デバッカー?(1)~バグだよ!!!~
窓ガラスにくっ付くセミを叩く。するとあれはバチバチと羽を鳴らしてどこかへ飛んで行った。ここいらには木が少ないから今度は別のビルに着くのだろう。コーヒーの入った紙コップで休憩時間を揺らし、僕はまた一人ぼっちのデスクへ、パソコンと睨めっこする。
「あ、メールだ。『間違えて逆方向の電車に乗ってしまったので遅れます』 まぁ初めての町だろうし仕方ないか」
空を流る雲はゆっくりで、冷房の息が隠れない一室は静かで、気持ちが落ち着く。まるで今日が日曜日じゃないみたいだ。今月二度目の休日出勤、そんなわけが――またセミがついた――そんな馬鹿な。僕は腹いせに冷房の温度を15度にした。さすがに寒い。
「いかんいかん。しっかりせねば」
今日はバイトの高校生が来るんだ。高校生相手にこんなみっともない態度では威厳が損なわれる。ここは大人らしく冷静に仕事しよう。そう言って僕は冷房の温度を元に戻した。
ソファには自信満々の女子高校生とその子をじーっと睨む男子高校生が座っている。僕は彼女らにコーヒーとオレンジジュースを置いて対面して座る。「あ、どうも」と男の子がコーヒーを取ろうとすると隣りの子は「それ私の」とニコニコして言う。男の子はまた彼女に疑問を込めてじーっと見てたが、女の子は構わずコーヒーを取り上げた。そのまま女の子はコーヒーをごくごくとまるで打ち上げでビールを飲むように喉へ通すが、すぐに顔を青くなって口に入れたコーヒーで口が膨らんだ。
「だからオレンジジュース頼んでおいたのに」
「の、飲めるし! 飲めたし……」
「口、茶色いぞ」
「! ハンカチハンカチ……」
なぜ見栄を張ろうとしたのか。男の子の顔にも僕の顔にもそう書いてあるだろう。けどもこう少し天然なところがある子なのかなと、少し日曜日が柔らかく感じた。
「さて、では渡里天音さん、浦嶋理君、改めて――前々から自社のゲームにバグ報告してくれてるのって君たちだよね。いつも助かってるよ! わっはっは!」
一週間に二度三度いや多いときは四度、自社製品であるシュラハトというオンラインFPSゲームのバグを発見しては報告してくれているのがこの渡里天音さんと浦嶋理君。実に良くやり込んでくれていると僕は社員として彼女らを歓迎した。歓迎したのだが、僕の本心としてはよくそんなバグ見つけたなと驚き、また無視するわけにもいかないので颯爽にバグ改善に取り組むしかなく、仕事がまぁまぁまぁまぁ増えている上に上司に怒られるので、ので、精一杯笑う。
そんな気持ちを察したのか天音さんに苦笑いさせてしまったみたいだ。一方で理君は何故か笑い堪えているが、これは便乗して笑ってくれているのか。なるほど、もうちょっと笑っておかないと胃が痛くなりそうだ。としようとしたらまた何故か理君の顔が天音さんに掴まれていた。
「天音、痛い痛い」
「なんで笑ってるのかなぁ?」
「痛い痛い、潰れる! 潰れる! この前の俺のコントローラーみたいに!」
「何のことかよくわかんないなぁ?」
「いやマジで」
ま、まぁさっき潰した紙コップくらいに理君の顔がへこんでいる気もしなくもないが、これも青春という事で僕はさらに痛くなりそうな胃にさっきまで出かかっていた笑いを、すでに出てしまった笑い声をかき集めるくらいに、それを戻すくらいに引っ込めた。必死に空気を仰いで過去の笑いを、彼女らの出すバグのペースよりも早く集める。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「理君、なんで笑ってたかもう一回教えて」
「昨日見た配信が面白かったからです」
「よろしい」
天音さんは頷いてそう言った後、キビキビと理君のへこんだ顔を治し始めた。なんなんだ、この二人、少し怖くなってきた。最近の女子高校生ってこんなに力があるものなのか。十年くらいで時代ってそんなに進むものなのか。ニコニコして作業を進める天音さんから身を隠すように僕は彼女らのエントリーシートを確認する。
『この生命体は惑星キャロットの生き残りのニン人……とてつもない力があるため刺激しないように』って違う、こんな書類知らん。新入社員が間違えて企画書を入れてしまったのか。えっとこれだ『渡里天音、16歳、11月24日生まれ、A型。高名高等学校一年A組。趣味は歌、読書……』なるほど普通の女子高校生だ。理君のほうは『浦嶋理、16歳、3月30日生まれ、A型。高名高等学校一年A組。趣味はゲーム……』そうか、普通の男子高校生だ。いや、男の子のほうは別に変じゃなかったけど。
「あ、あの?」
「あ、すいません。君たち同じクラスなんだ、そこで出会ったの?」
「は、はい。私が理君にゲーム教えてって」
「あーそうだ、天音に話しかけられたあの日から悪夢が始まったんだ」
「悪夢、悪夢ですか?」
「あくむぅ?????」
「悪夢。あれからほぼ毎日無理やり教えることになって、もう大変だ」
「あ、バグもそのときに……毎日、一緒にいるって仲がいいですね」
「別にそんなんじゃ……毎日って土日関係なく一緒ってことなんだ、ゲームの時間が!」
「へー二人、ってことは付き合って――」
「いや、俺!」
「私!」
「「付き合ってないです!」」
「毎日俺の部屋で色々してるだけです!!」
「え?」
「ん?」
「あれ?」
「理君???」
天音さんは般若の形相で理君をポカポカし始めた。あまりに大きすぎる北斗七星が理君の胸から腹にかけて刻まれているところからしてポカポカではなくボカボカ、いやボコボコにしているのか。これも照れ隠しなのか、理君の表情に答えがある気もするが、僕は確認しない。
色々か。色々ってゲームとか読書とかだと思うけど、付き合ってないし、いやでも今の高校生って別に付き合ってなくてもそういうのしちゃうのか? 何それ怖い。僕は改めて現実逃避の為にエントリーシートに顔を埋めた。
『FBIなどがこの力に気付く前に日本としてもなんとかしなければ……』ってまた誰かの企画書か。一体誰のだ。
「あ、あの?」
「あ、すいません。えっと、君たち高名出身なんだ。あそこの魚美味しいよね。僕もたまに食べるよ、天ぷらが僕好きなんだよね」
「あ、ちょうど昨日食べました! 天ぷら美味しいですよね」
「俺のエビが……」
「ん? 理君、どうしました?」
「いや、ナンデモナイデス。ハイメハケス。昨日はエビの天ぷら食べられなかったなって」
「あ、二人とも同じものを、あ、昨日二人でデート、ああ、やっぱりカップルだったんですか」
「いや、私!」
「俺!」
「「付き合ってないです!」」
「昨日も俺の家で晩御飯一緒に食べただけです!!」
「え?」
「ん?」
「あれ?」
「理君???」
天音さんは真蛇のような人を食い殺すような形相をして理君を蹴り飛ばした。弾丸のように理君は鋭く宙を掛けると容易く窓ガラスを割って、また窓ガラスを割って隣のビルの床に転がった。これも青春の色という事で、とりあえずは説明がつくだろうか、隣りのお偉いがたに。あ、割れたとこからセミが入ってきた。
晩御飯一緒、昨日もか。高校生でこの二人、同棲している? だったらさっきのも納得、え、でもやっぱり付き合ってない? 付き合ってないのに同棲までしてる。嘘だろ今の高校生!? まるでそんなのラブコメ、いや18禁ゲーじゃないか!!
「けしからん! 18禁ゲーのバグ修正ならいくらでもやるぞ、僕は!!」
「あ、あの……」
「あ、いや、これは、すいません――じゃ、じゃあ二人にはこれから自社の新作ゲームをプレイしていただいてバグを見つけてもらいます。そこのデスクへどうぞ」
だいぶ酷い有様になってしまったが、話を戻すと、ほぼ毎日バグの報告をしてくる高校生プレイヤーにバグの発見をしてもらおうということだ。あの尋常じゃないペースでバグを見つけてくれるのだからこれに頼るほかはない。元々僕の仕事でもあるっていうのは秘密だけど、むしろ手伝わない方が早く見つかるという事にしておこう……これでサボれるぜ。
PCの画面には天音さんの少し幼げな丸い顔が反射して覗かせていた。その目が自身の後ろでゲームキャラのフィギュアをじーっと眺めている理君へ向かうと「遊んでないで!」と怒って振り向く彼女が映った。
「あ、そ、そうだった」
「いえ、別にいいですよ。理君はペロにゃんが好きなんですか?」
「いや、俺じゃなくて天音が。俺はこの、ヴィクトリアが好きです」
「理君はこういうお姉さんが好きなんですね」
男同士ヴィクトリアの堪らないポイントを熱弁、ごほん、単なる世間話をしていたところ天音さんに「ペロにゃんのほうが強いし」とよくわからない怒られ方をされたので、ここは僕達は男らしくヴィクトリアに別れを告げて仕事に戻った。
「じゃあ、天音さん。そこに電源ボタンあるからつけてもらって」
「は、はい――あ、あれ、あれぇ??」
「ああ、天音、やったか」
ポチッとPCの電源を押しても真っ暗なままの画面に天音さんは目を渦のようにして呂律が回らなくなり、理君はそれに呆れた様子で首を振る。すると天音さんはさらに焦って電源ボタンを連打し始めた。もしかして、壊してしまったと焦っているのだろうか。立ち上がるまでにちょっと時間がかかるだけなのに。きっと天音さんはPC初心者なのだろう。と大人の視点で彼女を見ていたら、連打する彼女の指が一本、二本、三本? 違う、残像だ。とてつもなく速く押しているのに気づいてゾッとした。
「起動に時間かかるだけだから! 連打やめて!」
「は、はい!!」
天音さんはまるで何かの電気工具のように振動する人差し指を振動したままに天井に向けた。まもなくしてPCの画面が点くとその振動は治まった。初めてのバイトで緊張してるだけ、、だろうけど、にしてはちょっと怖い子だ。
「天音が弄っても壊れないなんて丈夫なPCだな」
「それどういう意味?」
「そりゃ、このPCは三百万円するから――」
「ほぎょっ!?」
天音さんは首を絞められた魚のような顔をして驚くと、そのあまりにピチピチとマウスを跳ねさせた。それを見て理君がだんだんと真っ青になって、天音さんの肩を掴んで落ち着かせようとするも、なんらかの作用で天井まで飛んで釘のように刺さった。ぶらぶらとする理君の体は、風鈴にしては騒がしすぎた。
「天音さん、大丈夫?」
「はっ! む、む、武者震いです!」
滝のように汗を出しながら言われても信用できない。この子、ほんとにPC壊さないよね? そう密かに疑問を抱きながらも僕は大人らしく天音さんに「まずは落ち着いて」とその肩を叩いて励まそうとするも理君の残像が頭を過って言葉だけにしておいた。
「あ、ファンタジーブレイド」
天井から着地した理君は、関心ありげに画面に大きく出てきた文字を読んだ。ゲームに詳しい理君はこのゲームがなんなのかを知っているのだろう。
「幻想的剣!」
何故か天音さんは中国の安っぽいゲームみたいに訳したが、あまり悪く言うと上司に怒られそうなのでスルーした。元々安っぽいタイトルだって? 僕が考えたわけじゃないので知らん。
「社員さん、ベータ版ですよね? 遊んじゃってもいいんですか!」
「まぁバグを見つけてもらう為だからだけど、せっかく来てくれたんだし遊びながらでもいいよ」
「えっと、ベータ版ってなに?」
「発売前のゲームってことだ。俺たちだけに特別にやらせてもらえるってことだぞ! しかもファンタジーブレイドはPV公開からかなり人気で……とにかく特別ってことだ!!」
「私たちだけ!! 幻想的剣!!」
やっと正常な高校生に見えてきた。そうだよ、窓ガラス突き破ったり天井に穴開けたりじゃなくてこういう新鮮なリアクションが僕は見たかったんだ……修理費、どうしよう。まぁいいか。
「じゃあそのままゲーム開始しちゃって」
「はい! わかりました!」
大きなオフィスチェアに天音さんの頭が少しだけゆらゆらとはみ出る。ワクワクする眼差しがロードで暗転する画面に反射して映っている。そして僕のドヤ顔も。これはいらん。
「あ、あれ? ロード終んない あれぇ? なんでぇ?」
「あーあ」
「あ、あれれぇ??」
ロードに硬直した画面とは裏腹にあの期待の眼差しは渦巻き模様に変わった。天音さんはアワアワとどこを押したらいいんだと電動機具の両手人差し指をPCの周りで振り回し、理君はその手をどうにかして止めようとしてたらしいが、気付けば床にもぐらたたきのように埋まっていた。なにをそんな焦っているのか。僕は冷静に言った。
「まだロードに時間かかるだけだから」
「あ、ほんとだ。よかった~」
胸を撫で下ろして天音さんが落ち着いたところで、僕はいろいろとゲームの説明をする。特に操作説明はちゃんとしておいたほうがよさそうだ。
「……っていうことでAボタンが攻撃でBボタンが防御だから」
「え、Aボタン押したのに盾構えました」
「……あれ?」
「Bボタン押したら一発ギャグしてます」
あれ、一発ギャグなんて要素入れたっけ。プログラマー、勝手に隠し要素入れたのか。あとゲッツはさすがに古い。今の子、わかんないよ。
「社員さん」
「ん? 理君、どうしました?」
「コントローラー貸してください」
「あ、はい」
あれ、治った? おかしいな。ちゃんとAボタンで攻撃、Bボタンで防御してる。でもなぜかXボタンでチキショーするのだが。これも今の子、わかんないよ。
「社員さん、天音がやると忙しくなるんで、俺がやります」
「そう、なのかな?」
「とりあえずで」
「そ、そう。僕は構わないけど」
天音さんがプンプンと頬を膨らまして睨んできてる。そんなにこのゲームをやりたがってくれるのは嬉しいけど、理君のほうがゲームがうまいようだし、一連の流れを見てもらった方が天音さんもやりやすいかもしれないな。よし、
「じゃあ先に理君がプレイするってことで」
「……いいでしょう」
「よし、早くやりたかったんだよなぁ~。ほら、天音退いてくれ」
「…………いいでしょう!!!」
さらに天音さんが怒った。ちょっと半泣きなのはなぜ。
ファンタジーブレイド。ジャンルはファンタジーバトルロワイヤル。剣と魔法の世界でプレイヤー同士が己の勝利を目指して争う、画期的なゲームだ。こんな面白いゲームを考えられるなんて、さすが自社! キャー!
「あれ、これって聖杯戦争じゃね」
「何か言ったかい、理君?」
「いや、なんでもないです」
これだから勘のいいガキは嫌いだよ。
理君は僕の説明通りにゲームをプレイ、オンライン対戦へ移行。このゲームをプレイできるのは理君らだけじゃないのかって目を天音さんにされているが、実はこのベータ版はすでに様々なプレイヤーにやってもらっている。だからそんなに特別ってわけじゃ――――
「それでも日本で百人だけですから!」
「ならいいか」
本当は嘘である。オンラインで百人とか無理。全然もっと多くいます。
「ん? 妙だな」
「理君」
「はい」
「時には嘘も必要だよ」
「……はい」
ゲームの内容は先程の通り、剣と魔法の世界でプレイヤー同士がバトルロワイヤルをする。プレイヤーは騎士や戦士、魔術師から祈祷師など。沢山のキャラから一人選んで戦う。モードは一人と四人一組のチーム戦があり、今理君がプレイしているのは一人用モードだ。
剣と盾、鎧をつけた麗しきお姉さんが画面に映っている。この鎧からちょくちょく見える横乳が、ごほん、理君は騎士(女)を選んだようだ。良い趣味をしている。
「なんで騎士なの?」
「そりゃあ、この横乳……やっぱ騎士ってカッコいいから! あとなんか魔法使いとか不具合ありそうだから!」
「そうなんだ?」
天音さんにじーっと疑惑の目を向けられながら、苦し紛れに魔術師や祈祷師の使う魔法は大体弱いだとか調整不足な傾向があるとか、逆に強すぎてゲーム性を損なうだとか、あくまで苦し紛れに言う。何故か僕はちょっとだけ傷ついた。
「えーっと50人いるのか」
「はい。自分合わせて50人です。だから自分以外の49人を倒せば勝ちですね」
「そうか、たったのそれだけか」
理君は自信満々な様子。ゲームが趣味だと言っていたが、相当にやり込んでいるのか。このゲームをやるのは初めてなのに、このサラダにウスターソースかけ過ぎたようなしつこいドヤ顔。開発者の一人として僕はこの一戦を見届けなければならない、そう思わせてくる。
「社員さん、別にアレを全て倒してしまったも構わんのだろう?」
「……あ」
理君がそう言ったすぐ二分後。画面にはフィールドを走り回る女騎士の姿が映る――別のプレイヤーの。やはり理君は完敗、魔術師の弾幕にやられ、観戦者モードになった。
あんなにあった自信も、今、理君の顔にあるのはゲッソリとした梅干しみたいな表情のみ。一方でその後ろでそれはそれは嬉しそうにニヤニヤしている子がいた。
「ソウカ、タッタノソレダケカ~ベツニアレヲスベテタオシテシマッテモカマワンノダロ~!」
天音さんはホントにすっごい嬉しそう。理君の顔が萎むたびに笑みの光量が増していく。なんだかよくわからない関係だ。
「理君、まぁ始めてのプレイだったし、そんな落ち込まなくても」
「そ、そうですよね」
「うん、今度は別のキャラ使ってみてもいいですし、魔術師とか」
「そうですね。それもいいかも」
「そうですよ。ほら頑張って」
「よ、よし、今度こそは!」
「オ、チョウドイイマジュツシガイルジャネーカ~!」
「うわあ……」
「コンナガキノマジュツシナラオレデモヤレルゼ~!!」
「うわああああああああああああああああああああああ!!!」
あー、これは重症だ。そういえばそんなことも言ってたような。こうやって初見なのにイキるのも男子高校生ならではの青春なのかな。天音さんはすっごくニヤニヤしてるけど。
少しばかり理君も落ち着いてきたようで「次は勝つ」と真剣な面持ちになった。たかがゲームとは言われるが、こう熱い思いがあるのを目の当たりにするとちょっとこっちも感動する。ベータ版だけど作ってよかったなと。理君は再び騎士を選んでゲームを開始する。
「よし! まずは一人!」
「え?」
建物に隠れていた騎士を背後からキル。冷静に仕留めた理君と、なぜかそれに疑問符を投げる天音さん。
「オラオラ! よし!! 二人目!」
「ええ?」
乱戦していたプレイヤーの、その勝者に奇襲。すなわち漁夫の利でキル。賢い戦法でキル数を重ねる理君と、またしても疑問符を浮かべる天音さん。
「マジか、まだいたのか! なら仕方ない! オラオラ! よし!」
「ぬ?」
漁夫の利を狙っていたのは理君だけではなかったようだ。さらに奇襲をかけてこようとした戦士と真っ向勝負の末、勝利。これで三人目。正面対決でもキルができて一層喜ぶ理君と、一層大きな疑問符を浮かべる天音さん。
その後も理君は堅実に、時に強引に、時に運ありきで生き残っていく。そしてニ十分経過したころ、残り三人にまで到達した。
「よし、あと二人だ。慎重にここは物陰に隠れて機を待つ」
「……」
緊張した戦況にコントローラーを震わせる理君と、その様子に不信を募らせ無言で見守る天音さん。開発者として正直勝敗はどうでもいいが、バグのせいで勝ち負けが決まるなんてことは起きないでほしいと、節に怯え願う僕。ここでバグが起こればベータ版とはいえ、ゲームの評価が下がりそうで怖い。
残りは三人。理君の騎士、トト音という名の魔術師、ああああという名の祈祷師。両者は互いに物陰に隠れて睨みあっていた。が、戦況は突然動く。範囲縮小――時間経過とともにプレイヤーの生存できるフィールドが狭まるシステム――が発動すると、トト音が安全地帯へ走り出した。そこに物陰はない。丸裸である。そこをああああが好機とみなし、祈祷の魔法による遠距離攻撃をしかける――が、その攻撃があたる前にトト音は消えた。魔術による分身だったのだ。
「今しかない!」
理君は何かを察知し、物陰から飛び出し、ああああの後へ走る。一方、ああああは自らに防御の祈祷をかけようとするが――遅かった。その背後に回り込んでいたトト音が魔術の弾幕でああああを攻撃、祈祷は間に合わずああああはキルされる。残るは二人、トト音はその物陰に身を隠し理君を狙おうと身構える――
「オラオラ!!」
すでにその背後を理君はいた。騎士の剣が魔術師の背中を切り裂き、勝負あり――画面に大きく”勝者、昨日のてんぷら返せ!!” と表示された。理君のユーザーネームです。
「やった! 勝ったぞ!!」
理君はコロンビア万歳して勝利を噛みしめる。喜びを謳歌する。二度目にして優勝まで行くとは、理君なかなかやる。あとバグ出なくてよかった。
意味不明なロックを下手くそに歌う理君とその横で僕がホッと安心する一方で、一人だけ不機嫌に顔を顰める子がいた。
「社員さん、バグありました」
「ええ!!!」
どこかのマスオさんもびっくりな裏声を出してしまった。あったのか、見逃していたのか。吉野家の牛丼よりもだくだくな汗を拭き、僕は冷静に聞いた。
「どこにありました?」
「理君です」
「え?」
「二回目で優勝できるなんてバグだよ!!!」
天音さんは天井も吹き飛ばす迫力でそう訴えた。緊急回避派の僕も思わず腰を抜かした。こんなに叫ばれたのに理君はまだまだ構わず汚い鼻歌に自己賛美を乗せている。高級耳栓も千切れるくらいの歌なのでどちらにせよ無意味だったろう。
「天音さん、僕は横で見てたけどバグなんてありませんでしたよ」
「ありました!」
「えっと、どんな?」
「二回目で優勝できたこと」
「具体的には?」
「二回目で優勝できたこと!! バグだよ!!!」
またしても天音さんの咆哮を浴び、今度は隣りのエリア(廊下まで)吹き飛ばされた。さすがの威力だったので理君も飛ばされたようで、向こうのビルまで行ったようだ。
「バグじゃなかったら不正です」
天音さんは頬を膨らまして抗議する。どうしても理君の優勝に納得いかないらしい。確かに二度目で優勝だなんて僕もそんな簡単に難易度設定した覚えはないが、まさか魔術師と祈祷師が弱いみたいな、そんな風に……そんな風に? あははは。
「わかりました。騎士弱体化します」
「それでよろしい」
ふん、とやっと満足してくれた。よし、これでいっか。
「よくねえよ!! クソ運営!!」
理君の、真摯なユーザーの意見に、またしても僕は廊下まで吹き飛ばされた。これが大人の世界。ああ、好き勝手出来た高校時代が懐かしい。現実逃避に走馬灯を混ぜこませる。
――あとがき――
先日からどう書いたらいいのかと自問自答してたり調べてたのですが、今の書き方もそれ程特殊でもないと気づいて、ならこのまま続けてみようと気持ち返りました(特殊)




