モルヴァン
セリオンは目を覚ました。
「ここは……現実か?」
セリオンは周囲を見渡す。
暗い会場で人々は倒れていた。
おそらく、セリオンと同じように、精神攻撃を受けているのだろう。
セリオンは違和感を感じたから、夢から覚めることができた。
あの夢は今思うと恐ろしい。
その人の願望や望みを映し出すからだ。
これはかなり危険だった。
なぜなら、自分が望むような映像を見せられて喜ばない人間がいるはずがない。
今倒れている人たちも今夢を見せられているのだろう。
それも心地よい夢を。
その中にい続けることは甘美だ。
それも自意識を失ってしまいそうなくらい。
いったい誰がどこでこんなことを行っているのか。
「そうだ、エスカローネは……」
セリオンはエスカローネを探した。
エスカローネはセリオンの隣で倒れていた。
「エスカローネ!」
セリオンが呼びかける。
「う、うん……セリオン?」
エスカローネが目を覚ます。
「どうやら無事に脱出できたようだな」
「あれは……夢?」
「おそらく」
「ここは夢じゃないのね?」
「ああ、そうだ」
エスカローネは立ち上がった。
セリオンも立ち上がる。
「恐ろしい夢だったわ」
「どんな夢だったんだ?」
「それは……知らない!」
「? なんて怒るんだ?」
エスカローネはほおを上気させて知らんぷりした。
セリオンは鈍いので、そんなエスカローネの気持ちは分からない。
「エスカローネも自力で脱出したのか?」
「ええ、夢の中のセリオンがどこか違うような気がして……」
「そうか。それにしても自発的に目覚めないということは、この夢攻撃を見破るのは難しいのだろう。さて、これからどうするか?」
セリオンとしてはこのままここを出てもいいのだが、敵がどこから攻撃を仕掛けてくるか分からない以上、二人で出て行くわけにはいかなかった。
「セリオン、あなたは行って。私がこの人たちを守るわ」
「それはいいアイディアだ。そうしよう。それじゃあ俺は外に出てくる。この事件の主がいるかもしれないからな」
セリオンは手に大剣を出した。
セリオンは魔力の後をたどって移動した。
夜空のもと、一人の貴婦人がいた。
彼女は夜の静寂と調和していた。
夜は涼しい。
夜風が彼女の肌を触れた。
彼女の足元には魔法陣があった。
これが夢を見せるための必要だった。
彼女は人々に眠らせて、夢を見させていた。
甘美な夢を見るがいい。
だが、それは必ず破られる。
その夢が甘美であるほど、敗れた時の絶望は深い。
闇は闇の理で動く。
光と闇は対立する。
それは主なる神が光と闇を分けたからだ。
闇の理は憎しみ、絶望、恐怖などだ。
彼女はふとセリオンとダンスを踊ったことを思い出す。
あれはいいダンスだった。
優しくエスコートしてもらった。
「ふふふ……ソムニフェラとは言ったものですね」
彼女は笑う。
ソムニフェラとは『夢をもたらす者』という意味だ。
それは彼女の本名ではない。
もっともセリオンの方も本名ではないとうすうす気づいているだろう。
「ふふふ……眠りなさい。そして甘美な夢を見せて差し上げましょう。願いは全て叶えられるのです」
「その後はどうなる?」
「!?」
ソムニフェラは振り返った。
そこには宮殿の屋根の上にセリオンが立っていた。
「セリオン・シベルスク……」
「人々を眠らせて夢を見せる。終わらないユートピアを見せるつもりか、ソムニフェラ?」
「フフフフ……そうでしょうか? 人は自分が望みたいようなことを喜んで信じるものです。彼らは自分たちがあってほしいという願望を見ているにすぎません」
「そんなものは『どこにもない』。おまえはいったい何者だ?」
風がソムニフェラの髪を流れさせる。
「私は夢を司る魔女です。私は漆黒の三魔女バシュヴァが一人、モルヴァン(Morvan)です」
「バシュヴァ……おまえもその一人だったのか。ならネヴァハとマヴァハの一件は知っているな?」
「もちろんですよ。あなたに敗北したと報告が来ております」
「今すぐ魔法陣を止めろ。そうすれば、身は安全にツヴェーデン政府に引き渡す」
「どちらもごめんこうむります。もし私の行動を阻止したいのなら、実力で行使するのですね」
「いいだろう。それが早そうだ」
セリオンは大剣をモルヴァンに向けて構えた。
モルヴァンは手に大鎌を出した。
「鎌、か?」
「そうですわ。命を刈り取るにはふさわしい武器でしょう?」
モルヴァンが消えた。
するとセリオンの前に現れた。
モルヴァンが大鎌を振りかぶる。
セリオンはそれに反応して大剣で受け止めた。
カキーンと音が鳴った。
「ゼンゼン・タンツ!」
モルヴァンが嵐のような連続攻撃を展開する。
モルヴァンは鎌の舞を踊った。
セリオンはそのすべてを防ぐ。
「闇魔鎌!」
モルヴァンは鎌から闇の刃を飛ばした。
セリオンはとっさにリヒト・シュナイデを出して迎撃する。
「はっ、光波刃!」
セリオンが今度は光の刃を飛ばす。
モルヴァンは再び闇魔鎌で対抗する。
「クッ……やりますね……」
モルヴァンが悔しそうに言う。
セリオンは今までの手合わせからモルヴァンの実力を見切っていた。
モルヴァンの実力ではセリオンに勝つことはできない。
「……いいでしょう。ここは引きましょう。私は戦士ではありませんから」
「逃げるのか?」
「そうです」
モルヴァンはあっさり認めた。
「ここは引かせてもらいましょう。それではセリオン・シベルスク、また会えることを願っていますよ?」
モルヴァンは闇の中に消えた。
「逃げた、か」
セリオンは会場に戻った。
そこでは眠っていた人々が目を覚ましていた。
「エスカローネ!」
「セリオン!」
「魔女は去ったぞ」
「ええ、そうみたいね。眠っていた人々が目を覚ましたようだわ」
「漆黒の三魔女バシュヴァ……いったい何を考えている?」
セリオンの言葉は虚空に消えた。




