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悪役令息に転生した俺は『原作知識』を駆使して破滅エンドを回避する 〜 原作に無い展開が始まったんだけど、ちょっと待って!?〜  作者: 彼方こなた
第一章

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2. そのイベントは原作にはありません


「そうか。……『縁結び』か」


 父上はそう呟くと、少しだけ目を俯かせた。この人の息子として生きた記憶から、それが落胆であるのは理解している。


「父上、これは魔法に関係するようなものではございませんが、使いようによっては――」

 

「もう良い。下がれ」


 突きつけられたのは冷たい一言。

 この世界は魔法の才能こそが貴族の誇りと考えられている。そんな中、アルベルトは大貴族の息子でありながら魔法の才能がまったくと言っていいほどなかった。


 父はそんな(凡人)を早々に見限り、魔法の才能に恵まれた(天才)を愛した。

 その結果に生まれたのが劣等感と嫉妬に狂い、傲慢を極めた性格最悪のアルベルト(悪役令息)だった。


「……失礼します」


 吐き出したい感情を押し止めて父の部屋から出る。

 俺の心は想像よりと穏やかであった。やはり、以前までと今では俺はまったくの別人なのだろう。


「あ……おにい、……様」


 部屋を出たところで、ある少女とバッタリと会った。

 俺と同じ白銀の髪がゆらりと舞う。伏せた赤瞳は儚げに揺れていた。


「アメリアか」


 アメリア・ヴォルフシュタイン。

 マギアカの登場人物にして、悪役令息アルベルトの妹。そして、俺が最も防がなくてはならないルートのヒロイン。


「お前も父上に呼ばれたのか?」

 

「えと、……その、はい。お父様に祝福の儀で賜ったスキルの報告を……」


 ちらちらとこちらを伺ってきているのは俺が得たスキルについて知っているからだろう。

 『縁結び』という期待外れのスキルを得た。そんな噂が既に流れていることは知っている。

 

(まあ、俺としては貴族としての立場とかはどうでもいいからいいけど。破滅エンドさえ回避出来たらいい)

  

 だからまずはアメリアとの関係修復を目指したい。だが、この様子だとすぐには無理そうだ。

 完全に俺に対して萎縮してしまっている。この状態だと何を言っても逆効果にしかならない。

 

 だが、まだ時間はある。ゆっくりと関係を修復すればいい。それよりも先に確認しておきたいことがあった。


「アメリア、お前の祝福は何だ」

 

「ぇ……そ、その……」


 

 一瞬の沈黙。その後、アメリアは叱られるのを怖がる子供のように、小さな声を絞り出した。


「『輝盾の守護(エル・フォルセリア)』……です」


 小柄なアメリアがさらに体を縮こまらせる。何を言われるのかと怯えているのだろう。だが、俺の心は彼女とはまったくの反対だった。


「そうか。……そうか」


 俺は用事は終わったとばかりに彼女の横を通り抜ける。


「良いスキルだ。……励めよ」


 アメリアにそうとだけ言い残して、俺はその場を去った。


 


「…………ぇ……ええっ!? お、お兄様が、わた、私に頑張れって……っ!?」



 ☆ ☆ ☆



(いやぁ、よかったよかった!)


 俺は自室に戻ると、この世界の設定について書き記したノートを取り出しながら胸を撫で下ろしていた。


「俺のスキルがまったくの別物だった時は焦ったなぁ」


 原作設定ノートによると、アメリアのスキル名は『輝盾の守護』。効果は常時パーティー全員の被ダメージダウンとクリティカル率アップ。ストーリーでもバフとして使われていたようだ。


 俺のスキルが完全に別物だったから、マギアカの世界と名称が似ているだけの別世界なのではないかと思ったが、同じ世界であっているみたいだな。


「アメリア・ヴォルフシュタイン。俺の妹で、俺が最も悲惨なエンドを辿るルートのヒロイン、か」


 主人公には悪いが、俺はアメリアルートを進行させるのだけは全力で阻止するつもりだ。なぜなら、このルートになってしまえば俺が何をしようと間違いなく破滅してしまうからだ。


 アメリアのルートはヴォルフシュタイン家がほぼ全滅する。バッドエンド、ノーマルエンド、ハッピーエンドに関わらず。そして、問題はこれを防ぐのは不可能だということだ。俺一人ならばともかく、家まで守る対象になると手が足りない。


「アメリアとの仲を修復しないとってのは分かるんだけどなー。今更どの面下げてって感じだからなぁ」


 以前までの俺はアメリアにとても強く当たっていた。

 理由は才能と、周囲から期待されてる様に嫉妬したからだ。何ならアメリアを次期当主に据えようと動いている勢力があることも知っている。それが俺にとっては許せなかったのだろう。


「何かきっかけがあればいいんだけど。何かあったっけ……」


 えーっと、植物を育てるのが好き、可愛いものが好き、お化けが嫌い、苦いクスリが苦手、…………家族が好き。


「良い子だなぁ……」


 アルベルトから酷い扱いを受けているのにも関わらず、一途に家族を大切にする心根。そして、それにも関わらずシナリオの結末は家族ほぼ全滅。……悲惨だ。


 主人公と結ばれるのは諦めて欲しいが、それ以外で幸せになって欲しい心の底からそう思う。


 ――と、心の中でアメリアに対する愛情を噛み締めているとコンコンっと部屋の扉がノックされる。


「アルベルト様、フェリシアです。入ってもよろしいでしょうか?」

「…………許す」


 慌ててノートを隠して入室の許可を出す。


「何の用だ」


 フェリシアは額に汗をかき、強ばった表情をしていた。

 そんな彼女が平静を装いながら答える。

 

「リリス・オフェリア・アルヴェリス様がお見えになられました」

 

「……来訪の予定はなかったはずだが?」

 

「婚約者であるアルベルト様へのお見舞いだそうです」

 

「…………急いで支度をする。応接室に案内しておけ」

 

「承知致しました」


 マギアカにおいて、アルベルトが最も悲惨な結末を辿るルートはアメリアルートである。そして、彼の死因として最も多いのは自滅だ。


 だが、アメリアに次いでアルベルトが悲惨な結末を辿るルートは、そして彼の死因の二番目は――。


「あ、アルベルト様」

 

「どうした? 何かあった――」

 

「――失礼致します。アルベルト様」


 彼女は彩り豊かな花束を手にして、無遠慮に俺の部屋に入り込んできた。まるで、俺が着飾る暇を与えないように。心の隙を作るかのように。


「心配で来てしまいました。お元気そうで何よりです」


 リリス・オフェリア・アルヴェリス。

 アルヴェリス王国第二王女にして、俺の婚約者。そして、『グランドマギア・アカデミック 〜封印された魔導書〜』でアルベルト()を最も殺したヒロイン。


 『今後について、少しお話しませんか?』と彼女がアルベルトに言ったあと、決まって暗転してアルベルトが死んだという事実だけが伝えられるのだ。


 そんな彼女が俺に微笑みかけてきた。


「今後について、少しお話しませんか?」


 ――破滅の使者がそう問いかける。


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