第2話雨のち腫れ
今日も雨だ。
私は、電車から降りると父から奪ってきた紺色の傘を差し、学校へ向かった。
昨日の頬はまだジリジリとした痛みがあり、腫れが残っているため、母にガーゼやらなにやらで処置してもらった。
母曰く、冷やすことが1番だから!って大量の保冷剤を持って行かされた。流石に重すぎて、とりあえず二個だけにして、保健室に借りにでも行こうと思った。
私の母と父は、少し変わっていて、この腫れを見て「アクティブに動いたのか」とか「初めて処置する」とか心配より珍しい出来事にどこか嬉しそうだった。変に先生やクラスメイトに殴り込みをされるよりはマシだが、やっぱりどこかズレてるなと考えると笑いがでてきた。
そうニヤニヤしながら歩いていると後ろから「南ちゃん!」と声が飛んできた。
「おはよう!」とキラキラスマイルを向けて、朝とは思えないフレッシュパワー全開に飛び込んできた。
眩しすぎるその笑顔に目を細めながら「あっおはよう」と挨拶を交わした。
キラキラスマイルガールの名前は、昨日下校前に予習している。神田真優さん。キラキラスマイルの通り、すごく明るいタイプで、何となく男女共にモテるタイプではないかと分析している。
あまり話しかけられるタイプではない私を軽々攻略するのだ。それは、相当な能力と必殺キラキラスマイル、いや、キラースマイルを持っているのだ。私もすぐやられてしまった。
「やっぱ、すごい事なったんだそれ。大丈夫?」
「うん。まあまあ大丈夫。あっ、昨日眼鏡ありがとう」
「全然!やっぱさ私は裸眼派なんだけど、コンタクトとかつけない?」
「あー、つけたことないかも。」
「つけてほしいな〜。私野球部のマネージャーなんだけど、昨日勇翔めちゃくちゃ先輩とかにもイジられてたんだよね」
「そうなんだ。それは、申し訳ないことしたな」
この腫れは、そんな二次被害もあると思い、内心笑いそうになっていた。
「昨日のキャッチボールは、勇翔とそのペアの子だけ十分延長されてた」
神田さんは、その光景を思い出してか吹き出すように笑っていた。
私達は傘を閉じ、下駄箱で上履きに履き替えた。
教室に入るまで、神田さんはすれ違う度に知り合いと挨拶を交わしており、人脈の違いを大きく感じたものだった。彼女は間違いなくこの学校を支配できるだろう。私は既に子分・ナンバー六十だ。
教室へ入ると、神田さんは「おはよー!」と大きく手を振った。四人ぐらいに固まって座る女子たちが「おはよう真優!」と同じく手を振り返していた。
一方で私は一直線に椅子へ座り、スクバの中から読みかけの本を取り出す。
このミステリー本のおかげで昨日は、一時に寝てしまい、やや寝不足なのだ。
しかし、本の中へ一度入り込むと止められなくなるのだ。
私は、チャイムが鳴るまでの十分間読み続けようと考えていた。
すると、目の前にぼんやりとシャツと黒いズボンの人が立ったような気がした。私は、本の中へ入っていたため、気づきもしなかったが「南さんおはよう」と言われてハッとした。
目の前には昨日、私を顔面アタックした坊主の小森勇翔君が立っていた。
もちろんこの人も名前を予習した。
珍しく話しかけられたため、しおりは挟まず本を閉じて「おはよう」と言った。
「やっぱり、重症化しちゃった?骨とか大丈夫?」
小森君は、心配してかまた話しかけに来てくれたみたいだった。
「腫れてるけど、病院に行くほどではないから大丈夫」
「病院行ってないの?」
「うん。行ってはない。そこまで無かったから、でも母も父もあんたがアクティブになるなんてって喜んでたから安心して」
小森君は、安心してか、ため息混じりに「よかったー」と言った。
「俺、本当にやらかした!って帰った後の方が不安で。南さんの親から電話くるだろうなとか思ってたから、そんなふうに言ってくれて良かった。」
あ、親の変な所をバラしてしまった思い「まっまあ」何て目を逸らしながら答えた。
「俺は、母ちゃんにすげえ怒られたから。そりゃそうなんだけどね。女の子にぶつけるなんて野球部失格よ!って」
「私は受けてみて、野球に向いてると確信したから、自信持って」
小森君は、歯を豪快に見せながら笑った。
「今度、謝りに行きたいんだけどさ…」と小森君が申し訳なそうに言うと「なになにー」と彼の周りに男子がゾロゾロとやって来た。
「昨日は、南さんコイツがすみません!」
「何かいい感じなの?」
小森君は、苦笑いしながら「困ってるって」とさらっと交わしていた。
そうだ、小森君もクラスの中心でムードメーカーだった。
私は、それをぼんやり見ながら男子とはしょうもないが元気が朝からすごいなとこちらもびっくりさせられた。
チャイムが鳴り、みんな席についた。
原田先生も「おはよー!!!!ヘイ!」と言いながらハイテンションで扉を開けた。
このクラスの元気印は、この担任からなのかもしれない。
今日は朝から、神田さんや小森君と話せて、私は何か貧乏神でもついたのかなといつもとは違う朝を過ごせたのだった。
しかし、小森君は周りの席の男子から何だかいじられており、私は小森君、君は私と関わりすぎてしまったようだねと心の中でキザぶって処理をした。
本当のところは、男子とあそこまで話してしまい、多少自分の立ち位置ぐらいは理解しているので、やらかしたかもなと思った。
学校は、何かとめんどくさい所でもある。
それでも、今日の朝二人と話せたことは、私の心を少し晴れやかな気持ちにさせてくれた。




