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ヘルデンリート・ネオン Das Heldenlied Neon  作者: 野原 ヒロユキ
Artemidora ~Der Beginn von Hierosophie~
13/24

実験

セリオンは再び血の匂いを感知した。

セリオンはすみやかに路地裏にやってくる。

そこには食い荒らされた死体が二人あった。

男と女だ。

もう食事は済んだということらしい。

「くっ、遅かったか……これで二度目だ」

セリオンは深い後悔に襲われる。

セリオンが早くここにやって来れれば、この二人は死なずに済んだかもしれない。

それが悔やまれる。

セリオンは通信端末で警察に連絡した。

それからすみやかにその場を離れた。

今夜は二件目の発生だ。

犯人の狙いはわからないが、グールを強化することを考えているのだろう。

一般に、グールは人間を食べれば食べるほど強くなる。

犯人の狙いはグールの強化にあるのは間違いない。

グールを強化して何をするつもりか?

なんにしろ。ろくでもないことを考えていることは間違いない。

セリオンの使命はこの事件を阻止することだ。

セリオンはすみやかに現場を離れた。

次の事件は必ず阻止してみせる。

セリオンは決意を新たにして歩き出した。



そこではグールが人間を咀嚼していた。

周囲には血が飛び散っている。

「そろそろか」

長い黒髪の、マスクをした黒服の女が言った。

この女は長身だった。

「さっすがに、人間を喰わせるもの飽きてきたよ。そろそろ、次の段階に行ってもいいんじゃないかな?」

ネヴァハがグールを見て陰湿な顔を見せる。

グールは育ちつつある。

そのグールを今度は裏の組織に当てる。

エサとなるのは社会のクズどもだ。

そんな連中をグールのエサにしたところで、彼女たちの良心は痛まない。

もっとも、この女にもネヴァハに良心などなかったが……。

「それにしても、マヴァハ(Mavaha)ー? 次はどいつらを食べさせようかー?」

ネヴァハが尋ねたのは長身の女マヴァハ。

今までグールに人間を喰わせていたのはグールを強化するためだ。

グールを強化することは彼女たちにとってあくまで通過点に過ぎない。

真の目的は別にある。

「そうだな。裏の組織を狙おうか」

「裏の組織ねえ……どこならいいかな?」

ネヴァハが残虐な笑みを浮かべる。

ネヴァハは楽しくて仕方がないのだろう。

ネヴァハが想像しているのは、グールに大勢の人間を喰わせることだ。

マヴァハはネヴァハほど弑逆的しいぎゃくてきにはなれなかった。

マヴァハはグールが食い散らしているのを見て眉をひそめる。

こんな奴らがいったい何の役に立つかは分からないが、我らがあるじはこの兵器をお望みだ。

マヴァハはあるじのは忠誠を誓っている。

祖の主の命令だからこそ、こんな実験にも付き合ってきた。

マヴァハとしては陰湿な事件を起こすよりも、正面から戦うことを好む。

あるじはそれを見越していたのだろう。

マヴァハではなく、ネヴァハにおもにこの実験をゆだねたのは。

「ああ、でも楽しみだなあ……このグールでセリオン・シベルスクを殺せるなら……」

ネヴァハが恍惚とした表情を浮かべる。

そう、このグールを育成する、グールを育てる目的は、我らが闇の勢力の敵であるセリオン・シベルスクを抹殺することなのだ。

我らがあるじより、セリオン・シベルスクは危険な敵だと言われている。

それ自体はマヴァハも同意見だ。

だが、マヴァハは武闘派で、こんな奴らを使うより自分の実力でセリオン・シベルスクを倒したいと考えていた。

もっともセリオン・シベルスクは強敵だ。

今のグールでは返り討ちに遭うだけだろう。

今のグールならもっと大量にえさを与えてもいいかもしれない。

さらなるグールの強化にマヴァハは思考するのだった。



再び夜になった。

マヴァハとネヴァハはギャングの前にいた。

彼女たちの前にはグールたちがいた。

「な、何だ、おまえたちは!?」

ボスがおびえる。

ボスは禿げ頭の、太った男だった。

服は灰色のスーツだ。

「あっはっはっはっは! あんたらには食事になってもらうよ! こいつらは実験兵器さ!」

ギャングは武器を構える。

剣や、槍、斧、そしてナイフを持っていた。

普通ならおびえるだろう。

ネヴァハとマヴァハは平然としていた。

「ふざけるな! おい、おまえたち! こいつらを殺せ!」

ボスが殺せと合図をする。

一斉に部下が動き出した。

「さあ、行きな! こいつらを喰っていいよ!」

ネヴァハが号令を出す。

グールが狂暴に襲い掛かった。

さながら状況はまるで戦争だった。

グールと手下が殺し合いを演ずる。

本来グールはこのために作られたのだ。

グールの武器は鋭い牙と爪だ。

グールたちはギャングの集団を押していく。

「あっはっはっはっはっは! さあ、こいつらを好きなだけ喰っていいよ!」

ネヴァハの感情は最高潮だ。

それに対して、マヴァハはグールの性能を客観的に眺めていた。

マヴァハが腕を組む。

グールはギャングを圧倒している。

それは大きな成果だ。

だが、この程度ではツヴェーデン軍やセリオン・シベルスクには通じないだろう。

今回の事件で、確かにグールは大幅に強化されるだろう。

それだけで、商品として役立つかといわれればナインだ。

グールは来るべき、新しい時代の一般兵器として売りに出すつもりだった。

ひそかに接触したガスパル帝国からは好意的な返事が送られつつある。

ガスパル帝国はツヴェーデンの敵対国である。

およそ、政治的にも民族的にもガスパル帝国はツヴェーデンとは相いれない国と見なされていた。

ツヴェーデンは自由民主主義の国で、ガスパル帝国は専制君主たる皇帝が支配する帝国だ。

皇帝は絶対の専制君主で、自由という言葉は禁句だという。

マヴァハはこのガスパル帝国のブローカーとひそかにつながっていた。

グールはセリオン・シベルスクを殺し、ツヴェーデン軍を圧倒したという実績を持てば、ガスパル帝国に商品として売りに出すことができる。

ガスパル帝国は首脳部がひそかに闇への崇拝をしていることをマヴァハは知っている。

マヴァハはそんなことを考えながら、目の前の惨劇を眺めていた。

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