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思い返せば君の青春にも女の子の指を咥えるべき場面だってあっただろ?

荒ぶった銃声がほとばしる。

耳を塞ぐ前にそれを鋭く尖った弾丸は射抜く。

「うおおおお!」

「なんだ今の!?」

長方形の黒い枠は白い。でもただ白いわけではなく、目にも止まらぬ速さで走る文字があった。

コントローラーを握り、隙を見てチラチラと枠を見る。そしてほくそ笑む。

「いや、あれは普通だろ」

視界の端に写ったそれに二度見。

その殺意はゲーム画面から甲走る銃声に変わった。

「落下しながら二人キルするだと!?」

「は?」

「simaのプレイ上手すぎだろ」

バトルロワイヤル、残り五人。

草原にある木や岩、車とマンションなどの物陰。そこに隠れる何人かが視界に入る。

「いけよ!」

「そこいるぞ!」

「ビビってんのか?」

コントローラーを置き、優雅に手を組んで流れる赤いコメントを眺める。

向こうで戦っていた二人は両方ともキルされたようだ。

「さすがsima」

「っち」

その舌打ちが透き通って響き渡るほど戦場は静寂になっていた。

残りは三人。

草原の真ん中にある岩の後ろに一人。もう一人はそこから離れた、ポツンとある木の陰。

俺は移動して車に身を隠した。

これによって三人はそれぞれ三角形の頂点にいる配置になった。

「いけよ!」

「これは勝てるか?」

「チキン!」

ここから二人とも狙うことはできるが、それはあっちも同じ。

だから狙って頭を出したところを狙い合っている。

「はよ」

「ここが見せ場」

「突撃しかないだろ」

仕掛けるのを待っているが、どっちも来ないな。我慢比べってところか。

でもそうじゃない。

「本当に比べるべきなのは―銃の精度だろ」

俺は木の陰にいる方を狙い、車から離れた。

それに反応して、敵も木から出てきた。その銃口がこちらへ向けられる。

だが遅い―すでに俺は撃っている。

「おお!」

「さすが!」

「sima!」

HeadShotという文字がゲーム画面に映った。

後は一人、岩陰にいる奴だけだ。

俺は何もない平原を走り出した。

「うおおおお!」

「突撃だあああああああ!」

「simaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

敵は半身を出して突っ走る俺を狙う。

でもそれは当たらない。

俺はその射線を敵が隠れる岩で遮る、岩に隠れられるのはお前だけじゃない。

「いけいけ!」

「あと少しだ!」

敵はそれを崩そうと揺ら揺らと横に移動、それに合わせて俺も移動しながら走る。

そして射程距離に入った。互いに銃を持ち替える。

「くるぞ!」

「一騎打ち!」

「simaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

無防備に敵はアサルトライフルを俺に向け、乱発する。

岩陰に滑り込み、弾丸は地面に穴が開いた。

十三発。敵の残弾だ。

リロードする隙は与えない、俺はすぐに飛び出して敵を狙う。

「終わりだ」

ショットガン。狙いを合わせ、ボタンを押した。

散乱する弾は五つ。どれも真っすぐ目の前の敵に向かって行く。

これは外れない。手汗を握ってその瞬間を待つ。

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「まじか」

大量の白いコメントが目にも止まらない速さで流れていく。

我ながら良いプレイだった。

「やったぜ。」

赤いコメントが一つ。

目立ったそれが目にぶつかり、俺はゲーム画面に目を戻した。

”UYI-landmines”画面には敗北を示す大きな文字。

「地雷?」

弾丸が当たる前に地雷でキルされたと説明している。

そんな馬鹿な。

「これは初歩的なミス」

「普通気づくだろ」

「ばーか」

煽りの言葉に俺はぐうの音も出ない。

それは別に奴らの言っていることが正しいと納得したからではない。

むしろ納得いかなかったから、驚き困惑しているためだ。

「珍しい」

「天才もミスをするから」

「猿も木から落ちたね」

ありえない。いつも何時間もやっているゲームだ。

こんなミスで負けるだなんてどうかしている。

一体なんでだ。

「女の子とでも考えてたんだろ」

すらりと流れた白い文字。

同時に脳裏を過ったある女のあざ笑う顔。

「そういうことか……くそ」

あの女のせいで、俺の巧みで唯一無二なゲームの腕が落ちているのか。

震える握り拳を空に振らせた。


昼休みの教室。

温かい日光が差し込み、そよ風が入ってくる。

心地の良いこの空間の中、ほとんどの生徒たちは静まっていた。

「……」

「やめてよ!」

だがそれは吹き荒れる甲高い声がそうさせていたのだ。和やかな気候のせいではない。

天音へ強引に迫る理の姿、その様子に、口をポカンと開けて唖然としているのである。

「ちょっとやめてってば!」

「いや、やめないぞ!」

真剣な顔つきで天音の両肩を掴んでいる理。

一方で大声を上げ、必死に抗う天音。

「あいつらって付き合ってたのか?」

「それとも理が馬鹿だから?」

「いやそんな話、天音から聞いてないけど。金ちゃん聞いてる?」

「もぐもぐ……まぁ無理やり家に入ってきたからね」

平気な顔でポテチを食べながら大野金太郎はそう言った。

だからそれを聞いたクラスメイトも軽く頷いていた。

「って、ええええええええええええええええええええええええええ!?」

すぐにその証言に気づき、教室には驚きの声が強く反響した。

「ちょっと、放してよ!」

「いや、それはできない」

「なんで、やめてって!」

「これはお前がやれって言ったんだろ!」

「そんなこと言ってない!」

理は天音の左手を強引に掴んだ。

半泣きになりながら天音は理を見つめる。

「よし、やるぞ……」

「ひどい……」

天音の左手の人差し指。血が出ている。

俺はこれを止めなければならない。

なぜなら俺は天音の奴隷になったからだ。

もしこれをしなければ、天音は俺がsimaだと言いふらすに違いない。

だからやるしかないんだ。

唾液で舐めて止める。

「いくぞ!」

「え、ええ……」

理は天音の震えている人差し指に決意じみた顔を近づけていく。

周りのクラスメイトはその様子をまじまじと観ている。

天音は顔を逸らし目を閉じた。

「やっぱり無理!」

「うぼぇ!?」

ビンタをされた理は頭から吹っ飛ばされ、窓のほうへ。

校舎の上、飛行機が青い空を進んでいた。

「もぶ!?」

「た、たすかった」

運よく、大野のお腹にぶつかった。

弾みのある腹はクッションとなって衝撃を吸収した。

「全然、運良くないだろ……」

「あ、ごめん」

緑のアイスクリームが理の髪にくっ付いている。

それに天音は指を刺して大笑い、クラスメイトらは苦笑いをした。


本当に散々な目だ。

廊下の水道の蛇口を上に向け、捻って頭を洗う。

全然アイスが落ちない。

「理、天音ちゃんと付き合ってるのかい?」

「そんなわけな―ぶふぉ!?」

勢いある水が頬を殴り上げた。すぐに止める。

「あれ、違うの?」

「違う」

「じゃあなんで指舐めるの? 普通に気持ち悪いよ?」

まさか大野に貶されるとは思わなかった。

「いや、舐めれば治るかもしれないだろ」

「それは民間療法だよ。治るわけないじゃん」

そうだったのか。

知らなかったぞ、それ。

「おい、昨日のsimaの配信見た?」

「ああ見た見た。見事に負けたよな」

「あれはあれで面白いよな」

「ああ、そうだな」

笑い声が廊下を通り過ぎていった。

ふざけるな。あれのどこが笑えるんだ。

「ちょっと言い過ぎたよ。これ食べるかい?」

りんご飴。どこで売ってたんだよ。

俺はそれにかぶり付き、忌々しい背中が廊下の向こうに行くのを睨んでいた

食べ物ばっかできてるなこの小説。

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