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ヘルデンリート・ネオン Das Heldenlied Neon  作者: 野原 ヒロユキ
Artemidora ~Der Beginn von Hierosophie~
5/24

家にて

セリオンの父はアンシャル・シベルスク(Anschar Sibersk)。

母はディオドラ・シベルスカ(Diodora Siberska)。

アンシャルは聖導騎士団の副団長だった。

そしてテンペル設立の最古参のメンバーでもある。

彼は剣技も治めていたが、同時に知性の人でもあった。

髪は長い金髪で、目の色はセリオンと同じアイスブルー。

トレードマークは白いコートを着ていること。

聖導騎士団せいどうきしだんは闘気を扱う専門家集団でもあった。

軍服の色は青で、これは精神ガイストの色を現す。

今日はセリオンが無事に帰ってきたことと、英雄になったことのためにささやかなパーティーを開いていた。

出席しているのはセリオン、エスカローネ、アンシャル、ディオドラである。

さすがに聖導騎士団の副団長ともなると、官舎があてがわれる。

「セリオンの英雄到達と、ファーブニルの打倒を記念して、乾杯プロースト!」

「乾杯!」

アンシャルは音頭を取る。

アンシャルはセリオンに剣を最初に教えた人物だ。

アンシャルの教育はアテネ式かつスパルタ式だった。

肉体に限界以上の負荷をかけ、同時に頭脳労働が可能な頭も作った。

アンシャルはディオドラの兄にあたる。

セリオンからすれば正確にはおじになる。

だが、アンシャルは父としてセリオンに接した。

アンシャルは今四十歳だ。

パーティーということで、料理はディオドラが腕によりをかけて作った。

ケーキもあるし、ワインも出る。

「セリオン、よく帰ってきてくれた。おまえは真の英雄だよ」

「アンシャル、あまり褒めないでくれ。恥ずかしい」

「うふふ、セリオンたら緊張しているのね?」

ディオドラがほほえむ。

こうした団らんはセリオンが小さいころからあった。

セリオンとエスカローネはそれを空気のように吸って育った。

家族のイベントはいろいろあったが、セリオンは四人で過ごすのが好きだった。

セリオンはアンシャルとは血縁だったが、エスカローネと血のつながりはない。

エスカローネは捨て子であった。

ちょうどセリオンが赤子だったころ、エスカローネは捨てられていたのだ。

エスカローネの母らしき人はディオドラにエスカローネを託して死んだ。

エスカローネの出生は謎だった。

アンシャルも調べてみたのだが、エスカローネの出生を示すものはなかった。

以来エスカローネはアンシャルとディオドラに育てられて、現在に至る。

アンシャルやディオドラからすればエスカローネは娘も同然だった。

特にディオドラはセリオンとエスカローネを愛した。

それが良かったのだろう。

二人は愛することを学んだ。

「正直、私は不安を持っていた」

「どうして、お父さん?」

エスカローネはアンシャルをお父さん、ディオドラをお母さんと呼ぶ。

「それはな、セリオンという最高のカードを切ったんだ、テンペルは。後には引けなかったのさ」

「でも、兄さんはセリオンが勝つとわかってもいた、そうでしょう?」

「まあ、な」

「それはどうして?」

「セリオンは雷の技が使えた。それならファーブニルにも通じるのではないかと思っていたんだ」

「ああ、実際雷の技で俺はファーブニルを倒した。それは事実だ」

「セリオンはやっぱり強いのね!」

「やがりそうだったか。この件はスルト団長ともずいぶん話したんだ。セリオンはファーブニルに勝てるかどうか」

「きっと、スルト団長も兄さんと同じだったんじゃないかしら? 一人息子を送り出す父親のような……」

「うん、そうね、私もそう思う」

セリオンにとって父と呼べる人は二人いる。

一人は風王ヴィント・ケーニヒアンシャル。

育ての父だ。

それに対して、もう一人は雷帝ドナー・カイザースルト。

テンペルの聖導騎士団団長にして、テンペル総長。

セリオンにとっては剣の父でもある。

セリオンは父が二人という非常に恵まれた立場にあるわけだ。

「ファーブニルは強かったよ。なにせあいつのブレスをくらったら一撃で終わりだった」

「ツヴェーデン軍も勝てなかった相手だ。それはそうだろう」

「私はセリオンが無事に帰ってきたとき、思わず涙があふれたわ。でも、とてもうれしかった」

「私もセリオンとまた会えた時、思わず抱きついちゃった」

「みんな歓迎してくれたからな。俺もうれしかったよ」

こうして夜も更けていった。

セリオンとエスカローネはそれぞれ部屋に戻った。

宿舎はアンシャルとディオドラだけになる。

二人は、自然に話し出した。

「セリオンは英雄へと至る……レミエル様が言った通りね?」

「ああ、そうだな。まさか本当に英雄になってしまうとはな。セリオンは希望だ」

「希望?」

「ああ、あいつには人を信じさせるものがある。あいつを信じればうまくいく、そんな感じがするんだ。おまえは何か感じないか、ディオドラ?」

「そうね。私はいつだってセリオンを愛してきた。でも、それはあの子が英雄だからじゃないわ。ただ、私が産んだ子だってだけで、あの子を愛したのよ」

「きっと、それが一番よかったんだと思う。セリオンは実の母から愛された。それがあいつを高みへと至らせたんだ」

「母親が息子を愛するのは自然なことよ」

「いや、そうとも限らない」

「? どういうこと?」

「私の知り合いにヤポニ人(Japoni)がいるが、彼らは母なるものを、母の愛を知らないようだ。民族的に、そうらしい。それゆえ、自分自身に自信を持てない人が多いように思える」

「悲しいことね。私たちにできることはないのかしら?」

「この問題は今すぐ解決できることじゃない。いずれその時が来るだろう。まあ、しばらくはこの平和を満喫していたいな。セリオンがもたらした平和だ」

「闇が暗躍する時、セリオンの戦いがまた始まるのね?」

「ああ、そうだ。あいつは光の希望だからな。息ある限り、希望はある、そういうことだ」

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