ドMの王様
八畳一間のワンルーム。
風呂とトイレは別々。
一人で暮らすには、特に不便を感じないアパート。
その一室。
「うぉああおおおおおあっ!?」
夜の八時半。
仕事を終えて帰宅した大野空良は、間抜けな悲鳴を上げた。
部屋の窓際には、ベッドがある。
すぐ近くにはテレビ。
ベッドの手前に、丸い座卓テーブル。
テーブルのすぐ側で、可愛らしい少女がちょこんと座っていた。正座で。
薄い金色の、綺麗な髪の毛。銀色に近い綺麗な瞳。長い睫。透き通るような綺麗な肌に、美しい顔立ち。肌の色や髪の色、瞳の色は、どう見ても日本人ではない。顔の彫りはそれほど深くなく、ハーフのように見える。
空良は純日本人だ。父は東北生まれ。母は北海道出身。親戚も全員日本人。
つまり、目の前の少女が親戚の誰か、ということはない。間違いなく、疑いようもなく、真っ赤な他人だ。
帰宅したら、見ず知らずの他人が自宅にいた。驚いて当然である。
悲鳴を上げた後、空良はしばし硬直した。思考が停止して、何も考えられない。何もできない。
少女は空良をじっと見た後、正座のまま、頭を下げた。
「おかえりなさい、ぱ――空良さん」
「あ……え……?」
喉の奥から声が漏れた。少女は今、確かに、自分の名前を呼んだ。でも空良には、こんな知り合いなどいない。
――いや、待てよ。
胸中で呟き、空良は考え込んだ。
空良は、人の顔を覚えるのが苦手だ。同時に、人の顔を認識するもの苦手だ。
これは別に、記憶力の問題ではなかった。相貌失認――人の顔を認識したり記憶したりできない病気。空良は、日常生活や仕事に支障が出るほどではないが、この病気に該当していた。毎日見るような人の顔でなければ、記憶できない。概ね十メートル以上離れると、視力が悪いわけでもないのに人の顔の区別がつかない。
相貌失認のせいで、この少女のことを忘れているんじゃないのか? どこかで会ったことがあるんじゃないのか?
考えて、すぐに結論を出した。
――そんなわけあるか!
確かに空良は、人の顔を区別するのが苦手だ。記憶するのも苦手だ。だが、これほど特徴的な外見の少女を、忘れるはずがない。顔を覚えられなくても、髪の色や瞳の色は記憶できる。
頭の中で考えがまとまると、空良は少女を指差した。
「誰だお前!? 泥棒か!?」
「そんなわけないじゃない。侵入した家でこんなにくつろぐ泥棒が、どこにいるのよ?」
「確かに」
もっともな少女の意見に、つい納得してしまう。
「じゃあ、なんなんだ? そもそも、どこの国の人だ?」
空良が聞くと、少女はゆっくりと立ち上がった。グーッと体を伸ばし、空良に近付いてくる。体を伸ばしたときに気付いたが、小柄な割に胸が大きい。Fカップ、といったところか。
空良は、胸の大きさや形で女性を特定することが得意だった。たとえ服を着ていても。ブラジャーをしていても。あのおっぱいは美紀ちゃん、あのおっぱいは愛奈ちゃん、というように。顔を覚えられなくても、おっぱいは忘れない。
空良の目の前まで来ると、少女はにっこりと微笑んだ。
「こんばんは、空良さん。私は、フィオネ・サイエンスといいます」
「あ……ああ、はい。こんばんは」
挨拶をされて、つい、挨拶を返してしまった。
それにしても綺麗な日本語だ。思わず、空良は感心してしまった。片言でもなければ辿々しさもない。語学が堪能なのだろうか。それとも、日本生まれで日本育ちのハーフなのだろうか。
「……って、挨拶してる場合じゃないだろ!」
「なんで? 挨拶は大事だよ。コミュニケーションの第一歩なんだから」
「そういうことじゃない!」
「じゃあ、どういうこと?」
「まず、お前は誰だ!? どうして俺の家にいるんだ!?」
少女――フィオネは、ポンッと手を叩いた。
「ああ、そうだよね。いきなり家に来られたら、ビックリするよね。ごめんね」
えへへ、とフィオネは笑った。笑顔が可愛い。ここで「あなたのお嫁さんになりに来ました」と言われたら、あっさりと受け入れてしまうくらいには。
しかし、フィオネの次の言葉は、空良の期待から大きく外れていた。
「私、今の空良さん達の認識で言う、宇宙人なの。ヴィヴィッテェィドゥっていう惑星から来ました」
「ヴィ……ヴィドゥ?」
「ああ。日本人には少し発音が難しい名前だよね。たぶん、英語圏の方だと発音しやすいのかな?」
「……」
フィオネは、相変わらずニッコリと微笑んでいる。
空良はフィオネをじっと見た後、大きく溜め息をついた。
――なるほど。そういうことか。
この家に侵入した方法は不明だが、フィオネについては理解した。
強烈極まりない妄想癖がある人なのだろう。もしくは、脳に影響の出る薬物を使用しているか。いずれにせよ、こういった場合に取る手段は一つだ。
警察へ連絡。
空良は、ポケットの中からスマートフォンを取り出した。通話アプリをタップする。
「ああ! 懐かしい! それ、Android端末だよね? うわぁ、レトロぉ」
スマートフォンを手にした空良の腕を、フィオネはグイッと引っ張った。まじまじとスマートフォンを見ている。
「凄いなぁ。時代を感じるなぁ。これがこんなふうに動いてて、使ってる人がいるなんて」
再度、空良は溜め息をついた。スマートフォンを持った手をフィオネに引っ張られているので、警察に連絡ができない。
今のところ、フィオネに危険は感じない。正気ではないとはいえ、凶暴性はないようだ。だとすれば、連絡すべきは、警察よりも病院か。もしくは、その両方か。
「あのね、フィオネちゃん」
「なぁに? 空良さん」
スマートフォンから視線を外し、フィオネは、上目遣いで空良を見てきた。可愛い。
「とりあえず、君は病院に行くべきだと思うんだ。だから、連絡させてくれないかな」
「病院? 何で?」
「きっとね、君は心の病気なんだ。だから、救急車を呼ばなくちゃ」
「私、病気じゃないよ?」
「病人はみんなそう言うんだよ」
「そうかなぁ?」
フィオネに不思議そうな顔をされて、空良は、三度目の溜め息をついた。
「あのね、フィオネちゃん。理論的に考えてみようか」
「何を?」
「まず、現在の科学で判明している限り、光速を超える速度はない。光速度不変の原理、っていうんだけど。これは知ってるかな?」
「うん。知ってるよ」
笑顔のまま、フィオネは頷いた。
「物質は、速度を上げるごとに質量が増大して、光速に達した時点で無限大になるからでしょ? だから、それ以上の速度に達するのは、理屈上は可能でも理論上は不可能なんだよね」
「……」
フィオネの意外な知識に、空良は呆然としてしまった。強烈な妄想癖があったり薬物を使用しているとは思えない。
すぐに気を取り直すと、空良は咳払いをして続けた。
「よく知ってるね。じゃあ、次に、現在の科学で推定されていることなんだけど。地球外知的生命体と交信するには、数千年かかるって言われているんだ。いい? 交信するだけでだよ? つまり、地球に来るにはさらに時間がかかる。仮に光速で移動可能だとしても、互いの惑星間を移動するだけで、人生の何百倍もの時間がかかるんだ」
「ああ、なるほど」
何かに納得したように、フィオネはコクンと頷いた。この仕草も可愛い。
「つまり、空良さんは、私が宇宙人なわけないって言いたいんだ?」
「うん。ご名答」
意外に早く理解してもらえた。なんだか空良は、ホッとした気分になった。
「じゃあ、フィオネちゃん。とりあえず病院に行こうか。警察は、今回は見逃してあげるから」
「待って、空良さん」
フィオネは空良の服を掴んだ。
「何?」
「空良さんのさっきの理屈、覆す方法があるんだよ」
「は?」
間の抜けた声が、空良の口から漏れた。
「さっきの理屈って『互いの惑星間を移動するだけで、人生の何百倍もの時間がかかる』ってやつ?」
「うん。そう」
「どうやって?」
「簡単だよ。移動は光速。これは当然だよね。実際、地球とヴィヴィッテェィドゥは、日本語で言うと一万光年近く離れてるんだから」
つまり、光の速さで移動しても一万年近くかかる距離。
「そんなに離れてるのに、どうやって地球と行き来するんだよ? もしかして、ヴィヴィて――」
舌を噛んだ。空良は言い直した。
「――君達の星の人は、何万年も生きられるっていうのか?」
「まさか。寿命は、だいたい地球人と同じくらいだよ」
「じゃあ、どうやって?」
「簡単だよ。移動時に、移動に使っただけの時間を逆行させるの」
「つまり、一時間移動したら、一時間だけ時間を遡るってことか?」
「うん。そうだよ。空良さんって、やっぱり頭いいね。さすが」
褒められても嬉しくないのは、フィオネの言うことがあまりに滑稽だからだろう。
「いやいや。それって、言い方を変えれば、君達の星の人は、自由自在に過去へ移動できるってことだよね? もし本当にそんなことが可能なら、歴史は滅茶苦茶になるだろ」
「うん。そうだよ。だから、惑星間移動のときだけ、必要最低限しか時間移動できないように、ポットの――日本語で言うと宇宙船のことだけど――時間調節機を設定しているの」
「いやいや。いくら設定してても、それを設定変更されたら意味ないだろ」
「大丈夫。無理だから」
「というと?」
「時間移動の技術を理解してるのは、王家の人間だけだから。だから、普通の技術者がどうこうできるものじゃないの」
フィオネは人差し指を立てながら、空良に説明してきた。
「この時間移動の技術、王家の秘宝って呼ばれてるんだけどね」
「……」
フィオネの言うことは、一応、辻褄が合っている。時間移動の技術を利用しているから、本来は万単位の年数がかかる惑星間移動を、短時間で行える。時間移動の技術は秘匿されているから、歴史に悪影響を及ぼすこともない。
だが、しかし。
辻褄は合ってるが、荒唐無稽この上ない。時間を逆行しながら光速で移動し、惑星間を行き来するなんて。
とはいえ、惑星の行き来という切り口でフィオネを黙らせるのは難しそうだ。空良は、別の方法でフィオネを論破することにした。黙らせて、大人しく病院に行かせよう。
「じゃあ、フィオネちゃん。俺に、証拠を見せてくれないかな?」
「証拠? 何の?」
「君が宇宙人だっていう証拠だよ。地球人じゃないなら、地球人にはない特技みたいなのがあるはずだろ?」
我ながら、なかなか無茶な要求だと思う。でも、これでフィオネも大人しくなるだろう。
そんな空良の思惑とは裏腹に、彼女は「いいよ」と明るく応えた。人差し指を空良の方に向けて。
「じゃあ、空良さん。私の指先に、空良さんの指先を当ててみて」
「?」
意味が分からないまま、空良は、人差し指を立てた。そのまま、フィオネの指先に触れさせる。
指先と指先が、チョンと触れた。
その瞬間。
「ぃ――――――――っ――――――――!?」
電流のような衝撃が、空良の体を駆け巡った。ビリビリとした痛みと振動で、全身が震える。
フィオネが指先を離すと、電流が治まった。
痛みと振動から解放された空良は、ペタンと、その場に尻餅をついた。唐突な痛みに驚き、全身が冷や汗で濡れている。
「……なんだ、今の?」
「ヴィヴィッテェィドゥ人の特殊能力。体の末端の先端と先端を触れ合わせると、一方から一方へ、電流を流せるの」
――体の末端の、先端と先端を触れ合わせたとき限定かよ。どんな状況で使うんだよ。
胸中で毒突きつつも、空良は、認めるしかないことを悟った。こんなことができる地球人はいない。少なくとも、空良は知らない。
フィオネは、強烈な妄想癖に囚われた人じゃない。もちろん、怪しい薬を使っているわけでもない。
彼女は、正真正銘、宇宙人なのだ。
「この能力はね、私達の星で、男性が女性にプロポーズするときに使うの。男性が指先を差し出して、女性の電流に耐えて。その耐える精神力を見せて、『俺はこの痛みに耐えるくらいあなたを愛している』って証明するの」
「なんか、辺境部族の風習みたいな求婚方法だな」
ポツリと呟きながら。
空良は、自分の心臓の鼓動が速くなっていることに気付いた。普段の心拍数は、概ね一分間に六十回くらい。でも今は、一二〇くらいにまで上がっている。
――さっき受けた電流のせいか? 電流を流されて、体の電解質の動きが乱れたのか?
自問する空良の前に、フィオネがしゃがみ込んだ。
「ねえ、空良さん」
先ほどまでとは種類の違う、フィオネの笑顔。妖艶で悪戯っぽい笑顔。
彼女は、空良の方に指先を差し出してきた。
「もう一回、ビリビリして欲しくなってるんでしょ?」
◇ ◇ ◇ ◇
フィオネと出会ってから数日後。
空良は、市内にある山の麓にいた。
フィオネの言葉を思い出す。
『ヴィヴィッテェィドゥの第一王女が、地球侵略の下見のために来るの。侵略して、地球人を皆殺しにして、地球の資源を自分達のものにするために』
ヴィヴィッテェィドゥの科学力は、惑星間移動が可能なことから考えて、地球よりもはるかに進んでいるはずだ。そんな奴等に攻め込まれたら、地球側に勝ち目はない。
『でもね、私は、地球が好きなの。地球人を絶滅させたくない。だから、空良さんに、王女を止めて欲しいの。そのお願いのために、私はここに来たの』
もちろん空良は、ただの地球人である。戦って王女を止めることなど、できるはずがない。その場の喧嘩で勝ったとしても、武器を使われたらその時点で殺されるだろう。
それはフィオネも分かっていた。彼女は空良に、とんでもない提案をしてきた。
『空良さん、王女にプロポーズして』
ヴィヴィッテェィドゥで男性が女性にプロポーズする場合、自分の指先を女性に突き出す。突き出された男性の指先に、女性が、自分の指先で触れる。電流を流す。女性にプロポーズを受け入れる意思がない場合、男性が失神するまで電流を流し続ける。プロポーズを受ける気になった時点で、女性は、電流を流すのをやめる。
『いや。でも。いきなり地球人がプロポーズして、王女が受け入れるとは思えないけど』
もっともな意見を述べた空良を、フィオネは、艶っぽい目で見つめてきた。
『大丈夫。空良さんなら』
そのまま、自分の指先で、空良の指先に触れた。電流を流された。
『空良さん、電流を流されるのが気持ちいいんでしょ? 電流を流されて、興奮してるんでしょ? だって、ほら。ビリビリしながら勃っているし』
確かに勃っていた。見事にそそり勃っていた。空良の男性器が。
フィオネに指摘されて、ようやく空良は自覚した。自分が、新しい快楽の扉を開いてしまったことに。
そして今。
夜空から、静かにポット――宇宙船が降りてきた。球体を半分に切ったような形の宇宙船だ。
柔らかい動きで地上に着地し、静かに動作音が消えてゆく。車で言うところのエンジンを切ったのだろう。
宇宙船の中から、三人の女性が出てきた。
空良は、あらかじめ、王女の写真を見せて貰っていた。フィオネによく似た、胸の大きな女性。フィオネはまだ若く発展途上だが、王女のおっぱいは、どう見てもHカップはあった。
三人の中の誰が王女か、空良はすぐにわかった。あの胸を忘れるはずがない。
「――――?」
「――――」
「――――――――?」
ヴィヴィッテェィドゥの三人が、何かを話している。彼女達の言語は、空良には分からない。
でも、構わない。会話は不可能でも、プロポーズはできる。
空良は王女に近付き、彼女に向って指を突き出した。左手の人差し指。
王女は驚いた顔をしていた。なぜ地球人の男が、ヴィヴィッテェィドゥのプロポーズを知っているのか。そんな疑問を抱いているのだろう。
だが王女は、すぐに笑顔になった。余裕の笑顔。ヴィヴィッテェィドゥでは、女性がプロポーズを断る際、男性が失神するまで電流を流し続ける。
王女の指先が、空良の指先に触れた。電流が流れてきた。全身に、痛みと振動が駆け巡った。
空良の心拍数が、どんどん上昇していった。強烈すぎるほどの興奮で。電流で震えているせいか、王女の胸が揺れて見える。それが一層、空良の興奮を高めた。男性器は、すでに最高潮に勃起していた。
電流を流され始めてから、どれくらい経っただろうか。
なかなか失神しない空良に、王女は驚愕の表情を浮かべていた。
――こんなもんで驚くなよ。
全身を震わせながら、空良は不敵に笑った。左手の人差し指から電流を流されつつ、右手で、ジーンズのベルトを外した。そのまま、ジーンズを下げた。パンツも一緒に。
王女の前に、空良の男性器が突き出された。
王女の方を向き、少し湾曲しながらもそそり勃つ、男性器が。
空良は王女の目を見ながら、右手で、自分の男性器を指差した。ジェスチャーで伝える。
『指先から電流を流すくらいじゃ生温い。こっちから流してみな』
王女の顔は真っ赤になった。それは、男性器を出された怒りからか。男性器を目にした恥ずかしさからか。もしくは、その両方か。
彼女は、空良の挑発に乗ってきた。空良の指先から、自分の指先を離した。直後、空良の男性器に向って指を突き出した。
空良の男性器の先端から、強烈な電流が流れ込んできた。
快楽の頂点に達した空良は、一気に絶頂を迎えた。
◇ ◇ ◇ ◇
「あら。お帰り。早かったね」
「うん。ただいま、ママ、パパ」
王宮の大広間。
空良とエリザベートが朝食を食べているところに、娘が入ってきた。
娘は、今年十六歳。四年間、地球へ留学に行っていた。今日帰ってくることは聞いていたが、空良が思っていたよりも早く着いたようだ。
――ヴィヴィッテェィドゥの王女であるエリザベートが地球の下見に来てから、十八年が経っていた。
あのとき。
男性器でエリザベートの電流を受けて見せた空良は、見事にプロポーズに成功した。むしろ、空良の行動に、エリザベートの方がベタ惚れしてしまったようだ。
『電流を、苦痛どころか快楽に変えてしまうなんて! なんて器が大きい人なの!』
エリザベートは驚愕し、感動したという。
空良の行動のどこに感動する要素があったのか、空良自身にも分からない。とはいえ、空良のプロポーズが成功したことにより、地球は救われた。
救われたどころか、エリザベートは、空良の故郷である地球を最重要親交星とした。さらに、冗談のような親日家となった。ヴィヴィッテェィドゥの義務教育の一教科に、日本語を加えてしまうほどに。
そのためヴィヴィッテェィドゥでは、ほとんどの人が日本語を話せる。今では、第二の母国語と言えるほどだ。
もちろん娘も、日本語がペラペラだ。
「はい、アナタ。あーん」
今では女王となったエリザベートが、フォークに刺した果物を空良に差し出してきた。
空良は、エリザベートが差し出してきた果物を口に入れた。
「アナタ、美味しい?」
「うん。美味しい」
出会いから十八年経った今でも、エリザベートは美しい。Hカップあるおっぱいも、相変わらず美しい。
夫婦仲は良好。公務のとき以外はいつも一緒だし、夜の生活は日課と言える。電流を流されながら妻のおっぱいに顔を埋めるのが、空良は大好きだった。
「ねえ、アナタ。今夜も、ね?」
「もちろんだよ、エリザベート。今夜もビリビリして、パフパフして、いっぱい愛し合おうな」
「もう、アナタったら」
空良もエリザベートも、互いから視線を外さなかった。四年ぶりに娘が帰ってきたのに。妻は空良を見ていたし、空良は妻を見ていた。
「……ちょっと、ママ、パパ」
娘の溜め息が聞こえた。
「夫婦仲がいいのはいいけど、四年ぶりに帰宅した娘の顔くらい、見てみたら? 子供は、四年もあれば凄く成長するんだから」
「ああ、そうだな」
「ごめんね、フィオネ」
口々に言いながら、空良とエリザベートは、帰宅した娘――フィオネを見た。
四年ぶりに見る娘。
最後に会ったときより、ずっと成長した娘。
フィオネを視界に入れた瞬間。
空良は、目を見開いた。
薄い金髪に、銀色の瞳。エリザベートに似た、綺麗な顔立ち。
髪も瞳も、ヴィヴィッテェィドゥでは一般的な色だ。珍しくも何ともない。妻の娘なのだから、フィオネが美人なのも不思議ではない。
空良が目を見開いたのは――驚いたのは、フィオネの胸だ。おそらくはFカップ。現在、成長期。もう少し経てば、妻と同じくらいの大きさになるだろう。
そのFカップの胸には、見覚えがあった。
相貌失認である空良は、人の顔を覚えられない。なんなら、フィオネの顔もすっかり忘れていた。
しかし、おっぱいは忘れない。たとえ服の上からでも、おっぱいで人を判別できる。
忘れるはずのない、このFカップのおっぱい。
十八年前の出来事。
空良が初めて、ヴィヴィッテェィドゥ人に出会った日のこと。
空良の自宅にいた、ヴィヴィッテェィドゥ人の少女。
彼女から聞いた、王家の人間のみ知る、時間移動の秘匿。王家の秘宝。
「……フィオネ……お前……」
フィオネは、可愛らしい笑顔を見せた。あの日と同じように。
「じゃあ、パパ。帰ってきてすぐなんだけど、私、これから大事な用があるから。またしばらく出かけるね」
手を振って、フィオネは大広間から出て行った。
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しいなここみ様主催の宇宙人企画参加作品ですm(_ _)m