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「…れが…やらなきゃ…俺が…勇者で。…この世界で唯一魔王を…倒せ…」


 そうだ、俺は選ばれたんだ。世界に、神に。俺しか魔王を倒せない。俺が倒せないと、この世界が終わってしまう。だから、強くならないと。俺が、世界を救わないと。


「勇者?魔王を倒せる?ッハッ。よくわからんことを言うなあ」


 ジジイは楽しそうに笑っている。何がそんなに楽しいのか。


「俺は世俗に疎いからわかんないけどさ。仮に今、世界が終わりに向かっていて、お前さんがそれを救える唯一の存在で。なんでお前さんが、世界を救わなきゃならないんだ?」


 ジジイは心の底から不思議そうに言う。


「そりゃ…それが選ばれたものの定めだから…みんなが俺に期待してる…。俺がやらなきゃ、誰も魔王を倒せない」


 そうだ。俺は期待されてる。だから、その期待に応えなきゃいけない。俺しか、俺しか…。


「だからさ、」


ジジイは宥めるように言う。


「仮にお前さんが、その勇者ってやつだとして、仮にお前さんが世界を救えなかったとして。誰にお前さんを責める権利があるんだ?お前さんしか世界を救えないんだろ?だったらお前さんは、世界を救ってやる側であれ、世界を救わなければいけない側ではないだろ」


 ジジイは滔々と言う。


「だけど…それでも。救いたいやつもいるし、救われてほしいやつもいる。そいつらのために、俺は…」


「その救いたい人間が、お前さんを救ってくれたのか?」


 ジジイは、慰めるような、優しい声で言った。確かに、俺は今、一人だった。


「やめたっていいんだよ。やめたって。やめたって世界が滅ぶまでは時間がかかるだろうし、それまでお前は遊んでたっていい。何でもやめていいんだ。やめようぜ。世界なんてどうでもいい。そしてみんなと、死ねばいい」


 そんなの、老い先短いジジイの戯言だ。俺たち若者は、明日が欲しくて、未来が欲しくて、そのために生き、戦ってるんだ。


 そう思う心とは裏腹に、何か、自分の心の中の大きな重りが、一つ外れた。


「フハッ…そうだな爺さん。爺さんの言う通りだ…俺は別に世界を救う必要なんてない。俺が魔王に負けてもさ…それは俺が悪いわけじゃない。むしろ俺しかいないのに、俺を支えなかった周りのやつらのせいじゃないか?」


 みんながんばれと言ってくれた。みんな期待してると言ってくれた。けれど誰1人。一緒に来てくれるやつはいなかった。


「そうだそうだ、胸を張れ。好きに生きて、好きに戦ってこい。もし本当に勝てなかったなら、ここに戻ってこい。一緒に終末を過ごそうぜ」


 ジジイはケラケラと笑って言う。老い先短いジジイの、責任感のない笑いだった。俺は張り詰めていた気が緩み、地面に崩れ落ちた。


 「とりあえず治るまでは安静にしていろよ。世話はしてやる。お代は出世払いだな」


 ジジイはニヤッと笑った。結局1週間ジジイに看病された俺は、その後また、魔王討伐の旅に出た。


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