ダンスパーティー
テレージエンホーフにて舞踏会は催された。
セリオンはタキシードで、エスカローネはスリットが入った青いドレスで出席した。
雰囲気は上々だった。
会場では多くのカップルがダンスを踊ったり、話をしたりしている。
セリオンとエスカローネも一曲は踊った。
ただ、二人はダンスがそんなに好きではなかったため、あとは窓際で談笑していた。
幸い、ワインや食べ物が用意されていたので、そちらを二人は楽しむことにした。
今セリオンは一人だ。
エスカローネはお手洗いに行っている。
セリオンは窓際に立った。
夜空は眩しい。
今日は星がよく見える。
「もし」
「? 俺に用か?」
そこに現れたのは長い黒い髪に、マーメイド型のドレスを着た美女。
「あなたはセリオン殿ですね?」
「違うかもしれないぞ?」
「フフフ、セリオン殿は冗談がお好きなんですね。私はそう、ソムニフェラ(Somnifera)とでも名乗っておきましょう。もしよろしければ、私と一曲お相手願えますか?」
「ああ、いいぞ。ちょうど連れがいないからな」
セリオンはソムニフェラの手を取った。
そして会場の中央でダンスを踊る。
セリオンはエスカローネと踊っているようにはいかなかったが、ソムニフェラを丁重に優しくリードした。
ソムニフェラの動きは洗練されていた。
彼女はどこかの貴族なのだろうか?
ツヴェーデンでは貴族制度は廃止されたが、いまだに貴族の家出身の市民もいる。
「うふふふふ……いいダンスでしたわ」
「あなたは目が?」
「そうです。私は視覚障碍者です。まったく見えないわけではありませんが、基本的には見えません」
「そうか。目が見えないと大変だな」
「そうでもありませんよ。心の目は養われます」
「心の目、か」
「それではセリオン殿、今夜はこのくらいで。またお会いしましょう」
「そうあってほしいものだ」
「必ず、また会えますとも。それではごきげんよう」
ソムニフェラはそういうと去っていった。
「セリオン!」
「ああ、エスカローネか」
「お待たせ。待った?」
「いや、そうでもない。どうだ、俺たちももう一曲踊らないか?」
「ええ、いいわよ」
その時、会場の明かりが消えた。
「明かりが……」
「エスカローネ、俺につかまってろ」
セリオンはエスカローネを抱き寄せる。
すると周囲の人々が倒れだした。
人々は意識を失っていいるのだ。
「これは!?」
「セリオン!?」
「くっ、ね、眠い……」
「あ、私も……」
セリオンとエスカローネも二人して眠ってしまった。
気づくとセリオンは目覚めていた。
ここはどこだ?
テンペルの中のようだ。
「セリオーン!」
「エスカローネ、無事だったか!」
「無事? 何を言っているの、セリオン?」
「エスカローネ?」
おかしい。
セリオンはエスカローネといっしょにいたはずだ。
いや、おかしくない。
それはそういうものだ。
そうなのだ。
この世界ではそうなのだから。
「その子は……ユリオンとフィオネもいっしょか」
そうだ。
この子は俺とエスカローネの子供だ。
俺たちは結婚した。
そして、子供を二人もうけた。
それがユリオンとフィオネだ。
ユリオンは男の子。
フィオネは女の子だ。
エスカローネは男の子と女の子が一人ずつほしいと言っていた。
セリオンはソードマスターに『なった』。
「俺はソードマスターになったんだな。そんなことも忘れていた」
「ふふふ、おかしなセリオン。じゃあ、そろそろ家に帰りましょう」
「ああ、そうだな。俺は騎士の中の騎士だ。俺は栄誉も愛も手に入れたんだ。……そのはずだ。」
「どうしたの? セリオン?」
セリオンはどこかに深い違和感を感じた。
これは現実だろうか?
セリオンにはそれを疑う自分がいた。
「なあ、エスカローネ、これは現実なのか?」
「ふふ、おかしなことを言うのね。セリオン、これは現実よ。現実になったの。私とセリオンは結婚した。私はセリオンの妻よ」
「そうだな、そうだったな。どこか俺はおかしいようだ。これが現実だったはずだ。俺はソードマスターで、騎士の中の騎士で……」
どうやら疲れているようだ。
こんな幸せを疑うなんてどうかしている。
俺は幸せを手に入れた。
エスカローネと結婚して子供をもうけたのだ。
今の俺には栄誉も愛もある。
この二つとも、俺は手に入れた。
ああ、主よ、万歳! ハレルヤ!
俺は今幸福の絶頂にいる!
だが、セリオンの勘はそれに従わなかった。
これは……偽物だ!
エスカローネは湖のそばにいた。
「? どうしたのかしら? 私は眠っていたのかしら?」
「エスカローネ」
「セリオン! 無事だったのね!」
「もちろんだ、エスカローネ。俺たちは愛し合っているんだから」
「セリオン?」
エスカローネはセリオンに違和感を感じた。
セリオンはこんなんだっただろうか?
いや、『そう』だった。
セリオンはそうだった。
間違いない。
なぜなら、それは疑われることなき真実だったのだから。
「変ね。私、セリオンが変だって思っちゃった」
「ふふふ、おかしな、エスカローネだな。そうそう、俺の言葉を受け取ってほしい」
「? 何?」
「エスカローネ、俺と結婚してくれ!」
「!? ええ!?」
エスカローネは驚いた。
この言葉はエスカローネが『聞きたかった』もの。
エスカローネが現実であってほしいと思っていたことだ。
その言葉が今セリオンから発せられた。
エスカローネは幸せの絶頂に至ってしまう。
「よ、喜んで……」
「エスカローネ、俺は君を愛している」
「私もセリオンを愛しているわ」
二人は見つめ合う。
エスカローネの胸はドキドキとときめきで止まらなかった。
ああ、これが幸せなんだ。
エスカローネは幸せをかみしめた。
これが現実なんだ。
私は幸福の絶頂にいる!
おかしい、変だ。
「ねえ、セリオン、これって現実なのよね?」
「何を言っているんだ、エスカローネ? これが現実だ」
違う!
このセリオンは本物ではない!
これは現実ではなく、偽物の世界だ!




