祝福が役割を果たしたと判断し、呪縛が解けるかと思い試したが、そこまで上手くはいかなかった。


「あ、お兄様!」


 アメリア・ヴォルフシュタイン。

 私がご主人様に迫る時、なぜか毎回邪魔に入る。ただの偶然だと思うが、そう何度も起こると何かあるのではないかと疑ってしまう。少しばかり警戒をしなければ。


「――フェリシアはどう思う?」


「よろしいかと思います。アメリア様の良いところが発揮されるかと」


 注意せねばならないことはもう一つあった。

 それは、――私がこの関係を続けたいと思い始めたことだ。




 ☆ □ ☆ □ ☆


 ご主人様が学園で授業を受ける、あるいはご学友と戯れている間も私にはやるべきことがある。


「ふぅーん。なるほどねぇ?」


 学園の図書館。

 彼女は授業中であるにも関わらず、当然のようにそこにいた。


「うんうんうん。いいよ、調べておこう」


「よろしいのですか?」


「キミから頼んできたんじゃないか」


「断られると思っていましたから」


「興味がある内容だったからね。ボクは魔法にしか興味を持てない俗物ではないんだ」


 カリナ様は渡した資料を一通り目を通すと、魔法でそれを灰にする。この一瞬で内容を全て頭に叩き込んだのだ。


「それに、あの名家の出来損ないくんの頼みなのだろう?」


「……その呼び方は」


「ああ、ああ、ごめんよ。バカにするつもりは無いんだ。噂に反する大した男だと思っている。だからこそ、この依頼を受けようと思ったんだから、さ」


 空気がぐんっと重くなるのを感じる。

 彼女が濁りきった目をしているのだと、髪で隠れていてもなおわかった。


「わくわくしているんだ、ボクは」


「そこまでの、ものなのですか?」


「もちろん。なんたって、下手をすればボクの首が飛びかねない。まあ、そんなヘマはしないがね」


 危険を危険とも思わず、彼女は笑う。

 底知れない胆力だ。嘘でも虚勢でもなく、カリナ様は本気でそう言っている。


「……もしもカリナ様に何かあったら、ロイド様は悲しむでしょうね」


「……えっ」


 ピタリと笑い声が止まった。


「…………ほ、本当かい?」


「おそらくは。随分と親しいようですから」


「そ、そうか。ならば、もう少し慎重にいこうかな。うん。長生きした方がより多くの研究ができるからね」


 なんと扱いやすい方なのでしょうか。

 乙女のようなその姿を見ていると、自然と溜飲が下がる。


「それでは、調査の方をよろしくお願い致します」


「ああ、任せたまえ。ふふん、次に会う時は良い結果を報告しよう」


 今、格好つけても格好つかないですよ、という言葉は飲み込んだ。私、空気を読めるので。


 


 恭しく礼をして、図書館を出る。

 

 今日はまだ時間がある。アメリア様の生活の報告書を今のうちに作成しておこう。……なぜ、アルベルト様のお付きの私が、アメリア様の報告をしているのかについては考えないようにする。


「――おや、お話は終わったようですね?」


 気配をまったく感じなかった。


「……リリス様」


「二人きりで話すのは久しぶりですね。相変わらず、お元気なようで何よりです」


 リリス様と二人きりでお会いしたのは、学園に来る前の一度きり。その時の出来事を思い出してしまい、私の背中をつーっと冷や汗が流れる。


「あまり緊張なさらないでください。ここには誰もいないのですから、もっと砕けた態度でも良いのですよ?」


「リリス様は王族の方ですから、万が一粗相があれば我が主にも迷惑がかかります。……それに、どこで誰が見ているかわかりませんから」


「それもそうですね」


 うふふ、と口元を押えて笑みを浮かべるリリス様。


「それで、どういったご要件なのでしょうか?」


「偶然見かけたので挨拶を、と」


 リリス様はにっこりと笑顔を見せる。

 私は知っている。この表情の意味は、――威嚇だ。

 分不相応な者に対しての、牽制。


あまりご無理を(嗅ぎ回ってん)|なさらないでくださいね《じゃねぇぞ☆》」


「…………はい」


 絞り出した私の声は掠れていた。


 


 

 ☆ □ ☆ □ ☆



 その夜。


「そうか。引き受けてくれたか」


「はい。念の為、無茶はしないように言い含めておきました」


「カリナ先輩に何かあれば今後に影響する。良い判断だ。…………それで、フェリシア」


「なんでしょうか」


 顔を向きを変えてご主人様を見る。

 いつも通りの何を考えているのか分からない――違いますね。少しだけ困ったような顔。


「なぜ、俺の膝に頭を乗せている?」


「従者を癒すのも主の務めではないでしょうか?」


「…………少しだけだぞ」


 ご主人様はこう言えば断ることはしない。

 危害を加えてこない、警戒する必要のない、疑う余地のない、安全な場所。それがご主人様の近くだ。


「ご主人様」


「どうした、フェリシア」


「私を、守ってくださいね」


「心配するな。お前が俺に付き従う限り、見限ることはしない」


 彼の言葉がすっと胸に染み込んだ。

 これがご主人様の祝福のおかげなのかはわからない。けれど、それでいいと思った。


 私に安心を与えてくれるこの場所は、とても温かいから。だから、ご主人様を守るのだ。


 ――あくまで、自分のために。


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