招待状
セリオンとエスカローネはスルトのもとにいったん帰ってきた。
二人はあったことを報告する。
「……以上だ」
「ふむ……そうか」
「私たちはジェンティーレのもとを訪れた後、武装した兵士に襲われました。そのことから、ジェンティーレは黒幕で間違いないかと思います」
エスカローネが推測を述べる。
あの部隊はジェンティーレの手のものに違いない。
「アンデッドの事件は今のところ起こっていない。奴らも慎重になったのだろう。少なくとも、おまえたちが牽制した効き目はあったのだ」
「じゃあ、どうする? ジェンティーレはしらばっくれるぞ?」
「私もそう思います。彼はポーカーフェイスに通じているようですから」
「おまえたちには闇闘技場に出場してもらいたい」
「闇闘技場に?」
「私もですか?」
「いや、若き狼だけだ。さすがにエスカローネは血の匂いは嫌いだろう?」
「ええ、まあ」
エスカローネは人を傷つけることをあまり好まない。
武装兵士との戦いでも相手を無力化するにとどめていた。
彼女は優しい。
戦士としては問題だが。
セリオンはそれを問題視していない。
セリオンは自分がそれをやればいいと思っていた。
セリオンは敵だと思った相手には容赦がない。
セリオンの世界観は基本的に仲間(Mitmenschen)、隣人(Nebenmenschen)、そして敵(Gegenmenschen)で構成される。
「俺が闇闘技場に出場すれば、事態は動くか?」
「だろうな。奴らはおまえを危険な存在だと思っているだろう。なら、なんとかして排除したいはずだ。それには闘技場での戦闘は都合がいい。『運悪く』死亡すること、つまり事故は起こりうるだろうからな」
「そんな、セリオンの死が事故だなんて……」
エスカローネは納得いきかねるようだ。
「安心しろ、エスカローネ。俺は死なない。勝ち上がってみせるさ」
「私はセリオンのことは信頼しているけど……」
「そんなに、若き狼が心配か、エスカローネ?」
「セリオンを一人だけで戦わせるのは心配です」
「闇闘技場の試合はダブルスではない。個人参加だ。おまえは見守ることだ、エスカローネ」
「はい……」
エスカローネはしぶしぶスルトの命に従った。
おそらく理性的には納得しているのだろうが、感情が納得しかけているのだろう。
エスカローネは理性の人ではない。
彼女は感情の人だ。
「大丈夫だ、エスカローネ、俺を信じられないか?」
「セリオンのことはもちろん信じているわ」
「なら、俺を出場させてくれ。自分の身は自分で守れる」
「セリオン……」
「決まったな。それでは闇闘技場の情報を集めさせるとしよう。おまえたちは休むがいい」
「わかった」
「わかりました」
「なぜだ!? どうして殺しに出てはいけない!?」
「しつこいぞ、バジーリオ。今は辛抱しておけ」
アンデッドキング・バジーリオはマヴァハに詰め寄った。
場所は闇闘技場の一室だった。
「おまえたちが派手に暴れたおかげで、テンペルの諜報部隊に足がつくところだった。我々は遊びで人殺しをさせたわけではない。おまえたちの実力を測るためだ」
マヴァハからすればバジーリオたちは血に飢えているだけだ。
彼らが求めるのは血への渇望。
ただ人を殺したいという欲望だった。
こいつらは強いのだが、定期的に血を与えないと不安定になるのだ。
商品としては致命的な欠陥だった。
「どうしても、血がお望みなら闇闘技場に出場させてやるが?」
「闇闘技場か……ほっほっほ! それも良かろう」
バジーリオは血を味わえるとわかると途端に温厚になった。
こいつ……ふざけた奴だ。
マヴァハはそう思いつつも、顔には出さない。
「お話し中失礼」
「ジェンティーレか。何しに来た?」
「つれないなあ? もっと歓迎してくれてもいいのに」
「……早く本題に入れ」
「セリオン・シベルスクにアンデッドのことが嗅ぎつけられた」
「何だと!?」
「セリオン・シベルスクに追手を差し向けたが、見事に全滅したよ」
「きさま……軽々しく行動すると、あの方の怒りを買うぞ?」
「おお、怖い。そうならないようにしているつもりなんだけどなあ」
マヴァハはジェンティーレをにらみつける。
こいつもこいつで軽率なことをしてくれる。
セリオン・シベルスクにここを嗅ぎつけられたら、今までの苦労が水の泡だ。
「それで、どうするつもりだ?」
「どうするつもりとは?」
「この失態の不始末をどうかたづけるのかと聞いているのだ!」
マヴァハは怒りをあらわにした。
マヴァハがこうして怒るのは珍しい。
もっとも、こいつらの失策で怒るなという方が無理な相談だった。
「安心してくれたまえ。セリオン・シベルスクは闇闘技場に出場させる。そこで合法的に始末するさ」
「フン、そう簡単にいくかな。セリオン・シベルスクはあのネヴァハを倒した男だ」
マヴァハはセリオンの力を見くびっていない。
セリオン・シベルスクは我々にとって脅威となる。
それはマヴァハの勘が告げていた。
「そうそう、バジーリオ、君にも働いてもらうよ?」
「ほっほっほ、わしにかね?」
「君も選手として出場すればいい。そうすれば血の味を味わうことができるさ」
「それは良い報告だ。どれわしはトレーニングでもさせてもらおうか」
バジーリオは部屋から出て行った。
「まったく、扱いがってが悪い奴だ。あいつは強いが、自尊心が高すぎる」
「そういうな。彼にもストレスを発散することは必要さ」
「それにしても、よくあいつを出場させる気になったものだな、ジェンティーレよ?」
「ははは、ぼくもセリオン・シベルスクに部下を倒されているからね。ここらで復讐と行きたいのさ。アンデッドは貴重な戦力だ。いざとなったらセリオン・シベルスクに全アンデッドをぶつければいいのさ」
「……」
マヴァハはジェンティーレの楽観ぶりには奇異を覚えた。
こいつも腹の底ではいったい何を考えているのか……。
まあいい、利用価値がある間は使わせてもらおう。




