報告
「セリオン、入ります」
「うむ、入れ」
セリオンはいったんスルトの執務室に報告のため、やって来た。
セリオンは寝不足だった。
昨日の夜から寝てない。
体が睡眠を求めている中セリオンはそれにあがらい、スルトのもとを訪れた。
「首尾はつかめたか?」
「ああ、奴らはグールを商品として売りに出したかったらしい」
「何? 商品だと?」
「俺を殺せるほどの性能だと言いたかったようだ。犯人は漆黒の魔女バシュヴァだ。聞き覚えはあるか?」
「いや、ない。だが、アンシャルなら何か知っているかもしれんな。この後、アンシャルのもとを訪れるがいい」
「ああ」
「それにしても、ひどい顔だな」
「そうか?」
「寝不足か?」
「ああ、ここ何日か寝てない」
「それではこれから休息をとるがいい。今日はもう休みでいいぞ」
「ああ、報告だが、奴らはグールを兵器として売りつけるつもりだったようだ」
「その相手は?」
「ああ、どうやらガスパル帝国らしい」
「なるほどな。ガスパル帝国は闇の力を欲している。グールなどに興味を持つわけだ」
ガスパル帝国は軍事大国でもあった。
精強な陸軍に対して、海軍は劣っている。
ガスパル帝国は港を獲得し、海に進出する機会を狙っている。
ただ、陸軍国家は海軍の伝統がない。
海軍を編成したくとも、そのための人員がとにかく欠けているのが実情だった。
ガスパル帝国は今の段階でも脅威だ。
ガスパル帝国はシベリア人のふるさと、シベリアを占領している。
そのため、テンペルの聖導騎士団にとって現実的な敵だった。
現在の皇帝はドミナント(Dominant)で、現在三十年の治世を誇っている。
有能でもあったが、野心家で、冷酷だと評判だった。
なお、ガスパル帝国ではヒエロソフィアは禁止されていた。
「それじゃあ、俺はアンシャルのもとに行く」
「ああ、ゆっくり休んでくれ」
セリオンはアンシャルのもとへと向かった。
アンシャルはテンペルの敷地内のオフィスにいた。
テンペルも事務作業は必要だ。
そのため、オフィスが構えられていたのだ。
セリオンはアンシャルの部屋をノックする。
「はい」
「セリオンだ。アンシャル、入るぞ?」
「ああ、入ってくれ」
セリオンがドアを開けた。
部屋にはアンシャルがいた。
アンシャルは眉目秀麗だ。
テンペルのプリンスとも呼ばれる。
アンシャルの肩書は聖導騎士団副団長。
「今日はどうした? 疲れているようだが?」
「ああ、昨夜グールと戦いがあった。グールはすべて殲滅した。アンシャル、『バシュヴァ』という魔女を知っているか?」
「バシュヴァ? 文献で読んだことがある。古来より存在する三人の魔女だとな」
「俺はその魔女の一人と戦った」
「そうか。で、どれほどの強さだった?」
「まあ、俺にはさして脅威ではなかった」
「奴らは一人で戦うのわけではない。本来なら三人で戦うんだ」
「三人で?」
「それがどうかしたか?」
バシュヴァのことをセリオンは思い出す。
セリオンが戦ったのはネヴァハだ。
あとマヴァハという魔女もいた。
残る一人は姿を見せていない。
バシュヴァとは今後さらなる戦いへと突き進む可能性がある。
「奴らは二人いた。マヴァハ、ネヴァハと名乗った」
「つまり、もう一人いるのだな?」
「そいつがどこで何をしているか分からないがな」
「ふむ……バシュヴァについてはこちらからも、ツバキに調べさせよう」
「ツバキに?」
ツバキというのはテンペル諜報部隊の頭だ。
女性だが、くノ一としても優秀で、戦闘能力も高い。
テンペルの忍びはくノ一が多く、セリオンのファンクラブも存在する。
「それじゃあ、俺は休ませてもらおう。では」
「ああ、ゆっくり休んでくれ」
「ぎゃあああああああ!?」
男たちの絶叫が夜空に響き渡った。
場所は放置された野原だった。
スケルトンソルジャーが剣で男たちを殺していく。
それを冷たく眺める女がいた。
漆黒の三魔女が一人マヴァハだ。
マヴァハのそばに一人の豪奢なスケルトンがいた。
「スケルトンソルジャーの実力は申し分ないな」
「そうですとも。そうですとも。我らアンデッドはこれくらいできて当然です」
「バジーリオ(Basilio)……グールは失敗した。おまえたちは失望させてくれるなよ?」
マヴァハは先日のネヴァハの一件を言っているのだ。
グールはセリオン・シベルスクによって全滅した。
よもや、このアンデッドまでもが後れを取るとは思わないが、もしもということがある。
「ほっほっほ。我らスケルトンはグールなどとは違いますとも。セリオン・シベルスクの首、この手に取ってみせましょう」
「そうあってほしいものだ」
「ほっほっほ、マヴァハ様は我らの力をお疑いになっておられるのかな?」
「セリオン・シベルスクは強敵だ。あのネヴァハでも敗れた。奴の力は未知数だ」
マヴァハは思考に沈潜する。
スケルトンソルジャーは強い。
ツヴェーデン軍兵士とも十分に渡り合えるであろう。
だが、セリオン・シベルスクはそれを越えるであろう。
セリオン・シベルスクを倒せないようであっては、『商品』としては売りにならない。
マヴァハは冷静にセリオンの力を推し量る。
「おまえたちは日々鍛錬に励めばよい。倒すべき敵はこちらで指定する」
「ほっほっほ、あの方も我らの力には満足してくれると思っております」
「よほど、自信があるのか? おまえにはセリオン・シベルスクは倒せるかな?」
「ほっほっほ、倒してみせましょう。セリオン・シベルスクの首を我らが主に捧げましょう」
「まあいい。いずれおまえたちはセリオン・シベルスクと戦うことになる。それまで腕を上げておけ。いつでも戦いの準備ができているようにな」
「わかっておりまする。我らがアンデッドの力、セリオン・シベルスクに恐怖をもたらしてみせましょう」
空に月はなかった。
暗い夜空のもと、バジーリオが哄笑していた。




