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悪役令息に転生した俺は『原作知識』を駆使して破滅エンドを回避する 〜 原作に無い展開が始まったんだけど、ちょっと待って!?〜  作者: 彼方こなた
二章

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12/22

12. 【号外】悪役令息、敗北する!?



 今日はいつも以上に視線を感じる。


 (俺が負けたという噂が広まることが想像以上に早かったせいか。……いや、というよりもこれは)


「……アメリア?」


「何ですか?」


「くっつき過ぎではないか?」


「すぎないです」


「……少し離れてもらえないだろうか」


「ヤです」


「…………そうか」


 アメリアはまるでコアラのように俺の腕を掴んでいた。

 行動自体は大変可愛らしいのだが、如何せん周囲の視線が痛い。この状態から抜け出すにはどうすればいいかな、なんて考えていると救世主が現れた。


「――アルベルト! あんたの差し金かっ」


 肩で息をしながら現れたのはロイド。額には汗が滲んでおり、朝から相当お疲れのようだ。


「朝から知らねぇやつらに囲まれるわ、変な女に追いかけ回されるわ、もううんざりだ!」


「……待て。話が見えない。差し金とはなんの事だ?」


「オレがあんたに勝ったって噂を流したことだよ! 嫌がらせのつもりか!?」


「勝ったならばともかく、負けたことを吹聴する意味がわからないが」


「それは……っ! …………そう、だよな」


「大方、偶然目撃していた誰かが話したのだろう。お互い、決闘中は周囲を気にする余裕はなかったからな。気づかなくても仕方がない」


 本当はフェリシアに頼んで噂を流したのだが、それをロイドが知る術はない。


 頭が冷えたのか、ロイドは一度深呼吸をすると落ち着いた口調で謝ってきた。


「そりゃそうか。……悪い。オレの早とちりだった」


「許す。突然、有名人となったのだ。混乱しても仕方がない」


「へへっ。まあな。何でも、オレの祝福? が特殊だとか――」


「…………」


「……アメリア?」


 アメリアはロイドを避けるように、強く俺を引っ張った。


「話は終わりましたよね。私たちはこの辺で失礼します」


「ちょっと待てよ。まだ話をしてるだろ」


「してません。ありません。今、お兄様は妹を構うので忙しいので」


「そのお兄様がダチと話してるところだろうがよ」


「ダチ? 友達という意味ですか? ……お兄様、友達は選んだ方がいいですよ」


「なんだと!?」


 俺を挟んで喧嘩をし始めるアメリアとロイド。これが噂に聞く、私のために争わないで案件なのだろうが、嬉しさはなく、ただただ周囲の視線が痛い。


「……アメリア、ロイドは俺の友人で、俺がそう思えるだけの価値がある男だ。あまり侮ってくれるな」


「…………お兄様がそういうのでしたら。……言葉が過ぎました、エンブレッド様」


「お、おお。……オレもすぐにカッとなって悪かったな」


 よし。これで一件落着だな。

 二人が仲直りする様子を見て頷いていると、視界の端に何かが生えてきた。


「ダメ、ですねぇ。……ダメですよぉ、こんなにも目立ってしまっては」


「きゃあっ」


 突然の登場にアメリアが小さく悲鳴をあげた。

 灰色のぼさぼさ頭に血走った目。一見、不審者にしか見えない男だが、この学園の教師だ。


「アメリアさん、すみません。驚かせてしまったようで」


「……バードラ先生」


 バードラ・ディブラ。俺の魔法と教養のクラスの担当だ。


「ですがですが、このような場所での喧嘩は避けるべきです」


「は、はい。申し訳ございません」


「悪い、先生。オレが騒いじまってただけなんだ」


「おや。そうなんですか? アルベルトくん」


「……ああ。ロイドは声が無駄に大きいからな。それで喧嘩しているように見えたのだろう」


「……」


 ロイドのフォローを援護したつもりだったが、何故か彼から睨まれてしまう。……なぜだ。


「……そうなんですかぁ。そのようですねぇ。すみません。私の早とちりだったようです。ですがですが、ロイドくん、公共の場では声量には気をつけるようにしてくださいね」


「……はい。すんません」


 バードラ先生はそうとだけ言うと、ヒョコヒョコと足音を立てながら通り過ぎた。


「……庇っていただきありがとうございます」


「気にすんな。オレがやりたくてやった事だ」


 主人公らしいことを言うロイド。そして彼は「それよりも、だ」と言うと、じとっとした目を向けてきた。


「……無駄に大きくて悪かったな」


「悪いとは言っていない」


 そう返したものの、納得のいってないようでぶすっとした顔をするロイド。


 どうフォローすればいいかと考えていると、朝から元気過ぎる声が聞こえてきた。


「やっほー! おっはよー!」


「お、おはよう、ございます……っ」


 遅れて気弱な声が続く。

 明るい茶髪と黒髪おかっぱ眼鏡の少女二人。セラフィとサーシャだ。


「いやぁ、さっきバードラ先生に怒られてたねぇ」

 

「ちょっとだけだ。ちょっと騒ぎすぎちまったみたいでよ」


「あ、あの、噂のことについてですか?」


「……サーシャも知っているのか」


「は、はい。ついさっき、セラフィさんから聞いて」


 恐るべし噂の拡散力。

 想像を超える力に恐れ戦いていると、ロイドを突っつくのに飽きたセラフィがアメリアを見つけた。


「えー!? 何この娘! すっごく可愛い!」


「え、……あ、その……」


 アメリアはセラフィの勢いに押されて、俺の後ろに隠れる。多少なりとも改善したものの、アメリアは人見知りなのだ。


 だが、セラフィはそんな事お構い無しにずいっと近づく。


「アルくんとどーいう関係? ……あ、わかった! 妹ちゃんかお姉ちゃんでしょ!」


「は、はい……妹の、アメリアです……」


「初めまして! あたし、セラフィ! お兄さんの友達なんだー! で、こっちは、」


「さ、サーシャ、です」


「おい、セラフィ。こいつ怖がって――」


「いやぁ、一目見た瞬間に妹だってわかったんだよねー。だって、アルくんとそっくりなんだもん」


「え……!」


 アメリアの赤い目がきらりと輝く。


「そ、そうでしょうか……!」


「うんうん! 目とか髪の色とか同じだし、目元とか超そっくり!」


「し、仕草や言葉選びとかも似ていますよね……やっぱり、家族だからでしょうか……」


「えへ、えへへ」


 セラフィとサーシャの言葉がそんなにも嬉しいのか、頬が完全に緩みきっている。


「……本当に似ているな、あんたら兄妹は」


「そうだろうか」


「そっくりだ」


 俺とロイドは壁にもたれ掛かりながら、女子が話し終えるのを待つのだった。



 


 ☆ □ ☆ □ ☆



 


「そういうことなんでしょうかぁ? ……そういう事なんですねぇ」


 灯りがひとつしかない部屋で、男はぶつぶつと喋っていた。


「これは世紀の大発見です。リリス様に続いて、これほどの逸材を見つけるとは……!」


 男の目線の先には数枚の紙。そこに書かれた情報はどれを取っても男が喉から手が出るほどに欲したものだった。


「……ああ、もちろんです。約束は守りますとも。なにせ、私は聖職者ですから」

 

 男は虚空に向かって話しかける。


「……それにしても」

 

「彼にそれだけの価値があるとは、私にはどうしても思えませんね」

 

「えぇ、えぇ、わかっていますとも。詮索はしませんよ」

 

「私が興味あるのは魔法――私が魔法を扱えるようになること。それが叶うのなら、それ以外は必要ない」


 ギラりと、眼鏡が妖しく光る。


「お約束しましょう。私の大切な生徒であるアルベルト・ヴォルフシュタインを――破滅させると」



 男は笑う。何もない暗闇を見て。

 男は手を伸ばす。その先には地獄しかないというのに。

 男は焦がれる。地獄の先にある、楽園を。


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