脳移植
信号がなく、見通しの悪い道路の横断歩道を渡ろうとする一人の少年。黒の短髪で、凛々しい顔付きの彼の名は、秋山 健一。彼は私の双子の弟で、誰よりも大切な存在。そんな彼に、乗用車が猛スピードで接近していた。
退けと言わんばかりにクラクションを鳴らす乗用車。
「健ちゃん、危ない!」
私は彼を助けるために駆け出した。だが──。
都内の病院。集中治療室の中で緊急オペを受けている健ちゃん。
まだかまだか──と、私が扉の上にある手術中のランプが消えるのを待っていると、願いが通じたのか、そのランプから灯りが消えた。
扉が開いて執刀医が出て来る。
「私の健ちゃんは!?」
執刀医は何も答えず、残念そうな顔でゆっくりと首を横に振るった。
私の好きな、愛する弟が死んだ……?
「そんな……!」
私の頬に涙が伝ってくる。
「彼を救う方法が一つだけあります」
「え?」
「幸い、彼の心臓はまだ動いてます。彼は事故に因る脳挫傷で意識不明の重体となってるだけなんです」
私は安堵の溜め息を吐いた。
「そうですか。それで、どうすれば助かるんですか?」
「脳の移植です」
「脳の移植?」
「やりますか?」
「お願いします! それで健ちゃんの意識が戻るなら!」
「分かりました。ですが、一つだけ言っときます。この手術で、貴方は死にます」
「え?」
「貴方はドナー登録をしてますよね。検査の結果、弟さんの遺伝子情報と貴方のものが一致したんです。なので、移植をするのであれば、貴方の脳を使おうと思います」
それで健ちゃんの意識が回復するなら私はどうなってもいい。これも愛する弟のため。この命、神に返そう。
「分かりました。私の脳を健ちゃんに移植して下さい」
「では、中に入って下さい」
私はオペ室に入った。
手術台の上で眠る健ちゃんの隣には、空の手術台が置かれている。
「そこに寝て下さい」
「はい。けど、その前にちょっとだけいいですか?」
私は健ちゃんに近付いてその顔を見据える。
「健ちゃん、私が居なくなっても一人でやってける?」
私と健ちゃんは二人暮らし。両親は一年前に借金を置き土産に行方をくらましてしまった。以来、私は無遅刻無欠席で二年間通い続けていた都内の公立高校を退学して会社に就職。更に睡眠時間を削って幾つかのアルバイトを掛け持ちでやり、生活費を稼ぎに稼ぎまくって健ちゃんを養ってきた。そんな私が死んだら、健ちゃんは一人でやってけるのだろうか。だが、躊躇ってる場合ではなかった。
「健ちゃん、私は健ちゃんの事、異性として好きなの。健ちゃんの子、欲しかったな」
私はそう言うと、お別れの挨拶として、健ちゃんと口付けを交わした。
「お願いします」
私は手術台の上に横たわった。
「麻酔用意」
助手が薬の入った注射器を準備し、その針を私の腕に突き刺した。
それから暫くして、睡魔が襲ってきた。
「バイバイ、健ちゃん」
私はそう呟いて目を瞑った。すると、真っ暗になる筈の視界に、白い霧の中に川と渡し船が映った。
どうやら私の意識が肉体を離れたらしい。
「ここはどこ?」
私がそう口にすると、背後から答えが返ってきた。
「ここは地上と天界を結ぶ三途の川だよ」
「え?」
振り返ると、健ちゃんが居た。
「健ちゃん、私を見送りに来たの?」
「違うよ。お別れを言うために僕がお姉ちゃんを呼んだんだ」
「はあ?」
「僕はこれから天国に逝くんだ」
「ちょっと待って。逝くのは私じゃないの?」
「お姉ちゃんはまだ生きてる。それを見て」
健ちゃんが私の背中から伸びた金色に輝くロープを指差した。
「何これ?」
「それは肉体と霊体を繋ぐシルバーコード。それがあるってことは、生きてる証拠だよ」
「金なのに何でシルバー? ゴールドじゃないの?」
「本当だ。何で金なんだろう? 僕の千切れたコレは銀なんだけど」
健ちゃんはそう言って自分の背中から伸びた光を失った銀色の短いロープを掴む。
「まあ、いいか」
「いいの!?」
「うん。じゃあ、僕はそろそろ逝くね」
「健ちゃん、次はどこの子に生まれるの?」
「お姉ちゃんの子になろうかなって思ってる」
「じゃあ早く相手を見つけないとね」
「だったら、同じクラスの天道 泉さんにして」
「何で同性婚しなきゃならないのよ?」
「お姉ちゃん、バカでしょ」
「何ですって!?」
私は健ちゃんの頭を思いっ切り殴った。
「痛いよ! お姉ちゃん、脳移植の最中だよね?」
「そうだよ」
「お姉ちゃんの脳は僕の体に移植されるんだよね?」
「だから?」
健ちゃんはがっくりと首を落とした。
「お姉ちゃんはのび太くんですか?」
「殺すわよ?」
「僕はもう死んでるから。で、お姉ちゃんの脳味噌が僕の頭の中に移植されるって事は、つまりお姉ちゃんは僕になるって事なんだ」
「はあ?」
「分からないかな。僕の肉体にお姉ちゃんの魂が入るってことだよ」
「それぐらい分かるわよ……って、マジで!?」
「地上に戻ったら、お姉ちゃんは健一だよ」
「私が健ちゃんに?」
「うん、脳味噌はお姉ちゃんだからね」
「成る程」
「じゃあ僕は逝くよ。天道さんのこと、お願いね」
「その子ってどんな子?」
「成績は学年トップでスポーツ万能で喧嘩が強い可愛い女の子だよ。僕の事を虐めてくるのが玉にきずだけどね」
「健ちゃん、虐められてるの?」
「うん。僕が怪我して帰ってくるのはそのせいだったんだ」
「酷い。私の健ちゃんを虐めるなんて赦せない」
「お姉ちゃんのブラコンは何とかならないの? ぶっちゃけ、気持ち悪いよ」
私は健ちゃんの頭にタンコブを二つプレゼントした。
健ちゃんはタンコブを押さえて涙を浮かべる。
「泣き虫が。そんなんだから虐められるのよ」
「五月蝿いな!」
「でも何でそんな子に惚れたの?」
「可愛いからに決まってるじゃん」
「ひょっとして告白した?」
「うん、半年前に。僕を虐めるようになったのはそれからなんだ」
「それ嫌われてるんじゃない?」
「そんな事ないよ。毎日僕に手作り弁当を持ってくるから」
「じゃあSなんだ」
「そうかもね。もういいかい?」
「うん」
「じゃあ元気でね、お姉ちゃん。今まで有り難う」
健ちゃんはそう言って渡し船の下へ歩いていく。
私は渡し船に乗った健ちゃんを見送り、自分のロープを辿って地上に戻る。
病院に着くと、移植手術は既に終わっており、個室のベッドに健ちゃんの体が横たわっていた。そしてそれを傍らで黒い長髪に端正な顔立ちの少女が心配そうに見据えている。その子の胸元には天道と彫られたプラスティックの札が付いていた。
「健一……」
彼女が健ちゃんの言っていた天道 泉さんだろうか。
「天道 泉さん?」
私は彼女に声をかけた。しかし、彼女には聞こえていなかった。
「シカトすんな!」
私は彼女の頭を殴ろうとしたが、触れずにすり抜けてしまった。
そうか、霊体だから触れないのか。ならば──
私は徐に健ちゃんの体に重なった。すると、横たわっているという感覚が健ちゃんの体を通じて伝わってきた。
ゆっくりと目を開けてみる。
「健一!」
視界に映った天道さんの表情が綻ぶ。
「よかった。先公にお前が車に撥ねられて意識不明になったって聞いたから、わざわざ授業を抜け出して来てやったんだぞ。感謝しろよな」
「ぷっ!」
私は思わず笑ってしまった。
「何が可笑しいんだよ!?」
「いや、天道さんって男の子みたいだなって」
「それ笑うところか!?」
「ごめん、怒らないで」
「別に怒ってねえよ。それで、気分はどうなんだ? 何を交換したかは知らないが、移植手術を受けたんだろ? 拒絶反応とか大丈夫なのか?」
「まだ目覚めたばかりだから、暫く様子を見ないとね」
「そうか。取り敢えず意識が戻って安心したぜ」
「わざわざ見舞いに来てくれて有り難う」
天道さんは頬を赤らめた。
「ばっ! 別にお前のために来てやったわけじゃねえよ」
これはいじりがいのあるツンデレだこと。
「素直じゃないね」
「五月蝿えバカ!」
立ち上がる天道さん。
「もう帰る!」
天道さんは出口へすたすたと歩いていく。
「待ってよ」
立ち止まって振り返った。
「話を聞いてくれない?」
「何だよ?」
天道さんが戻ってくる。
「天道さんって、僕のこと好きなの?」
カーッと顔が赤くなった天道さんは、ベッドを蹴り倒して私を床に落っことした。
「お前なんか大っ嫌いだよ! 死ね!」
天道さんはそう言って部屋を飛び出していった。
私は天道さんの健ちゃんに対する気持ちが分からなくなった。
術後から一週間が経過した。
私の体には特に異常もなく、退院を許された私は、手術費を支払って病院を出て今は自宅に居る。
健ちゃんが居た時は騒がしかったけど、一人になってみると何だか妙に落ち着かない。
「つまらない……」
ベッドに横になっていた私は、枕元に置いてある健ちゃんの携帯を手に取った。
えっと、電話帳に……あった。
私は電話帳のた行にある天道さんの携帯にかけた。すると女性のガイダンスが流れてきた。
「この電話はお客様の都合によりお受け出来ません」
拒否られてるし。何で?
そう思った刹那、天道さんから電話がかかってきた。
私は通話ボタンを押した。
「もしもし」
「よう、健一。俺だ」
「天道さん?」
「俺の携帯から俺以外の奴が電話するかよ」
「そうだね。ていうか、何で僕の着拒してんの?」
「お前からかかってくるのが嫌なんだよ。それより、今から逢えるか?」
「デートのお誘い?」
「何でお前とデートしなきゃなんねえんだよ!? いいから俺の家まで来い!」
「分かったけど、天道さんの家ってどこ?」
「そのぐらい自分で調べろ。親父の名は浩介だ。じゃあな」
天道さんはそう言って電話を切った。
電話ボックスで電話帳を検索しろってか?
私は体を起こすと、ベッドから降りて支度をし、家を出て電話ボックスを探しに向かった。だが、携帯が普及してる今、そう簡単に見つかる筈もなく、私は諦めて駅前の交番を訪ねた。
「すいません、この辺に天道 浩介さんという方のご自宅はありませんか?」
するとお巡りさんの顔が見る見る内に青くなっていく。
「どうしたんですか?」
「き、君はあそことどんな関係なんだい?」
「どんなって、天道 浩介さんの娘さんとクラスメイトなだけですよ」
「天道 泉に会いに行くのかい?」
「そうですけど、何か問題でも?」
「えっと、彼女の家なら反対側の線路沿いを東に行くとありますよ。誰が見ても直ぐに分かるからね」
「有り難う御座います」
私は交番を出ると、駅を通って反対側に行き、線路沿いを東に歩いた。
あれか?
私は天道組と書かれた看板が出ている屋敷の前で立ち止まった。
これってもしかして、あれかしら?
私は生唾を飲み込み、敷地内へ踏み込んだ。そして建物のインターホンを押した。すると、中から怖そうな顔の男が出て来た。
「坊主、家に何か用か?」
「あの、こちらに泉さんが居ると聞いてるのですが」
「お前、何者だ?」
「泉さんのクラスメイトで秋山 健一と申します。彼女に呼ばれたので来ました」
「お前が泉に告白した男か。ちょっと待ってろ」
男はそう言って中に戻っていき、少し経ってから後ろにGO TO HELLの文字とドクロが描かれた黒いジャケットを着、EDWINのジーンズを穿いた天道さんが出て来た。
「悪いな、病み上がりに呼び出して」
「あのさ、ここって頭文字が”ぼ”の団だよね?」
「そうだが、それがどうした?」
「怖いよ。天道さん、危ない物は持ってないよね?」
「これのことか?」
天道さんは懐から堂々とトカレフを取り出す。
「言っとくが本物だぞ」
私は気を失いそうになって蹌踉めいた。
「おい、大丈夫か?」
天道さんはトカレフを仕舞って私の体を支える。
「ちょっと怖くて気絶しそうになっただけ」
健ちゃん、こういう事は先に言ってよね。
「で、僕に何の用?」
「ああ、退院祝いにどこか連れてってやろうと思ってな。どこに行きたい?」
「心霊スポット」
「俺は幽霊は嫌だぞ」
「夜中に行くとゾクゾクするよ」
「だから、そんなところ行かねえよ! もっとこう、女の子が楽しめるようなところ提案しろよ!」
「じゃあ舞浜にでも行く?」
「ネズミか?」
「行かない?」
天道さんは頬を赤らめて言う。
「お前が行きたいって言うなら連れてってやるよ」
「有り難う。ところでさ、何で”俺”なの?」
「実は俺、男なんだ」
「でも、どこからどう見ても女の子だよ?」
「体はな」
「どういうこと?」
「俺がまだ幼稚園の時、車に撥ねられたんだ。そして落下した時に偶然にも近くに居た女の子の頭にぶつかって、気が付いたらその子と入れ替わってたんだ。入れ替わった女の子の方は俺の代わりに死んじまって、俺はこの体のまま戻れなくなっちまったんだ」
天道さんは懐から写真を取り出した。
「これが俺だ」
写真に写ってる男の子には見覚えがあった。
「懐かしい」
「はあ?」
「貴方、村上くんでしょ?」
「何で知ってんだよ?」
「だって当時の初恋の相手だもん」
「はあ?」
「秋山 光だよ、私」
「嘘だろ!? お前も入れ替わったのか!?」
「いや、私は弟の体に脳を移植したんだけど」
「マジかよ? びっくりだ。まさかお前が健一の姉だったなんて。道理で健一にお前の面影があった訳だ」
「十年振りかな、こうして逢うの」
「そうだな。なあ、光」
「何?」
「ちょっと来い」
私は天道さんに腕を掴まれ、誰も居ない静かな公園に連れて行かれた。
「俺、お前にずっと言いたかったことがあるんだ」
「何?」
「好きだ」
「え?」
「俺は光の事がずっと好きだった。俺にお前の子を産まさせてくれ!」
「いきなりプロポーズ!?」
「……嫌か?」
「いや、喜んでお受けするよ。卒業したら結婚しよう」
「だけど、お前は両親が居ねえだろ。二十歳未満は父親か母親のどちらかの承諾が無いと結婚出来ねえぞ」
「別に卒業して直ぐとは言ってないよ」
「そ、そうだよな」
「二十歳になったら一緒に届けを出しに行こう?」
「ああ」
「さてと、帰るかな」
私は天道さんに背を向け帰路に就こうとした。だが、彼女がそれを止める。
「待てよ、健一」
「え?」
私は振り返った。
「脳を移植したって事は、お前は一人なんだろ?」
「そうだよ」
「じゃあさ、俺の家で暮らさないか?」
「嫌だ。だって暴力団は怖いもん」
「だったら俺がお前の家に」
「それならいいかな」
「決まりだな。今夜から世話になる」
「今夜!?」
「ダメか?」
「いや、別にいいけど」
「じゃあ早速引っ越し屋に電話だ!」
天道さんはそう言うと嬉しそうな顔で走り去っていった。
こうして、私と天道さんは一緒に住むことになった。
あれから数年後、私は結婚して天道姓になっていた。健ちゃんと暮らしていた家の表札も秋山から天道に変えてある。
「泉さん、起きて」
午前七時、アクションタレントとして活躍中の主人を家から所属事務所へ連れて行くため、私は彼女を起こす。
徐に目を開けて起き上がる主人。
「お早う、泉さん」
「ああ」
ベッドを降りてトイレに向かう主人。それと同時に私の携帯が鳴った。
「はい、天道です。……仕事ですか? ……はい。……はい。……分かりました。では現場に直行します」
電話を仕舞い、キッチンへ行き、用意しておいた朝食を食卓に運ぶ。
「今日も美味そうだな」
そう言いながら主人がやってきて席に着く。
「さっき事務所から電話があって、アクション映画の主人公に抜擢されたよ」
「本当か!?」
「うん。けど残念なことに泉さんの美貌は映らないけどね」
「どういうことだ?」
「今度の仕事は変身ヒーロー物で、主人公の変身後を泉さんにやって欲しいって」
「そうか」
「食べ終わったら現場に直行するよ」
「分かった。因みに変身前は誰なんだ?」
「僕だよ」
「またお前と共演出来るのか。嬉しいぜ」
「僕もだよ」
私たちは朝食を食べ終え、私が運転する車で現場へ向かった。
更に数年、霊魂の存在が科学的に証明され、同時に魂を他人の体と入れ替える技術が生まれた。
私と主人は専門の病院へ行き、精神交換手術を受けてお互いの体を交換した。
「良かったね、男に戻れて」
私は健ちゃんの姿をした村上くんに言う。
「ああ」
「これで私の夢が叶ったよ」
「夢?」
「私ね、ずっと健ちゃんの子を産みたいって思ってたんだ」
「お前、ブラコンなの?」
「いけない?」
「別に」
「今日さ、ホテルに泊まろうよ」
「何で?」
「泉の中に健ちゃんのを出して欲しいの」
「そうか、分かった。今夜は気持ち良くさせてやる」
「期待してるよ」
その日の夜、私と健ちゃんは銀座のラブホテルに入り、朝まで性行為に明け暮れた。そのお陰で、私はお腹の中に赤ん坊を授かり、産婦人科で無事に出産をした。その赤ん坊は女の子で、私は自分と同じ光という名前を付けた。
光はすくすくと育って、今は高校に通っている。そしてある時、光が私に言った。
「ねえ、お母さん。私ね、生まれる前の事を思い出したの」
「ほえ?」
「私、光っていう女の子の双子の弟だったの」
「ひょっとして、健ちゃん?」
「え?」
「私は光お姉ちゃんだよ」
「待って。お姉ちゃんは確か、脳移植で僕になった筈だけど」
「科学が発展して他人と精神を交換出来るようになったのよ。貴方が今見てるのは、健ちゃんが惚れた天道 泉さんの体に入ってる光お姉ちゃんだよ。そして私の夫が貴方の惚れた泉さん」
「マジで?」
「うん、マジ」
目の前の光が涙を浮かべる。
「お姉ちゃん、僕、またお姉ちゃんに逢えて嬉しい」
「私もだよ、健ちゃん」
「僕のお願い聞いてくれたんだね」
「うん、成り行きで。しかも、あの人は中身が私の初恋の村上くんだったの」
「何その運命の再会!?」
「あの人にいきなりプロポーズされたのが嬉しくて即オッケイ出したよ」
「そうなんだ。ところで僕を虐めてた理由は何なの?」
「ずっと好きだった子に似てるからだって言ってたよ」
「何それ」
私が昔の思い出に浸っていると、健ちゃんの姿をした彼がやってきた。
「泉、昼飯」
「もう、面倒臭いわね。たまには自分で作ったらどうなのよ?」
私がそう言うと、額に青筋を浮かべた夫が私を殴り飛ばした。
「いきなり何するのよ!?」
「誰のお陰で食えてると思ってんだよてめえ!?」
「健ちゃんです」
「分かってるならとっとと飯の支度をしろ!」
「……はい」
私は健ちゃんに言われるがままにキッチンへ入って昼ご飯の支度を始めた。
彼はどうしてあんなに暴力的なの?
「お母さん、大丈夫?」
私が夫の暴力を疑問に思っていると、娘の光が心配してやってきた。
「うん、大丈夫。慣れてるから」
「でも酷いお父さんだよね。好きな人に暴力を振るうなんて。昔からああなの?」
「そうだよ。お母さんね、あの人に殴られると何だか幸せな気分になるの」
「お姉ちゃん、気持ち悪いよ」
私は光の頭にタンコブをプレゼントした。
「痛いよ!」
タンコブを押さえながら涙を浮かべる光。
「貴方って本当に泣き虫ね。男の子なら我慢しなさい」
「今は女の子だよ」
「そっか。アハハ」
「泉、飯はまだ……って、何も用意してねえじゃねえか!」
「今、用意するわよ」
私は冷蔵庫を開ける。だが、食材が一つも無い。
「ごめん、買わなきゃ無いや。食べたい物の材料、自分で買ってきて」
すると夫が私を蹴り倒した。
「俺に命令すんのか!?」
「だって健ちゃんが食べたい物なんて分からないもん」
「ヤキソバだ」
「それならインスタントが──」
「俺はお前の手作りが食いたいんだよ!」
「分かったわよ」
私は立ち上がり、大好きな夫に愛のこもった手作りヤキソバを食べさせるため、スーパーへ材料を買いに行くのだった。
お粗末な作品を読んで頂き、誠に有り難う御座います。