13. 仕組まれた破滅を君に
「あー……疲れた……」
ここ数日でゲッソリとやつれたロイドがそうぼやいた。
「まだ付きまとってくる連中がいるのか」
「今はもう、ストーカー女ぐらいだから良いんだけどよ。それよりもべんきょーだよ、べんきょー。あんな小難しいのを良くできるな、貴族サマは」
「大丈夫! あたしも出来てないから安心して!」
「あのぅ……そこは別に誇るところではないと、思うんですが……」
放課後。
魔法のクラスが同じ俺たちは授業が終わっても教室に残っていた。
「そういやよ、今日はいいのかよ。アルベルト」
「何がだ?」
「ほら、あの番け……妹だよ。最近ベッタリじゃなかったか」
「ああ。今日はリリスとお茶会をするそうだ。昼にリリスから連絡があった」
その際に俺もどうかと誘われたが断った。
「リリス様って、あの妹ちゃんと仲良いんだ」
「い、いつも一緒にいるみたいですよ。その、クラスも全部一緒みたいですから……」
「へぇ。二人とも頭良いんだぁ」
「俺とサーシャも教養クラスは一緒だな。Aクラスだ」
「自慢かよ。万年Dクラスのオレらへの」
「補足しただけだ。それに万年そうなるかはお前の努力次第だ」
俺は仮にも大貴族の息子だ。幼少の頃から厳しく躾られている。この世界の一般家庭に生まれたロイドはもちろん、自由奔放に育てられているセラフィと比べて知識量に差があるのは当然だ。
何なら俺は、原作設定と元の世界での知識というズルを持っているからな。
(とは言っても、ロイドはルートによっては王様になるから、地力だと俺よりも頭いいんだよなぁ)
「あ、そうだ! あたしらもお茶会しよう!」
「お茶会ぃ?」
「そうっ。お茶とお菓子を用意してさ! 四人で!」
「私はいいと思います……! 楽しそうっ」
「俺は良い茶を用意しようか。アテがある」
「……じゃ、オレは菓子作ってきてやるよ」
「へー。ロイくん、お菓子作れるんだ」
「貴族サマに庶民の味を教えてやるよ」
その時だった。
教室の扉が開かれると、ぞろぞろと黒い魔道服を来た大人たちが入ってくる。中には見知った顔が混じっており、その内の一人が前に出た。
「アルベルトくん、これからあなたを連行させてもらいます」
バードラ先生がそう申し出てくる。
物腰柔らかな態度だったが、彼以外の大人はピリピリしていた。只事ではないと、俺たちは気づく。
「……アルベルトはこれからオレらと遊びに行くんだ。悪ぃんだがよ、センセ。出直してきてくれねぇか?」
「ですがですが、ロイドくん、彼は誘拐事件の犯人の疑いがかかっているのですよ」
「誘拐ぃ?」
「えぇ!?」
ロイドが怪訝な顔をして、セラフィは驚きの声をあげる。
「わかりましたかぁ。わかりましたよねぇ。ですからですから、アルベルトくん、私たちと一緒に来て貰えませんか?」
もう一歩、バードラ先生は距離を詰めてくる。だが、それにロイドは待ったをかけた。
「……こいつはずっとオレらと居たんだ。誰かを攫うなんて出来ねぇよ」
「ですがですが、彼女と最後に会ったのは彼なんですよね」
「それだけで? だったそれだけでこいつを犯人だって決めつけてんのかよ?」
「それと動機もあるんですよ。だって――誘拐されたのはリリス・オフェリア・アルヴェリスなのですから」
「――は?」
ダンっと床を踏み鳴らす音がした。
「あんた……今、何つった? こいつが、アルベルトが婚約者に手ぇ出すようなクソダセぇやつだって言ったのか?」
「君、離れなさい!」
「バードラ先生、今助けます! ――アイアン・バインド」
「――っ!?」
一人の男から放たれた魔法で、ロイドの体は鎖でぐるぐる巻きにされる。だが、
「『魔力の源』」
ロイドに巻きついていた鎖が魔力の結晶となって霧散する。
「……ほう」
バードラ先生はそれを見て興味深そうに目を光らせた。
彼が何かを言う前に、バードラ先生とロイドの間にセラフィが割り込む。
「ロイくんが掴みかかっちゃってごめんなさい、先生。でも、アルくんが犯人っていうのは信じられないかな」
「……そ、そうです! きちんと調べ直してください! アルベルトくんには、わ、私たちって言うアリバイが……!」
このまま犯人としては引き渡さない、と二人が主張する。その言葉をバードラ先生は黙って聞いて……つぅっと涙が頬を伝った。
驚いて言葉を失うロイドたちに、バードラ先生は照れたように笑う。
「ごめんなさい。感動して涙が溢れてしまいました。こんなにも仲間を大切に想うだなんて、素晴らしいことですから。……ああ、でも、ごめんなさい」
「――彼が犯人であることは、もう決まっているんですよ」
――気味が悪い。
「フレイムボルト!」
「『風の加護』」
バチバチっとロイドの掌の周りに火花が散り、それが集まり槍を形成する。
パリンっと、窓が割れる。外から流れ込んできた突風が机や椅子を舞いあげた。
「――ああ、ダメですダメです。ここで魔法を使っては。『虚栄の残穢』」
ぼうっ、と視界が歪んだ。
まるで世界が一瞬だけ揺らいだかのような感覚の後、ロイドの炎の槍は、そこに「なかったもの」のように霧散して、ごうごうと鳴っていた風はピタリと止む。
バードラ先生の固有スキル、魔法無効化の力。
「さて。まだやりますか?」
「……とうぜ――」
「待て。俺を置いて話を進めるな」
ロイドを押し退けて前に出る。
「連れて行け。抵抗はしない」
「はぁ!? おい、アルベルト! 何勝手に決めてやがる!」
「話せばわかってくれる。何を慌てる必要がある」
「いいか、よく聞け。こういうやつらはな、捕まえた犯人が無実だろうと犯人に仕立て上げるようなやつらなんだぞ!」
「何を根拠にそんなことを言っている」
「オレんところはそうだったんだよ!」
「……ロイくんの言い分が全部正しいってわけじゃないけど、あたしも賛成。バードラ先生のさっきの言葉、流石におかしいよ」
「う、うん。私も、そう思う。最初からアルベルトくんを犯人にしようとしてるみたいで……」
三人の訴えも虚しく、俺は教師たちに囲まれる。ここから逃げ出すことはほぼ無理だ。
「では、ついてきてください。抵抗しなければ、痛い思いはしません」
「ああ」
「おい! 聞いてんのか、アルベルト!」
「ロイド、セラフィ、サーシャ。頼みがある」
俺の言葉に強引に止めようとしてきていたロイドの動きが止まる。憤り、戸惑い、不安。三者三様の感情がここからでも伝わってくる。
俺はそれを見て、どこか安心したような気持ちになり口元を綻ばせた。そして、伝えるべき言葉を伝える。
「――どうか、助けれくれ」




