20. イベント進行は着実に
「くっそぉ! 覚えていろよー!!」
三下ムーブで逃げていくのは、赤毛の貴族――メヴィス・ベネジェクト。補足するなら、入学式の日のイベントで俺の代わりにロイドに絡んでいた男だ。
「これで、『白昼夢の決闘』イベントは終わりっと」
文字の上にビッと線を引いて、原作設定ノートを閉じる。ここ最近は落ち着いていて、イベントも原作通りに進んでいる。
「進行はどれぐらいだっけ?」
「中盤に入ったぐらいだな。ここからはアルベルトのイベントが多いんだよな」
「そうだね。共通ルートだけで三回戦うものね。……その代わり、終盤には一切でなくなるけど」
不満タラタラでそう言うのは、サーシャ。さっき偶然遭遇したのだ。
「アルベルトが出るか出ないかで、反応違うよな」
「当たり前。私の最推しだもの。……あ、あんたは違うから」
「知っているよ」
サーシャはアルベルトの中に俺という異物が入っていることを快く思っていない。だからといって、どうにかする術はないため我慢しているようだが。
「解釈不一致は許さないから」
とのお言葉から、最近、アルベルトのロールプレイングには一層力を入れている。その対価、というわけではないが、破滅を回避するのを手伝ってもらっているから別にいいんだけどな。
そんなことを考えていると、遠くからダッダッダという足音が聞こえてきた。良い加減慣れてきたもので俺もサーシャもこれから何が起こるのか察する。
「見てみてー! みんなっ。ほら、宝箱! ダンジョンで拾ったんだー!!」
「なんで!?」
「……っ」
叫びそうになるのをグッと堪える。
危ない……もしも叫んでいたら、解釈不一致でサーシャから死ぬほど怒られていた。
俺が心の中で汗を拭っていると、声を聞き付けたロイドがこちらにやって来ていた。
「……何やってんだ、あんたら」
「見てっ! 宝箱!」
「なんで持ってんだよ」
「拾ったから! ダンジョンで!」
「何してんの……」
俺の心の声とロイドの言葉が一致した瞬間だった。
それにしでもダンジョンか。
学園でダンジョンと聞くと、思い浮かぶのは精霊の森の中にあるダンジョン。あそこは確か――。
「行ったのって、学園のすぐ側のダンジョンだよな?」
「そうだよー」
「それ、持ってきて大丈夫なのか?」
「問題は無い。ダンジョンで拾ったものは拾った人間の持ち物となるからな。それは学園が管理しているダンジョンでも例外ではない」
「むしろ、問題となるのは学園に無断でダンジョンに入ることで……セラフィさん、その辺りは大丈夫ですか?」
「安心して! ちゃんと許可取ったから!」
それなら、あまり気にするようなことではないか。
憂いがないことがわかると、二人とも目を輝かせる。もしかしたら、俺も同じ顔をしているかもしれない。
「それじゃー開けるよー?」
セラフィは俺たちの顔を順番に見ると、ニヤリと笑う。
ちなみにこれは原作ではなかったイベントだ。ただ、主人公が介入しなくてもシナリオ通りに進んでいるのなら、セラフィが手に入れたのはアレだろう。
「えーっと……ポーションと、……石?」
宝箱の中身は体力を満タンまで回復させるフルポーションと、魔力を流して衝撃を与えると爆発する石がそれぞれ三個。
どちらも、どこかで使いそうだけど使わないアイテムだ。
「……いる?」
「ポーションなら欲しいが、石は要らねぇ」
「俺はどちらも必要ない」
「わ、私は石をちょっと貰おうかなー」
「……何に使うんだ?」
「えっ、と、護身用に……」
そうか、護身用か。
爆発といってもそこまで威力があるわけではないから、本当に危なくなった時のお守りぐらいにしかならないと思うが。
「うーん。これ、どのぐらいで売れるかなぁ」
「セラフィはお貴族サマだろうが。なに金勘定なんかしてんだよ」
「うち、貴族ってだけで裕福ではないからさー。毎年厳しいんだよねー」
「わ、私のところもそんな感じですね」
貴族といっても全員が全員大金持ちなわけではない。それでも、平民と比べれば稼いでいる家がほとんどだが、見栄や接待にその分使うから良くてトントンだ。
「それにさ、あたし、目標があるから。そのためにお金が必要なんだよねー!」
「目標?」
キラキラとした目でそう言うセラフィ。
あ、この展開知っている。俺とサーシャは揃って口を噤んだ。
「あたし、家を出るの! そして、冒険者として生きていくんだ!」
「冒険者?」
「そう。あたし、冒険者になって色んなところを旅するの!」
セラフィのルートは、彼女が自由を追い求める物語だ。
このシナリオのメインの敵はほとんどがアルベルトとなっている。ロイドへの嫉妬、セラフィへの貴族の誇りを蔑ろにする行動に怒り狂い、二人を殺そうとするのだ。
だから、俺が何もしない今、彼女の夢を阻むものはない。ただ、一つだけ懸念点をあげるとするのならば――。
「…………そう、か。いいんじゃねぇの」
貴族に生まれながらその身分を捨て、冒険者になろうとするセラフィ。
貧民として生まれ、そして学園で過ごす中で成り上がることを目指すようになったロイド。
もしもセラフィルートであるのなら、ハッピーエンドを目指すうえでこの二人のすれ違いを防がなければならない。
☆ □ ☆ □ ☆
「くそっ。平民のくせに、妙な力を使いやがって!」
メヴィスは寮への帰り道、一人でそう毒づいた。
異様なまでに閑散とした道。まるで、何者かがこうなるように仕組んだかのように。
「――ベネジェクト様」
彼の名を呼ぶ声がした。
聞き覚えのない、嗄れた声だ。
「誰だ、てめぇ」
身なりから貴族ではないと判断したメヴィスは、威圧するようにそう問うた。
だが、男は笑みを深くすると質問には答えずにこう言った。
「始まりの魔法、が封印された魔導書をご存知ですか?」
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