終わり
「まだ見つからんのか!早く見つけ出せ!」
王宮に響く王の怒鳴り声。
「ただいま全軍不眠不休で捜索を行っております…」
騎士団長はもう何日も眠れていないのか、今にも倒れそうな顔をしている。
「なぜ見つからん…このままだと本当に世界は…」
深刻な顔をする王とは裏腹に、今日も勇者は見つからないー
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「約束どおり、来たぜ、ジジイ」
ドラゴンにやられてから一年後、魔王と死闘を繰り広げていた勇者は、最後の最後に、最大の反撃に遭った。とどめをさせないことを悟った勇者は、残しておいた魔力を使い切り、老人の元へテレポートしてきたのであった。
「お前さん、バカだなあ…あれだけ言ったのに、そんなになるまで戦って」
ジジイは憐れむような、慰めるような声で言う。テレポートで飛んできた勇者には、もう、腕も、脚も、残っていなかった。
「ふふっ…無理だった…必死に努力したけど。魔王を倒すことはあと一歩、できなかった。もう、心も折れちまった。だから、一緒に、終わりまで過ごしてくれ。出世払いも、払いにきた」
勇者は、一言一言を発するのも力を振り絞らなければならなかったが、それでも、大きな重荷から解放されたことで、どこか安堵した表情をしていた。
「お前さん、ワシが1年前に致命傷から救ったからってワシを買い被りすぎじゃよ…こんなになって、治せると思ってるのか…?」
勇者は自身の治癒魔法で出血を止めてはいた。ただ、到底助かるものとは思えなかった。
「まあ、治せるんじゃがの」
とぼけたように言った老人は、治癒魔法を使い始める。勇者の血色が、みるみる良くなっているのがわかる。
「流石に四肢は生やせんけど…そこはまあ義手義足で我慢しな。ついでに顔も変えとくか。勇者のままだと都合も悪いじゃろ」
そういって老人は、勇者の顔もいじり始める。世界を背負って険しくなってしまっていた顔は、穏やかな、平々凡々な顔に作り変えられた。
「こんなもんじゃろ。で、お前さんは何がしたいんじゃ?」
このジジイは結局何者だったんだと思いつつ、凡人は答える。
「そうだな、どこかの草原で、ゆっくり酪農をして過ごしたい。朝日と共に起き、夜と共に寝る。戦いとは程遠い、そういう生活をして、穏やかに最期を迎えたいな」
もう、生きていく話ではない。どうやって、終わっていくかの話をしている。
「そうか、それはいいな」
老人は答える。勇者と凡人のいる空間は、とても穏やかだった。
ーそれからー
王族たちは、どうやっても勇者を見つけられなかった。見つけられれれば、殺せれば。次の勇者が生まれる。そうすれば、世界の崩壊に猶予ができる。
今までそうやって、致命傷になった勇者は、殺して耐え凌いできたのに、なぜ、なぜ今回は見つからない。しかも、魔王に致命傷まで与えているのに。次の勇者で、世界は確実に救われるというのに。なぜ、なぜ…。王は頭を抱えた。
結局王族は勇者を見つけられなかった。間に合わなかった。そして、世界は崩壊した。
ー世界が崩壊する、少し前ー
「なあじいさん」
「なんじゃ?」
終わりに向かう世界のどこかで、1人の凡人が1人の老人に言う。耕作道具を、肩にかけながら。
「なんでもない」
老人には聞こえない声で、凡人はつぶやいた。
「ありがとう」