4
村の広場では、昼前の陽射しが石畳に落ちていた。
周囲の人々は、南の坂道に目を向けていた。領主家の紋章を掲げた馬車が、一台ゆっくりと近づいていたからだ。
出迎えの列はすでに広場に並んでいた。今日は巡察の予定日。保管品の検査や記録の確認があると聞いて、村人たちは前もって準備をしていた。
ただ、近づくにつれ、違和感を覚える者も出はじめていた。
馬車には警護の騎士が付いていない。御者席に座る男の服装はよれていて、顔にはゆるんだ笑みが浮かんでいる。隣を歩く数人も、腰の刃物が兵士のそれとは違っていた。
広場に入った馬車が止まり、扉が急に開いた。
貴族服を着た男が、一人転がるように地面へ落ちる。口には布、腕は背中に縛られていた。呻きながら顔を上げようとするが、力はないようだった。
広場のあちこちで息を呑む音が漏れた。
続いて馬車から現れたのは、腰に刃物を下げた男たち。数人。動きに秩序はなく、目は品定めするように広場を見回していた。
そのうちリーダー格らしいひげ面の男が歩を進め、声を上げた。
「さぁて村人の皆さんよ。この馬車はもう俺たちのだ。ついでに村の物も全部な」
言いながら、腕を広げて荷台を指差す。中には、同じように縛られた貴族が数人並んでいた。すでに抵抗の気配はない。
御者席から飛び降りたスキンヘッドが、脇で固まっていた村娘に目を止める。
「大人しくしてりゃ命までは取らねぇ。こっちは話のわかる連中だぜ」
ゆるんだ笑みが満面に広がっている。
「逃げんなよ。そういうの、嫌いじゃねぇけどな」
村長が立ち上がりかけたが、すぐに斧を持った大男が一歩踏み出したため、足が止まる。斧の刃が太陽を受けて光る。誰も言葉を発さなかった。
広場の空気が、昼の穏やかさから離れていった。
こちらも好評なら続けます。
*キャラが区別しづらかったので、修正してもらいました。