「ウラシマー君。」
登校するとき角を曲がれば美少女が
「浦嶋君っ! 奇遇ねっ!」
振り切って校門まで着けば挨拶当番の黒い長髪の子が
「浦嶋君っ! おはよう。どう髪型変えたんだっ。ちょっと!」
知らないふりして席に座れば隣りの席の瞳がぎらぎらしている子が
「浦嶋君♡ 夜眠るときに浦嶋君のアーカイブを見るの。あなたの声を聞きながら眠っているのだからこれって結婚しているのと同じだと思わない?」
言うまでもなく全て霞京子だ。忍者なのだろうか、悉く先回りしてくる。こっちは必死に逃げているのに無駄に疲れるだけだ。と息切れすれば霞は火照って
「そんなに興奮しなくても」
とうねうねする。半分はストーカーの恐怖だけど、もう半分は一目惚れの乱発。心が昇華反復横跳びだ(?)
そのせいか最近、尿意が近い。
「どこへ行くのですか」
「ついてくるな。トイレだ」
「へーそうなんですね」
「だからついてくるなって! 霞は女子だ。校内一の女子だぞ。男子トイレに入ったら大変だ」
主に俺の命が。すでに缶や瓶が飛んできて俺がハリセンで振り払っている始末だけど。
「嬉しいわ」ほわ~っとまた柔らかく微笑む。可愛っ――
「危なかった。あと少しで狼になるところだった」
「野良犬だろ! そこらへんでトイレしとけ!」
「誰だ。俺のこと野犬って言ったの。とにかく霞、離せよ」
「なぜでしょうか」
「さっきも言っただろ」
「ええ。私は女子ですよ。でもトイレは男女共同ではありませんか?」
「……は?」
気づいたら俺の高校のトイレがジェンダーレスになっていた件について。どちらにせよ、中には鉄バットを持った野郎どもがわんさかいるので、野良犬は野良犬らしく校舎の裏の茂みに駆け込みました。なおそれでも霞が付いてきたのでなんとか巻いた。頑張った。
「ふぅ~すっきりした。あれ?」
隣りに車があった。駐車場はあっちだったはずだが、しかもこの車見覚えがある。いつか天音がぶっ壊した、、教頭の??
あーやばい。葉っぱに掛かったモノが車輪に、、いや、水溜まりがあるから中和されている。科学的に農奴は低いから――やばっ! 人影がこっちに伸びてきた! 早く隠れ
「そんなところでなにを?」
「くそ、間に合わなかったか」
喉にセミの抜け殻が挟まったような錆びた声からして教頭だ。明らかに不信がった声色だ。俺がここでしていたことがバレたら叱られるに違いない。ここは適当にはぐらかして逃げよう。
俺は振り返った。
「あはは、今日は良い天気ですね。教頭――」
「浦嶋君っ!」
聞き間違いか、声色は霞だった。俺は目を疑った――黒いストレートヘア、可愛らしいパチパチした表情。しかし”皴だらけ顔とスーツ”――教頭ではない霞みたいな教頭だ。
しかもこのキモいのがルンルンと俺に抱き着こうと寄ってきた!
「逃げないでよっ――ウラシマー君。」石の真顔。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
俺は必死に逃げた。まるで逃走中のハンターのごとく腕を振って追いかけてくる霞のようなおっさん。というか霞のコスプレしてる教頭。
俺は窓ガラスを割って校内に入るとなんとかこの変態から逃げ伸びた。捕まったら何をされていたのだろうか。
授業中。どうしても霞はノートに一文字書くごとに俺のほうへ微笑んでくる。ふにゃっとした口やうるっとしている唇も魅惑的であり、俺も十分に満喫しているのは否定しない。おかげで殺人鬼の真っ赤な目が背中を突き刺して止まないけれど。
けれど、俺はまだ諦めていない。霞から解放されて元通りの自由な学校生活を取り戻す。そのためにはまず寿命が必要だ。霞から離れないとドキドキし過ぎて死にそうだ。恋と恐怖の両方の意味で。。
だから俺はまだ諦めていない。この前はなぜか作戦会議しているときに霞がやってきて台無しになったが、まだ俺には頼れる仲間がいる。
親友の大野!
「まぁ理が羨ましいのはわかるけれど、まずはフランスの五つ星のクッキーでも食べて」
「おーこりゃ美味しい! 理なんかどうでも良くなってきた!」騒ぐ男子諸君。
「うん。これで仲直りだね☆」
満足げな大野であるが、包装のビニールが俺の背中に雹のごとくぶつかっているのがわからない。投げるなら中身投げてくれよ。俺も食べたい。
親密な中の茨田!
「そろそろ髪長くなってきたし、いいのないかなー?(スマホスラスラ)」
「……(SOS)」
「今度はもっと可愛い系にしてみるかー(無視)」
なんとなくだけど、もうどうせ理とかどうにもならないしどうでもいいわ。って感じがする。見捨てられた?
こうなったら天音。なんだかんだ付き合いが濃い天音!
「可愛い系より切っちゃいなよ~クールな方が男寄らないよ~? こんなのど~?」
――なんかギャルになってる!? 虹色のアイライン、髪留めのピンよりも長く張っているまつ毛、舞妓みたいな濃い白の肌に、頬だけ天狗のごとく真っ赤で、髪はくるくるした金髪だ! かなりケバい! 隣りの席が茨田になってギャルがうつってる!
ん? 茨田がこっちにアイコンタクトしてきた。
「(助けてキツイ)」
「(わかる。隣りの席だろ。お互い様だ)」
「(えー)」
さて。次の調理実習の包丁で割腹自殺する覚悟しとこ。
「どうかしました? 顔色が悪いですね。寒いのですか? 先生、浦嶋君を保健室に――」
「いいよ。どうせ後で行くし」
「???」
霞の新鮮なへの字の口を堪能して、周囲が見慣れない霞の困惑顔に関心しているのを面白がって、霞が「私をこんな風にできるのはあなただけです」と恥ずかしがったのに惚れそうになってくらくらするのを耐える。心臓、速すぎて息が苦しい!!
さて、昼休みは理科準備室に避難した。ここで霞の何が怖いのかを御覧入れよう。
俺は昼休みになってから教室で霞を「今日は霞の為にプレゼントを用意したんだよ」と言って逃げ、その後購買で「あっ、弁当? それならいい場所を知ってるから目を閉じて手を引っ張るから」と言ってわくわくして手を伸ばす霞を放っておき、さらにトイレで休もうとしたら扉の裏で霞が待っていたから「紙がないから取ってきて!」と嘘をついて逃げた。
こうしてすでに三度逃げているわけだが、今、ドアに耳を当てるとコトコトと足音がして、霞の柔らかい声が「どこにいるの~? 浦嶋君~」と響いてくる――ちょうどその音がドアの前で止まった。
「鍵かかっているから大丈夫なはず――あれ?」
「ふふ。愛の力の前じゃ無力よ」
「愛の力? 鍵持ってないか?」
ぶらぶらと鍵が揺れている、ぶあつい手の内側、白衣の袖と棍のズボンの間を。にしても手がやけによぼよぼだ――俺は見上げた――サラサラの黒い髪、ネクタイ、ヨボヨボの尖った鼻。
「いい天気だねっ――ウラシマー君。」貼ったような真顔。
「理科のジジイじゃねええええええええええかああああああああああ!」
俺は命の危険を感じた。廊下を激走。こんなことが朝にもあった気がした。悪夢だったって誤魔化していたけど正夢になってしまった。からと現実逃避。階段を滑って下りたところ――みたことがある長い黒髪、けれどガタイがいい。体育の熱血親父……けど声は霞のっ!?
「どうしたの?――ウラシマー君。」壁の真顔。
「またかよ! どうなってんだ!」
俺は廊下を走った。一目散に走った。なんだかおかしい。角を曲がれば誰かが霞のような霞ではない真顔で「ウラシマー君。」と挨拶してくるやいなや、追いかけてくる。それが二度三度だけではない。後ろは「どこに行くんだね。ウラシマー君。」だらけだ。
ただ俺はプロゲーマーの側面があるゲーム実況者。ゲームで慣れた逃走術を駆使してなんとかオッサン京子を巻いた。
気付けばそこはコンピューター室だった。誰もいない静かで埃っぽいのがどことなく温かい暗闇。
「なんだか落ち着けそうだ。全く、なんなんだあれは」
「ふふふ。さすが私の恋人ね」
「は?」
プロジェクターが深淵の目を開いた。眩しいそれが霞京子の黄金比たる輪郭の影を露わにした。
「あなたの推測通り。彼らはKASUMIが開発したこの、直径二ミリのマイクロチップで作動しているわ。普段は教師や生徒なのだけど、あなたを見つけるとこのパソコンを経由して私のスマホに映像が来るの。そしたら私がスイッチを押して、彼らを操作するのよ」
「そうか。だから俺の居場所がすぐわかったのか――いや、や、やはりそうだったのかーかーすみ君?」
「そうよ」なぜか嬉しそうに目を細めている。
人が恐怖するのは未知だからと誰かが言ったような気がする。それは違う。現にその仕組みがわかっても、いや、わかったほうが怖い。そこまでするかよ、ふつう。
いいや、でもこのカスミスから脱却する方法がわかった。なら良しとしよう。
「霞、俺が好きなのは嬉しいけどさ、関係の無い人にマイクロチップ埋めるのは非人道的だ。そうだろ?」
「関係者だよ? 契約したの。私のマイクロチップには膨大なデータと機能があるのよ。この直径二ミリはスマホに匹敵するほどよ。しかも直感的に操作できる。この新時代の人間機能を体験したい人は多かったわ。人間って新しいものが好きなんだ」
「なるほど。俺が間違ってた。なら人道的だ!」と言いつつ、俺はそのパソコンを釘バットで叩き割った。
よし。これで霞に俺の情報が行かない。カスミスは終わりだ。霞には悪いが――なんか微笑んでる。まるで母性の抱擁のように。
「でももういらないわ。ここ数日、浦嶋君の行動パターンを記録して関数を出したの。もうカスミスを使わなくてもどこにいるかわかるわ。これからもよろしくね。ウラシマー君。」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」
学校の八不思議。
なにこれw




