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ヘルデンリート・ネオン Das Heldenlied Neon  作者: 野原 ヒロユキ
Artemidora ~Der Beginn von Hierosophie~
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スルトとの修行

これは十年前のこと。

セリオンが十歳のころである。

セリオンはスルトに連れられて、修行に出かけた。

この修行はセリオンに闘気を身につけさせるためのものだった。

スルトはこの時四十歳だった。

セリオンとスルトは雪山に登っていった。

セリオンは荷物を背負いながら、スルトの後について行く。

セリオンにはスルトの背中しか見えない。

スルトは全身に甲冑を着こんでいた。

これはスルトにとって、Anzugスーツと同じだった。

スルト・ボルグ……テンペルの創始者。

彼はセリオンにとって義父に当たる。

セリオンは小さいころからスルトとは知り合いだった。

セリオンにとっては小さいころスルトとディオドラで話があったことは覚えている。

セリオンはその時、五歳でディオドラに連れられてスルトの部屋にやって来たのだ。

「どうか、この子の義父になってくださいませんでしょうか?」

「ふむ……」

ディオドラがスルトに用件を伝える。

ディオドラの希望はスルトにセリオンの義父になってもらうということだった。

スルトの部屋は武器が飾られていた。

「それはアンシャルでは力不足というわけか?」

「それは違います。兄さんは十分父親としてこの子に接してくださいます。ただ、この子にはスルト様のような方にも鍛えていただきたいのです」

「なるほどな。セリオン君、君は何のために戦う?」

「俺が戦士だからです」

「戦士には戦う理由が必要だ」

「それはどうしても必要なことですか?」

「そうだとも。もう一度問おう。君は何のために戦う?」

「大切なものを守るためです」

「いい答えだ。君は武器に興味があるのかね?」

「はい」

「それではこの部屋にあるものを好きに手に取ってみるがいい」

セリオンはこの部屋の壁にあるスルトの武器を見に行った。

ディオドラは少し、心配そうだった。

「心配することはない。彼は戦士として生まれた。ゆえに戦いのことはわかっているのだろう。それで、義父の件だが」

「はい、引き受けてくださいますでしょうか? すべてはこの子のためなんです」

スルトは笑った。

スルトが笑うのは珍しい。

セリオンは大剣の前まで来ていた。

それを興味深そうに眺めていた。

スルトは大剣を手に取る。

「これが気になるのか?」

「うん」

「今の君では使いこなせまい」

「うん……」

「だが、いずれ君はこの武器を使いこなせるようになるだろう。それまでは片手剣を使うといい。それにしても、君はまるで狼だな?」

「俺が狼?」

「そうだ。誇り高いということだ」

「この子の義父になる件、むしろこちらから喜んで務めさせてもらおう」

「!? ありがとうございます!」

ディオドラは感激のあまり泣き出した。

「どうした? そんなにうれしいのか?」

「いえ、そうではないんです」

「では、どうして泣く?」

「この子にはどうしても父親が必要だと思ったからです。私は(しゅからこの子の養育を託されました。正直、不安があるんです。私はもちろん、この子を愛しています。私にできることはこの子を愛することだけです。ですが、父親が導いてくれないと、この子は成長できないでしょう。母親だけではだめなんです。絶対にこの子には父親が必要です。この子の人生のためにも父親が必要なんです」

ディオドラは涙ながらに訴えた。

ディオドラは自分に息子の養育ができないというわけではない。

だが、それはあくまで母親の存在にすぎない。

ディオドラがどんなにセリオンを愛しても、自分が母親である限りできないことはある。

セリオンに必要なのは父親の世界である。

セリオンに武の道を歩ませてくれる父親である。

アンシャルは理知的過ぎる。

スルトのような父親が必要なのはそのためだ。

セリオンは戦士である。

セリオンには戦士の父が必要だった。

「セリオン君」

「?」

「私はこれから君を『若き狼』と呼ぶことにしよう」

「『若き狼』?」

「君にはそう呼ぶ方がふさわしい」

これがセリオンにある、スルトとの思い出深い出来事だった。

セリオンがそんなことを回想しているとき。

「若き狼よ」

「何だ?」

「私たちは山頂まで行く。そこでテントを張るぞ」

「ああ……」

スルトはアンシャルと比べてあまりしゃべる方ではない。

どちらかといったら寡黙な方だろう。

スルトは話すことが嫌いなわけではない。

重要なことは必ず言葉で話す。

セリオンとスルトの関係は基本的な信頼関係ができていた。

二人はただ黙って山道を歩く。

ブロッケン山はそんなに高い山ではなかったが、この時期は雪が降るため、白い雪が辺りに積もっていた。

この山は白い幽霊が出るといううわさがあった。

セリオンは出発前のことを思い浮かべる。

「じゃあ、行ってくる」

セリオンはディオドラと、子供のエスカローネに告げた。

エスカローネは髪をツインテールにしていた。

向かい側にはもうすでにスルトがいた。

「セリオン、気をつけてね」

「ああ」

「セリオン、食べもには気を付けるのよ?」

「わかってる」

「なんていうか、俺は俺になるために行ってくる」

「セリオン?」

エスカローネはふしぎそうに尋ねた。

彼女には自分が言ったことが分からなかったようだ。

「ああ、俺は戦士クリーガーだ。今度の修業は俺が戦士になるためのものだ。俺は強くなる。強くなって、母さんやエスカローネを守れるようになる。いつ帰れるかは分からない。俺の修業での成果次第だから。でも、俺は強くなって帰ってくるよ」

セリオンはエスカローネを抱きしめると、スルトのもとへと向かった。

再び、現在に戻る。

「なあ、スルト?」

「どうした?」

「また、雪が降るかな?」

「それはわからん。だが、修行は雪が降ろうと行われる。さすがに雨の時は中止するが……」

「そっか」

「今回の修業はおまえの闘気の習得だ」

「ああ」

「闘気は個人的な色彩が大きい。それだけにおまえがどんな霊性スピリチュアリティーを獲得するのか、それが楽しみだ」

二人はそれから黙々と山頂を目指して進んだ。

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