闘気
セリオンとスルトは山頂にやって来た。
山頂には凍った湖があった。
「こんなところでどう修行をするんだ?」
「まあ、見ているがいい。これから私はおまえの気息を刺激する。まずはおまえ自身が自分の気息を感じて見てみるといい」
そう言うと、スルトはセリオンの額に自分の手を当てた。
スルトが手を当てると、セリオンの中で何かが動いた。
「!? これは!?」
セリオンはびっくりした。
まるで自分の中の未知の要素が動き出す感覚だった。
こんな感覚は初めてだ。
「気息は自発的活動の源であり、精神の上位領域だ。そしてこれから習得する闘気の源でもある。さっきは気息の動きを感じただろう? こんどはおまえが自分の気息を動かしてみるのだ」
「そういわれても……」
セリオンは躊躇した。
いきなり言われてもそんな簡単にできるだろうか?
「フッ、まずはやってみることだ。やってみないことには何もできないぞ?」
「わかったよ」
セリオンは目を閉じた。
そして自分の中の気息に集中した。
セリオンの体から蒼い粒子が現れる。
これはセリオンが気息を感じている証拠だ。
スルトは満足そうにうなずいた。
「それでいい。おまえはやはりセンスがある。気息とは霊性の根源でもある。気息を扱えるようになれば、おまえはもっと強くなれる」
「はあ……はあ……」
セリオンにぐっと疲れが訪れた。
「最初はそんなものだ。鍛えれば鍛えるほど、実践で使えるようになる。私は別の場所で修業をする。しばらくおまえ一人でいろいろと試してみるがいい」
スルトは凍った湖から去っていった。
セリオンが一人取り残される。
セリオンは一人だけになった。
いろいろ試してみろと言われたが、正直セリオンには気息は扱いかねるような代物だった。
実戦投入できるようになるにはどれだけの研鑽が必要だろう。
「さて、いろいろ試してみるか」
セリオンは気息を活性化させた。
セリオンは自然に息をした。
息をはきそして、吸う。
それをひたすら繰り返していく。
セリオンの中に気息はまだ原始的だ。
今さっき活動を始めたばかりだ。
だから、自在にコントロールできない。
それでもセリオンは気息を集中させていく。
セリオンは立ったまま、気息を動かす。
セリオンは気息を通して世界を知覚した。
それはすばらしい感覚だった。
超感覚的知覚と行ったらいいだろうか。
気息から見る世界は新鮮で、驚異に満ちていた。
セリオンは息を繰り返す。
気息の源は息だ。
息こそ、気息の、霊性の根源なのだ。
セリオンは気息を全身にいきわたらせる。
全身が生き生きとしてくる。
セリオンは今度は気息を自身の体から放出させてみた。
すさまじい波動が全身を駆け巡る。
「これが……闘気?」
セリオンから放たれるのは蒼い闘気だった。
「どうやら、闘気をつかんだようだな」
「スルト?」
そこにスルトが戻ってきた。
スルトはセリオンの進捗具合を満足げに眺めていた。
「私の闘気を見せよう。フン!」
スルトの体から雷の粒子が吹き荒れる。
スルトの闘気は放電していた。
「それが、スルトの闘気……」
セリオンは呆然とした。
今の自分とはそのすごさ、洗練さ、力強さ、いずれもかなわない。
「これが私の闘気だ。雷気という。雷の闘気だ」
「雷気……」
「おまえの闘気にも名をつけなくてはな」
「名前を付ける? どうして?」
「その方が出しやすいからだ。アンシャルの闘気は風気だ。おまえの闘気は蒼い。それゆえ『蒼気』と呼んではどうか?」
「蒼気……」
セリオンは蒼気の出力を上げてみた。
すさまじいパワーがあふれる。
「全身に闘気をいきわたらせることができたら、今度は武器を持て」
「なぜだ?」
「武器に蒼気をまとわせる。武器と闘気をドッキングする」
セリオンは片手剣を取った。
そして今度は武器にまで闘気をいきわたらせる。
武器が震えた。
「上出来だ。そのまま剣を振るってみるがいい」
「あ、ああ」
セリオンは軽く武器を振るってみた。
するとすさまじいパワーがあふれ出た。
「これは……?」
「それが闘気の真髄だ。己と武器を一つとし、戦う。それが闘気による戦闘だ」
「うっ……」
セリオンの闘気が解けた。
まだまだ制御に問題があるようだ。
「まだだ、まだ俺には使いこなせない」
「当然だ。誰しも闘気を使えるようになるためには時間を要する。普通は十五歳で習得するのだ。おまえは五歳もはやくやっているのだぞ?」
「少し、休みたい」
「いいだろう。今回の修業の終わりは……あれが見えるか?」
「? あの岩がどうかしたか?」
セリオンの前には巨大な岩があった。
スルトは二っと笑う。
「あれを斬れたら今回の修業は終わりだ」
「なっ!? あんなものどうやって斬れるというんだ……」
セリオンは絶望感に包まれた。
いくら闘気だからってそんな簡単にできることじゃない。
セリオンにはスルトの基準が厳しすぎると思った。
「セリオン、これは剣と同じだ。斬れると思う、だから斬れる。その法則はシンプルだ。まずはやってみるがいい。闘気はただ放出するためにあるのではない。収束し、練り上げることで切断力を増していく。蒼気を練るのだ」
「蒼気を練る……」
セリオンはスルトの言葉を繰り返した。
セリオンの前には大きな岩。
それが傲然と立ちふさがっている。
セリオンはこの試練に挑戦することにした。
やってみる。
そうまずはやってみることだ。
できないと思っているうちは決してできないだろう。
最初にできると自分を信じること。
それが何よりの道だ。
自分の全力をこの岩にぶつけてみる。
それがセリオンの試練なのだ。
セリオンはスルトの前で闘気を放出した。
闘気の放出はもう慣れた。
後はこの岩を何とかできるかどうかだ。
セリオンの挑戦が始まった。




