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ヘルデンリート・ネオン Das Heldenlied Neon  作者: 野原 ヒロユキ
Artemidora ~Der Beginn von Hierosophie~
18/24

招待状

セリオンとエスカローネはスルトのもとにいったん帰ってきた。

二人はあったことを報告する。

「……以上だ」

「ふむ……そうか」

「私たちはジェンティーレのもとを訪れた後、武装した兵士に襲われました。そのことから、ジェンティーレは黒幕で間違いないかと思います」

エスカローネが推測を述べる。

あの部隊はジェンティーレの手のものに違いない。

「アンデッドの事件は今のところ起こっていない。奴らも慎重になったのだろう。少なくとも、おまえたちが牽制した効き目はあったのだ」

「じゃあ、どうする? ジェンティーレはしらばっくれるぞ?」

「私もそう思います。彼はポーカーフェイスに通じているようですから」

「おまえたちには闇闘技場に出場してもらいたい」

「闇闘技場に?」

「私もですか?」

「いや、若き狼だけだ。さすがにエスカローネは血の匂いは嫌いだろう?」

「ええ、まあ」

エスカローネは人を傷つけることをあまり好まない。

武装兵士との戦いでも相手を無力化するにとどめていた。

彼女は優しい。

戦士クリーガリンとしては問題だが。

セリオンはそれを問題視していない。

セリオンは自分がそれをやればいいと思っていた。

セリオンは敵だと思った相手には容赦がない。

セリオンの世界観は基本的に仲間(Mitmenschen)、隣人(Nebenmenschen)、そして敵(Gegenmenschen)で構成される。

「俺が闇闘技場に出場すれば、事態は動くか?」

「だろうな。奴らはおまえを危険な存在だと思っているだろう。なら、なんとかして排除したいはずだ。それには闘技場での戦闘は都合がいい。『運悪く』死亡すること、つまり事故は起こりうるだろうからな」

「そんな、セリオンの死が事故だなんて……」

エスカローネは納得いきかねるようだ。

「安心しろ、エスカローネ。俺は死なない。勝ち上がってみせるさ」

「私はセリオンのことは信頼しているけど……」

「そんなに、若き狼が心配か、エスカローネ?」

「セリオンを一人だけで戦わせるのは心配です」

「闇闘技場の試合はダブルスではない。個人参加だ。おまえは見守ることだ、エスカローネ」

「はい……」

エスカローネはしぶしぶスルトの命に従った。

おそらく理性的には納得しているのだろうが、感情が納得しかけているのだろう。

エスカローネは理性の人ではない。

彼女は感情の人だ。

「大丈夫だ、エスカローネ、俺を信じられないか?」

「セリオンのことはもちろん信じているわ」

「なら、俺を出場させてくれ。自分の身は自分で守れる」

「セリオン……」

「決まったな。それでは闇闘技場の情報を集めさせるとしよう。おまえたちは休むがいい」

「わかった」

「わかりました」



「なぜだ!? どうして殺しに出てはいけない!?」

「しつこいぞ、バジーリオ。今は辛抱しておけ」

アンデッドキング・バジーリオはマヴァハに詰め寄った。

場所は闇闘技場の一室だった。

「おまえたちが派手に暴れたおかげで、テンペルの諜報部隊に足がつくところだった。我々は遊びで人殺しをさせたわけではない。おまえたちの実力を測るためだ」

マヴァハからすればバジーリオたちは血に飢えているだけだ。

彼らが求めるのは血への渇望。

ただ人を殺したいという欲望だった。

こいつらは強いのだが、定期的に血を与えないと不安定になるのだ。

商品としては致命的な欠陥だった。

「どうしても、血がお望みなら闇闘技場に出場させてやるが?」

「闇闘技場か……ほっほっほ! それも良かろう」

バジーリオは血を味わえるとわかると途端に温厚になった。

こいつ……ふざけた奴だ。

マヴァハはそう思いつつも、顔には出さない。

「お話し中失礼」

「ジェンティーレか。何しに来た?」

「つれないなあ? もっと歓迎してくれてもいいのに」

「……早く本題に入れ」

「セリオン・シベルスクにアンデッドのことが嗅ぎつけられた」

「何だと!?」

「セリオン・シベルスクに追手を差し向けたが、見事に全滅したよ」

「きさま……軽々しく行動すると、あの方の怒りを買うぞ?」

「おお、怖い。そうならないようにしているつもりなんだけどなあ」

マヴァハはジェンティーレをにらみつける。

こいつもこいつで軽率なことをしてくれる。

セリオン・シベルスクにここを嗅ぎつけられたら、今までの苦労が水の泡だ。

「それで、どうするつもりだ?」

「どうするつもりとは?」

「この失態の不始末をどうかたづけるのかと聞いているのだ!」

マヴァハは怒りをあらわにした。

マヴァハがこうして怒るのは珍しい。

もっとも、こいつらの失策で怒るなという方が無理な相談だった。

「安心してくれたまえ。セリオン・シベルスクは闇闘技場に出場させる。そこで合法的に始末するさ」

「フン、そう簡単にいくかな。セリオン・シベルスクはあのネヴァハを倒した男だ」

マヴァハはセリオンの力を見くびっていない。

セリオン・シベルスクは我々にとって脅威となる。

それはマヴァハの勘が告げていた。

「そうそう、バジーリオ、君にも働いてもらうよ?」

「ほっほっほ、わしにかね?」

「君も選手として出場すればいい。そうすれば血の味を味わうことができるさ」

「それは良い報告だ。どれわしはトレーニングでもさせてもらおうか」

バジーリオは部屋から出て行った。

「まったく、扱いがってが悪い奴だ。あいつは強いが、自尊心が高すぎる」

「そういうな。彼にもストレスを発散することは必要さ」

「それにしても、よくあいつを出場させる気になったものだな、ジェンティーレよ?」

「ははは、ぼくもセリオン・シベルスクに部下を倒されているからね。ここらで復讐と行きたいのさ。アンデッドは貴重な戦力だ。いざとなったらセリオン・シベルスクに全アンデッドをぶつければいいのさ」

「……」

マヴァハはジェンティーレの楽観ぶりには奇異を覚えた。

こいつも腹の底ではいったい何を考えているのか……。

まあいい、利用価値がある間は使わせてもらおう。


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