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ヘルデンリート・ネオン Das Heldenlied Neon  作者: 野原 ヒロユキ
Artemidora ~Der Beginn von Hierosophie~
15/24

報告

「セリオン、入ります」

「うむ、入れ」

セリオンはいったんスルトの執務室に報告のため、やって来た。

セリオンは寝不足だった。

昨日の夜から寝てない。

体が睡眠を求めている中セリオンはそれにあがらい、スルトのもとを訪れた。

「首尾はつかめたか?」

「ああ、奴らはグールを商品として売りに出したかったらしい」

「何? 商品だと?」

「俺を殺せるほどの性能だと言いたかったようだ。犯人は漆黒の魔女バシュヴァだ。聞き覚えはあるか?」

「いや、ない。だが、アンシャルなら何か知っているかもしれんな。この後、アンシャルのもとを訪れるがいい」

「ああ」

「それにしても、ひどい顔だな」

「そうか?」

「寝不足か?」

「ああ、ここ何日か寝てない」

「それではこれから休息をとるがいい。今日はもう休みでいいぞ」

「ああ、報告だが、奴らはグールを兵器として売りつけるつもりだったようだ」

「その相手は?」

「ああ、どうやらガスパル帝国らしい」

「なるほどな。ガスパル帝国は闇の力を欲している。グールなどに興味を持つわけだ」

ガスパル帝国は軍事大国でもあった。

精強な陸軍に対して、海軍は劣っている。

ガスパル帝国は港を獲得し、海に進出する機会を狙っている。

ただ、陸軍国家は海軍の伝統がない。

海軍を編成したくとも、そのための人員がとにかく欠けているのが実情だった。

ガスパル帝国は今の段階でも脅威だ。

ガスパル帝国はシベリア人のふるさと、シベリアを占領している。

そのため、テンペルの聖導騎士団にとって現実的な敵だった。

現在の皇帝はドミナント(Dominant)で、現在三十年の治世を誇っている。

有能でもあったが、野心家で、冷酷だと評判だった。

なお、ガスパル帝国ではヒエロソフィアは禁止されていた。

「それじゃあ、俺はアンシャルのもとに行く」

「ああ、ゆっくり休んでくれ」

セリオンはアンシャルのもとへと向かった。

アンシャルはテンペルの敷地内のオフィスにいた。

テンペルも事務作業は必要だ。

そのため、オフィスが構えられていたのだ。

セリオンはアンシャルの部屋をノックする。

「はい」

「セリオンだ。アンシャル、入るぞ?」

「ああ、入ってくれ」

セリオンがドアを開けた。

部屋にはアンシャルがいた。

アンシャルは眉目秀麗だ。

テンペルのプリンスとも呼ばれる。

アンシャルの肩書は聖導騎士団副団長。

「今日はどうした? 疲れているようだが?」

「ああ、昨夜グールと戦いがあった。グールはすべて殲滅した。アンシャル、『バシュヴァ』という魔女を知っているか?」

「バシュヴァ? 文献で読んだことがある。古来より存在する三人の魔女だとな」

「俺はその魔女の一人と戦った」

「そうか。で、どれほどの強さだった?」

「まあ、俺にはさして脅威ではなかった」

「奴らは一人で戦うのわけではない。本来なら三人で戦うんだ」

「三人で?」

「それがどうかしたか?」

バシュヴァのことをセリオンは思い出す。

セリオンが戦ったのはネヴァハだ。

あとマヴァハという魔女もいた。

残る一人は姿を見せていない。

バシュヴァとは今後さらなる戦いへと突き進む可能性がある。

「奴らは二人いた。マヴァハ、ネヴァハと名乗った」

「つまり、もう一人いるのだな?」

「そいつがどこで何をしているか分からないがな」

「ふむ……バシュヴァについてはこちらからも、ツバキに調べさせよう」

「ツバキに?」

ツバキというのはテンペル諜報部隊の頭だ。

女性だが、くノ一としても優秀で、戦闘能力も高い。

テンペルの忍びはくノ一が多く、セリオンのファンクラブも存在する。

「それじゃあ、俺は休ませてもらおう。では」

「ああ、ゆっくり休んでくれ」



「ぎゃあああああああ!?」

男たちの絶叫が夜空に響き渡った。

場所は放置された野原だった。

スケルトンソルジャーが剣で男たちを殺していく。

それを冷たく眺める女がいた。

漆黒の三魔女が一人マヴァハだ。

マヴァハのそばに一人の豪奢なスケルトンがいた。

「スケルトンソルジャーの実力は申し分ないな」

「そうですとも。そうですとも。我らアンデッドはこれくらいできて当然です」

「バジーリオ(Basilio)……グールは失敗した。おまえたちは失望させてくれるなよ?」

マヴァハは先日のネヴァハの一件を言っているのだ。

グールはセリオン・シベルスクによって全滅した。

よもや、このアンデッドまでもが後れを取るとは思わないが、もしもということがある。

「ほっほっほ。我らスケルトンはグールなどとは違いますとも。セリオン・シベルスクの首、この手に取ってみせましょう」

「そうあってほしいものだ」

「ほっほっほ、マヴァハ様は我らの力をお疑いになっておられるのかな?」

「セリオン・シベルスクは強敵だ。あのネヴァハでも敗れた。奴の力は未知数だ」

マヴァハは思考に沈潜する。

スケルトンソルジャーは強い。

ツヴェーデン軍兵士とも十分に渡り合えるであろう。

だが、セリオン・シベルスクはそれを越えるであろう。

セリオン・シベルスクを倒せないようであっては、『商品』としては売りにならない。

マヴァハは冷静にセリオンの力を推し量る。

「おまえたちは日々鍛錬に励めばよい。倒すべき敵はこちらで指定する」

「ほっほっほ、あの方も我らの力には満足してくれると思っております」

「よほど、自信があるのか? おまえにはセリオン・シベルスクは倒せるかな?」

「ほっほっほ、倒してみせましょう。セリオン・シベルスクの首を我らがあるじに捧げましょう」

「まあいい。いずれおまえたちはセリオン・シベルスクと戦うことになる。それまで腕を上げておけ。いつでも戦いの準備ができているようにな」

「わかっておりまする。我らがアンデッドの力、セリオン・シベルスクに恐怖をもたらしてみせましょう」

空に月はなかった。

暗い夜空のもと、バジーリオが哄笑していた。

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