18. 放課後にお茶会を(二杯目)
にこにこ。
「……」
にこにこにこにこにこ。
「……リリス」
「なんでしょうか?」
「今日はどんな用件だ」
「会いたいなぁ、と思いまして」
リリスとアメリアのお茶会に来ていた。
「お兄様もどうぞ。このお茶菓子、美味しいですよ」
「……ああ。いただこう」
いつもと同じ定型文で断ろうとしたのだが、普段とは段違いな圧に屈してしまい今に至る。
「お兄様がお茶会に参加してくれるのは初めてですよねっ」
弾んだ声でアメリアが言う。
「そうですね。いつもは何かと理由をつけて断られますから」
「……そうだったかな」
紅茶を口に含み、舌を濡らす。
心を落ち着かせる作用のあるほのかな香りも、今はまったく効果がない。
「リリス、その後は変わりないか」
「えぇ。皆さんが助けに来てくれたおかげで、特に大きな怪我などはありませんでした」
「……そうか」
「はい」
にこにこにこにこ。
なんとなく非難されているような気になる。なぜ助けに来てくれなかったのか、と。自分で聞いておいてそんな風に思い込むだなんて、自分勝手だと思うけれど。
「でも、私はちょっと心配かな。リリスちゃん、助けに行った時、傷だらけだったから。……ごめんね、私たちがもっと早くに助けれたら」
「いいえ、アメリア。貴方が落ち込むことなんてないですよ。私は平気でしたし、今は傷ひとつ残っていませんから」
「そ、そう、かな」
「はい。それに、貴方たちは誰よりも早く助けに来てくれました。それなのに責めることなんてありません」
「あ、それは、フェリシアさんが見つけ出してくれたんだよ」
凄いよね、とアメリアが笑う。
「そのようですね。有難いことです。アベル様、フェリシアさんにお礼を伝えておいてくれませんか?」
「……直接言えばいいだろう。わざわざ頼まなくとも、すぐ会える」
「言葉が足りませんでしたね。フェリシアさんと、もう一人。私を助け出すのに協力してくれた方に、お礼を伝えておいてください」
「……わかった」
リリスと話していると腹の底まで見透かされているかのような気持ちになって居心地が悪い。
「ほかの方たちにも、今度お礼をしないといけませんね」
「そうだな」
「アベル様はサーシャ様にお礼をしないといけませんね」
「……そうだな」
俺を救出したのはサーシャということになっている。実際、やろうとしていたことは間違えていないし、あの時リリスの救出に加わっていなかった理由付けとしてそういう事にした。
「私は特にロイド様にお礼をしなくてはなりません。彼には大変無茶をさせてしまったようですから 」
「……そうだね、リリスちゃん」
苦々しい顔で頷くアメリア。未だにアメリアからのロイドへの敵意は薄れていないようだった。
「『魔力の源』ですか。……あの祝福は、これまでの魔法の常識を壊すほどの特異性を秘めています」
「一般的な祝福の体系とはかなり違う。まったくの別物だな」
今回の件でロイドは大幅に成長出来たようだ。祝福の扱いも熟達し、覚悟も一段と極まったように感じる。
……これで、多少は原作の主人公の強さに近付けただろうか。
「一般とは違う、といえばアベル様の『縁結び』もそうですね」
「……そうだろうか」
「おそらくは。専門では無いので確かだとは言えませんが、過去に『縁結び』と呼ばれる祝福を授かった事例はありません。これは『魔力の源』も同様ですが」
俺のスキルのことはよく分かっていない。サーシャに聞いてみたが、彼女も原作では出てきていないと言っていた。
「……調べてみるか」
俺のスキルは一体何なのか。
もしかしたら、この力の本質を知ることで――今後の運命を左右するかもしれない。
「それが良いと思います。専門家を手配致しましょうか?」
「大丈夫だ。あてはある」
俺がそう断言すると、リリスは誰のことだろうと首を傾げる。
「カリナ・アッシュフィールを頼るつもりだ」
「カリナさん……?」
アメリアが驚いたように声をあげる。
そういえば原作ではアメリアはどのルートでも面識があったな、と思い出す。リリスほど仲良しというわけでなかったが。
「交流があるのなら紹介してもらえないか?」
「は、はい。お兄様の頼みでしたら是非」
「助かる」
あてがあるとは言ったが、直接的な面識は無かったからな。一方的に知っている相手だ。アメリアが仲介してくれるのならスムーズにいけるだろう。
「カリナ様は魔法に関する知識は学園随一。きっとお力になってくださるでしょう」
「……そうだな」
にっこりと微笑むリリス。口調は柔らかいのにどこか刺があるように感じるのは気の所為だろうか。
緊張を和らげるように、カップを手に取り口をつける。……空っぽだわ、これ。
それを見ていたリリスがクスクスと笑う。
「紅茶、もう一杯いかがですか?」
「……いただこう」
紅茶を飲んでいると、ふと視線を感じた。そちらを見てみると、何やらそわそわしているアメリア。
「あ、あのっ、お兄様! その、お、お茶菓子を作ってきたので、い、いかがでしょうか!?」
震える手で差し出されたのはクッキー。リリスが用意したものと比べると少し焦げていたり、形も不恰好だ。
だが、
「いただこう」
「あ、ありがとうございます。……その、味見はしたのですが、もしもお口に合わなければ、その――」
「美味いな。もうひとつもらってもいいだろうか?」
「は、はいっ。是非! どうぞ!」
用意してくれたリリスには悪いけれど、アメリアのお貸しが一番美味しいと思った。
「ふふっ」
不意に漏れた笑い声が耳に入る。そちらを見ると、リリスが楽しそうな表情をしていた。
「……どうした?」
「いいえ、何も」
にこにこにこにこにこ、と。
☆ ☆ ☆
学園の図書館は国一番の大きさを誇る。その割に利用者は少ないようで、閑散としていた。
一歩踏み入れると、ぐっと周囲の気温が下がったかのような感覚に陥る。カーテンが締め切られており、まるで外の世界と隔絶された世界のようだ。
図書館の中にいるはずの、目的の人物を探す。
すると、じっとりとした声が降ってきた。
「……あぁ。キミがアメリアくんが言っていたお兄様、かな?」
「その通りだ、カリナ・アッシュフィール先輩」
異様に大きい椅子から、俺を見下ろすカリナ先輩。
彼女の前髪に隠れた瞳が、ゆっくりも俺を映す。そのエメラルドのような目には好奇心の色で満ちていた。
「キミはボクに何を求め、何を与えてくるのか。今から胸がどきどきするよ」
そう言って、カリナ・アッシュフィールはふふんと笑った。




