特技
今日は目覚めもいい。
執筆中の作品の話を進めよう。
キーボードに手を添えた瞬間。
そうだ、コーヒーを入れるためにお湯を沸かしてたんだった。
コーヒーをマグカップに注いで、机に置く。
よし、これで万全。──あれ? 煙草がない。
引き出しを探す。棚の上も見た。ようやく見つけた箱は……空。
仕方なく、煙草を買いに家を出る。
風が心地いい。
なかなかいい天気だ。
……あの人物、やっぱりああいう展開のほうがいいかもしれないな。
なんて、歩きながら構想を練り直す。
ふっと、ひらめく。
完璧だ、これならイケる!
メモを残そうとスマホを取り出した時。
──ん? ここはどこだ。
気がつけば、目的のコンビニをとっくに通り過ぎていた。
ちょっとだけ駆け足で引き返す。
無事に煙草を買って、家へ戻る。
冷めたコーヒーをひと口。煙草に火を点けて、よし、今度こそ。
キーボードに手を──
……あれ? 思い出せない。
さっき浮かんだ、あの完璧なアイデアが、跡形もない。
紫煙を見つめながら、必死に記憶を辿る。
んー……。
こういう時は動いた方がいいかも。
立ち上がって、部屋の中をうろうろ。
思い出せない。完全に消えた。ついでにコーヒーも空。
お湯を沸かしに、また台所へ。
電気ケトルスタンバイオーケー。
机に戻り、キーボードに手を添える。
画面には、まだ何も打たれていない真っ白なWord。
──でも、代わりに全然違うアイデアが降ってきた。
これはこれでアリかもしれない。
区切りのいいところまで書いて、ふーっと息をつく。
煙草を消して、ふと気づく。
あれ? コーヒー……
拙文、読んで下さりありがとうございます。