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風が吹いたような気配――いや、倉庫内に風はない。窓も閉めてある。
手を離すか、それとも持ち上げるか。迷った直後、
「誰だ」
声が、落ちてきた。
どこから、じゃない。耳の奥でも、背後でもない。
それは、この空間から生まれたような響きだった。
ライクは反射的に後退し、背後の木箱にぶつかった。ガタンという音と同時に尻もちをつく。祖父は寝間で休んでいる。客もいない。そもそも、誰かに話しかけられたわけじゃない。
でも、声はあった。間違いなく、空気のなかで震えた。
ゆっくり腰を上げ、装甲に目を向ける。
鎧は動かない。箱の中で、静かに納まっている。けれどさっきとは違う。
空気が張りつめていて、何かがそこに“いる”。
「……もしかして、しゃべった?」
箱の底に触れると、革布に包まれた巻物があった。皮紙に押された焼印。
《守封装》と読めた。手元の帳簿にも、祖父のメモにも記録はない。売るつもりで仕入れたものじゃない。誰にも知らせず、しまい込まれていた。
「どういうことなんだよ……これ……」
窓がガタリと揺れて、小さな声が跳ねた。
「ライク!? ちょっと! 鎧が今喋ったでしょ!?」
外の薄霞の向こうから、少女が顔を出していた。
店の向かいに住んでる近所の子だ。霧の日はいつも暇そうに歩いている。
「いや……わかんない! 気のせいだったかも!」
「え、やばいやつ!? それ呪い武具じゃない!? 違う!?」
ライクは慌てて手を振ったが、彼女はもう走り出していた。
「みんなー! ライクの店で武具が喋ったってーー!」
叫び声が通りに響く。




