暴龍ファーブニル
戦いは万物の父である――。
ここは戦場だった。
場所はヴァイセンベルクの頂。
二十年後、セリオン・シベルスク(Selion Sibersk)が二十歳のころ、彼は一体の龍と対峙していた。
その名は暴龍ファーブニル。
暴虐の限りを尽くした、青い巨大な龍である。
ファーブニルは強い。
この龍はツヴェーデン連邦共和国の正規軍を一蹴していた。
セリオンは所属する組織から指令を受けて、ファーブニルを討伐するために赴いたのだ。
ファーブニルが大きな翼を広げてセリオンを威圧する。
ドラゴンは大きく、巨大で、獰猛だった。
およそ、人間がかなうことのない敵である。
だが、そんなドラゴンを前にして、セリオンは恐れていない。
セリオンは白銀の片刃の大剣『神剣サンダルフォン(Sandalphon)』を構えて平然と立つ。
セリオンは金髪の髪に、アイスブルーの目をしていた。
そんなセリオンを見て、ファーブニルは奇異な感じを抱いたのだろう。
なぜ、恐れない?
その目は明らかにそう見なしていた。
ファーブニルからすれば恐れおののき、恐怖と絶望で死ぬことこどが自分に対する正しい態度だと思っているのだ。
ファーブニルはまるで暴君だった。
ファーブニルは今まで対峙してきた者たちをことごとく抹殺している。
これがファーブニルの自信の源だろう。
もっともセリオンからすればそれは過信でしかなかったが。
二者は互いに互いを主張する。
セリオンは自分の誇りを、ファーブニルは自分の脅威を。
「このまま何もしないでいるわけにはいかないな。こちらから攻めさせてもらうぞ?」
セリオンはファーブニルに武器で斬りつけた。
セリオンの大剣は戦車でも斬ることができるほどの斬れ味を持つ。
だが、それがファーブニルの体に弾かれる。
ファーブニルの体がそれを防いだのだ。
恐ろしいほどの硬さである。
「くっ、硬い!」
ファーブニルはアギトを開いて、セリオンに喰らいつこうとする。
だが、そんな攻撃をくらうほどセリオンはのろくない。
盛大にファーブニルの口がすかった。
セリオンはファーブニルと距離を取る。
セリオンはファーブニルとの接近戦は危険だと考えて、あえてファーブニルと距離を取ったのだ。
そしてこのセリオンの判断は正しかった。
ファーブニルは憎々し気にこちらを眺める。
ファーブニルにとってセリオンは未知の敵であった。
今までファーブニルと対峙した敵はすべて、こちらを恐れた。
兵士の中には失禁した者もいるくらいである。
ファーブニルほどの凶悪な龍を恐れることははじではない。
人間にとって本能的なものだ。
だが、この敵は青き狼セリオンは違った。
彼はファーブニルを恐れなかった。
彼はファーブニルをいかに倒すか、冷静に考えている。
ファーブニルにはそれも気に入らないのだろう。
同時にそれは自身にとって危険な敵でもあるということだ。
ファーブニルの爪に鋭い刃が生じた。
これは風のカッターだ。
ファーブニルは風のカッターをセリオンに向けて飛ばしてきた。
セリオンは大剣でそれを斬り裂く。
風のカッターはあっさりと無効化された。
この程度の攻撃ならセリオンには通じない。
「そんな攻撃が俺に通じると思うなよ?」
セリオンは目で挑発する。
それをファーブニルは見逃さなかった。
ファーブニルは怒りに燃える。
そして、今度は両の翼に風を集め始めた。
風は渦巻き、荒れ狂う。
それはすさまじい暴風だった。
セリオンは顔を引き締める。
ファーブニルがその風をセリオンに向けて叩きつける。
『ドラッヘン・ヴィント』。
ファーブニルの暴風である。
セリオンは跳んだ。
それもただジャンプしたわけではない。
セリオンは全身に身体強化魔術を用いて、ものすごい飛距離を跳ぶ。
セリオンはファーブニルの顔面に着地した。
それからすぐに再び、身体強化で元の位置に戻る。
地面ははじけ飛んでいた。
「……なんて攻撃だ。まともにくらったら終わりだ」
ファーブニルは口に炎をたくわえる。
セリオンはその徴候から次に炎の息が来ると予測できた。
灼熱の炎がファーブニルの口からはき出される。
この炎は戦車でも溶かす。
セリオンは炎に呑み込まれた。
セリオンは死んだ。
普通ならだれもがそう思うだろう。
炎が収まる。
すると、無傷のセリオンが立っていた。
ファーブニルには理解できない。
なぜ、立っているのか?
それも無傷で?
ファーブニルは再び炎の息をはき出した。
だが、それはセリオンには通じない。
セリオンは全身から蒼い闘気を放出した。
それは蒼気という。
セリオンは全身に蒼気をいきわたらせて、炎を防いだのだ。
炎が通じないと悟ったファーブニルは別の攻撃に切り替えた。
今度は口に青い光が宿った。
「む!?」
セリオンは警戒を最大にまで引き上げる。
ファーブニルは口から青い息をはいた。
それは太いレーザー光線のようにファーブニルの前面を薙ぎ払った。
すさまじい衝撃が巻き起こる。
セリオンは後退していたため無事だった。
ファーブニルは再び青い息をはいた。
今度はセリオンを正確に狙ってきた。
セリオンは大きくジャンプしてそれをやり過ごす。
セリオンがいた位置にクレーターができる。
セリオンは大剣に雷をまとわせる。
この技はセリオンが対ファーブニルのために使うつもりだった。
「雷鳴剣!」
雷電がファーブニルに降り注ぐ。
「ギヤオオオオオオオオオオオオ!?」
ファーブニルは雷電で全身を焼かれた。
雷の技なら、ファーブニルの体の硬さを突破できる。
それゆえに、セリオンはこの技を出す瞬間をじっと待っていた。
ファーブニルが怒り狂う。
この程度ではファーブニルは倒せない。
そもそも、龍種の生命力は驚異的だ。
だが、セリオンは焦らない。
セリオンには一撃必殺の技がある。
セリオンの大剣が雷光で輝いた。
セリオンはファーブニルの体に雷光の一撃を叩きつけた。
セリオンの技『雷光剣』である。
この技はセリオンの技の中でも一撃の必殺の威力を誇る。
ファーブニルが絶叫する。
ファーブニルの生命力は尽きてそのまま前に倒れこんだ。
ファーブニルの体が青い粒子に還っていく。
ファーブニルはそのまま消えていった。




