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気付けば美人配信者に囲まれてた  作者: 霜惣吹翠
4B.図書館の魔術師 vバナナ
81/83

なぜか学校一の美女が凡庸な俺を抱きしめて離さない。実は彼女がストーカーでした

 忌まわしきアラームが帰ってきた。けれども俺はもはや登録者数百二十人越えの大物ゲーム実況者。二度寝しても許される。


 「お兄ちゃん! 起きて!!」

 「あー久しぶりの布団滑空!」

 「今日は九月一日。わー学校だよっ!」

 「お兄ちゃんは数学が得意なんだよ。中学三年の受験を控えた我が妹に一つ教えてやろう」

 「な、なに?」なぜか焦っている。

 「俺は我が妹より一年先の世界を生きている。だから今日は月曜日であるが、その一年後は土曜日なんだ。だから俺は休める」すやぁー。

 「ふんふん……計算したけど火曜だよ。ほら、起きろー!」

 「うわぁー!!」


 目覚めると俺は真っ赤な液体に入っていて、うにゃうにゃしたのが体中にすっぽんのように貼られていた。それを剥がし辺りを見ると、底が見えない、辺りに人の入った容器が松ぼっくりのごとく並んでいて――


 「だから起きろって」

 「はい」


 朝食はカツ丼でした。九月一日に勝つぞという念であるが、母上、俺の胃は完敗しました。吐きそう。その青い顔のまま妹とエレベータを降りて、箒を振る質素な管理人に挨拶をして、妹に引っ張られるままに学校へ。

 その途中で天音と遭遇。俺は自慢げに言った。


 「いやぁ、天音、昨日の配信は――もぐっ」

 「私はカノンアマネじゃなくて渡里天音だよね?」

 「そうだった」

 「寝ぼけてるの?」ジト目JK。


 久々に見えた天音の制服姿は晴れ晴れしい。目が覚めた。

 そんなところに大野と茨田もやってきて信号を渡った。我が妹に手を振り、茨田にはべーっとしたから茨田が怒鳴り、いつもの日々が帰ってきたなと連なる朝を眺めた。紛れもない。俺の日常だ。


 ――と言えたらどうだろう。実際はマイケル〇ジャクソンの銅像がなくなってるし、すれ違う先生みんな見たことがない。体育館も新品のごとく真っ白になってる。廊下にゴミ一つ落ちてないし、いたであろう威勢のいい陽キャも男爵のようにキザになっている。

 俺たちは廊下迷宮を彷徨った。昼の肝試しのようだ。

 

 「なんかおかしくない?」茨田も気づいたようだ。

 「いつもの学校だよ!」天音はアホか?

 「そんなことよりおうどん食べたい」大野はアホだ。

 「全体的に綺麗になってるよな。うちの学校は治安の悪さで有名だったよな?」俺はソクラテス。

 「え、そうだっけ?」天音はそんな学校に私がいたわけないと傲慢な政治家。

 「そうよ。クリーンになってるわ。まぁこっちのほうがいいけど」茨田の意見に同意。しかし俺はさっきから悪寒がしていた。デジャブ。

 「そんなことよりおうどん食べたい」

 「お前は黙ってろ!」一斉。


 下駄箱や教室の場所は変わっていなかった。クリーンな空気に包まれながら俺たちは教室に辿り着いた。そこにあったのはおおよそいつもの一年A組だった。

 俺は懐かしい。そしてこれからお世話になる朝の日差し、靡いてうざったいカーテン、窓際角の席に鞄を置いた。変な感触がした。


 「あ、ぁのお、ここぉ、私の席でして」あれ、知らない美少女だけど陰湿がいる。

 「いや、ここ俺の席だろ」

 「理君、黒板見て」天音は黒板を指さした。


 黒板には『席替えしておいたよ♡』と書かれてる。ついでに俺と霞の相合傘とその上から俺の名前だけ斜線入れられてるのも。

 俺は自分の席に夢いっぱい詰め込める鞄を下ろした。


 「俺の席、教卓の前かよ」

 「そうよ。おはよう。理さん」

 「ああ、おはよう――ん?」

 「ふふっ」


 声だけで分かるだろう。霞京子が隣りで微笑んでいた。悪寒が凍土に到達した。俺の脳細胞はことの筋を発現させた。それでいて俺は拒絶した。こんなの嘘だ。

 と思ったら霞が赤い薬と青い薬を出してきた。


 「赤は現実に抗ってキスしまくるの。青は現実を直視してキスしまくるの」

 「どっちも一緒やないかーい!」違法ドラックダメ、絶対。俺は両方とも弾き飛ばした。

 「酷いわ。でもそういう強引なところも好きよ」

 「うぐっ」あの顔で好きとか言われると腰が――!


 男子高校生諸君ならわかるだろう。男はふいとしたとき腰を折る。こんなときはよく折る。女子諸君はこれを純粋な男の子が折り紙で遊んでいると思って可愛がるか、放っておいてほしい。ともかく男はこういうとき椅子に座りたくなる。男は折り紙を折りたくないのだ。

 しかしそこには鶴のような霞京子がいる。神の折った完全美の鶴がいる。色は火照った赤、半透明の赤。風のように俺を惹きつけ、泥のように俺を飲みこむ。この夏休みの激闘がそれゆえの拒絶も、彼女の美に飲まれる。消し飛んでしまう……。


 「では出席を取ります。浦嶋君」

 「はい(イケボ)」


 ニコニコして霞が俺に抱き着いている。それゆえに後ろから色々飛んできて、ちょうど今煉瓦が俺の頭を抉ったが、耐えるも美。醜い嫉妬に振り向く訳無いのだ。

 俺は黙して耐えた。そこにひょろり。ピンク色のデンジャラスなパンティーが舞い降りたとき、俺の正義は爆発した。


 「誰だ! これは誰だ! 俺は理だ! これは許せん。俺には霞がいるのに、これは許せん。あとで名乗り出ろ! 二人でじっくり話し合おう!」

 「あーそれ遠藤だぜ」陽キャ。

 「遠藤? 遠藤ぉおおおおおおおおおお!」


 ぽつん。ぼとん。鼻の下の黒子のことだ。そして四角い眼鏡に則夫って感じのオタク顔。


 「則夫じゃねええええええええかあああああああああああああああ!!!」

 「よくやった則夫!」クラスの男子は則夫を讃えた。


 則夫は泣いた。普段から履いていた性癖を男子の希望の為に投げたのだ。彼を笑う者がどこに居るのか。憎むものならここにいるが。しかしその精神は俺も讃えたい。ちょっとだけ催眠が解けた。

 一方で外野の女子二人は。


 「あーつまんねー。美人だからってさ。美人なだけじゃん。たしかに美人だけど」茨田はむすっと頬杖していた。

 「理君が霞さんの隣に居ると私の株が下がるからどうにかして理君を穢さないと」天音はやりそうな顔をしていた。

 「え?」


 俺は好き好んでこうなったわけじゃない。俺だってあっちの人目につかないゲームし放題、眠り放題の領域に戻りたい。だのに霞がとにかくくっ付いてきて堪らなかった。

 たとえば一限の数学。また知らん幼女がメシメシと俺を棒で突いて煽ってくるし、わからないとわからないで霞が教えてくれるけど、なんかこの幼女、軽蔑したような怖い顔するし。二限の歴史も、ラテン系の美女が「これは実際に古代ローマで着られていた服で~」って男子を誘惑して、俺も例に漏れずすれば、重機のごとく右腕が重たくなった。無言の執念が俺を気絶させた。

 授業だけじゃない。休み時間もトイレに行くだけでもついてくるし、昼休みも大野と食堂行くにもついてくる。同席していた陽キャが毛を逆立たせた。


 「おい。てめぇ、俺たちの女神に何してやがるぅ?」

 「陽キャ君。彼は私の大事な人よ」霞はウインクした。

 「ふぎゅぁああああああああああああ!」鼻血と吐血しながらぶっ飛んだ。元気だな陽キャって。


 ラノベのタイトル風に言うとこうだ。ありきたりだ。『なぜか学校一の美女が凡庸な俺を抱きしめて離さない。実は彼女がストーカーでした』という感じ。

 実際はこうだ。『この超絶美女が俺のこと好きすぎて、学校中の男子が俺を殺しに来る! 助けてください!!(ほんともうガチで)』。

 俺は大野を屋上に呼んだ。

 

 「霞といるときは岩や煉瓦、画鋲やボーリングの玉を投げられるくらいで大丈夫だけど。一人になると短刀、鍵爪、釘バット、催涙ガス。もう何でもありだ。助けて、キンタもん!」

 「キンタもんって一文字変えるとダメだから結構危ないよね」

 「そんなのどうでもいい」

 

 茨田もやってきた。


 「そうよね。霞って迷惑なだけ。理わかってんじゃん」

 「でもたまに胸をすりすりって」俺が頭から血を流すと上目遣いで。

 「助けようと思ったけど、死んだ方がいいかも」

 「おいちょ待てよ」


 さらに天音もやってきた。なんか泣いてる。


 「たしかに私って霞さんよりは可愛くないよ。でもクラスで三番目自信があったんだ。なのにあんなにイチャイチャされると、私が理君にフラれたって噂する人もいるんだ。あはは」

 「天音。落ち着け。今日だって俺は天音を部屋に連れ込むだろ」

 「なんか嫌だ」

 「言い方」茨田は呆れたような怒ったような声色をした。

 「わかった。天音。落ち着け。霞よりふつうにゲームが好き」

 「ワタシジャアナイ」天音はモアイ象になったよ。

 「あと天音は三じゃなくて四番目だ」

 「えっ」天音は石化した。ストーンヘンジ。


 ともかく俺たちは夕焼けの屋上で作戦会議をした。若干秘密の組織って雰囲気で楽しくなってきた。


 「じゃあ僕が監視やるよ」

 「じゃああたしも監視やる」

 「じゃ、じゃあ私もやろうかな?」

 「どうぞどうぞ」

 「はい、天音が霞の監視ね」

 

 定番の流れ。天音も目を><な感じにして「あーやられたー!」と、俺たちは盛り上がっていた。色々あって役割ができた。。霞を監視する、監視役。それに合わせて浦嶋理の逃走ルートを決める監督役。それから男子を引き付ける護衛役。

 

 「ちょっと待ってよ。もう一つ、いざってときのための理救出役がいるよ」

 「それだったら私がやるよ」

 「ちょっと、天音は監視でしょ」

 「二つやればいいよ。それとも理がやるの?」

 「それ見捨てられてるだけなんだが」

 「監視なら私がやるわ。それに護衛もやるわ」

 「ちょっと。だったら僕は何をすればいいのさ」


 「ただ。座っていればいいの」

 「――ん?」


 凍てついた足音と優しく温かい声の主は霞京子だった。どうしてここに。俺はたしかに撒いたはず。


 「よし、全員配置について!」茨田は監督した。

 「もぐっ!」大野が俺の視界を埋めた。あ、食べてないです、前に立っただけ。

 「じーっ」天音は監視した。


 霞は小さく微笑んだ。スキップするようにこっちに来て大野の隣りに並ぶと天音と一緒に「じーっ」と夕焼けを観察した。なんなのこの時間。

 ともかく浦嶋防衛軍は失敗した。この後、どう会議しても霞がやってきた。考えたくはないが、どうやら俺は霞に監視されているらしい。でも学校にいる間だ。多分。

 このおかげか、次第に男子の襲撃は減った。というのは学校にいる間、つねに霞が俺の隣に居るからだ。あと霞が特製のヘルメットをくれた。バナナみたいな帽子。被れば何も怖くなくなった。でもどうしてだろう。これ被るとムラムラする、、気がする。

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