ワンナイト・カーニバル?
中間試験、一週間前。
教室の雰囲気はどことなく重い……なんてことはなく、いつも通り。
いや、いつも以上に賑やかな気がする。
「居心地悪いな」
校庭の砂場に座る野良猫がいる。
あれくらい呑気に生きたい、好きなことだけして生きていきたい。
勉強なんてしたくない。
したところでもう意味なんてないのに。
「……」
なのに後ろを向けば黙々と予習をしている天音がいる。
カノンアマネも遊んで暮らせるほど稼いでいるはずなのに。
理解できない。
「ジロジロ見ないで、集中できない」
見たくて見てるわけじゃないんだよ。
なんだか背中がムズムズするし、外を見て気を休めようとしても視界の端に入る。
ゲームしようと思っても後ろで勉強されてたら集中できない。
「なんでそこまで勉強するんだよ――あっ」
「え?」
つい心の声が漏れてしまった。
もう会話なんてするつもりなかったのに。
天音が手を止め、真顔で俺の目の奥を覗いてくる。
「な、なんだよ?」
「……今やらないと、家に帰ってから時間がないから」
どこまでも彼女は配信者だった。
たぶん家に帰ってから歌の練習もしてるんだろう。
そしたら学業の時間は確かにない。
だから学校にいるときにできるだけ勉強する。
「でもそれは……」
でもそれは――ここじゃ歌えないからだ。
本当に歌だけをやるのなら、学校を休んででも歌う。
それができないのは臆病だからだ。
……俺が今ここでゲームができないのも。
放課後の食堂、静かだ。
たまに人が入ったり、出て行ったり、あっちの席で勉強してる女子がいる。
外の空には夕焼けがあってカラスも鳴いているみたいだ。
運動部も試験前という事で休みらしい。グラウンドも殺風景だ。
「はぁ……怠い」
家に帰ってもなんか居心地悪いし、このまま食堂にいても仕方ないし。
ただめんどくさい。
こういう時はゲームでもして気分転換でもしよう。
「あー、テスト怠いな」
「言わなくてもそうだ、早くサッカーしたいのに」
なんか陽キャが入ってきた。
せっかくの静まっていた空間が。
サッカー部らしき奴ら二人が窓のすぐそばの席に座った。
おいおい、外見にくくなっただろうが。
「ったく……」
聞こえないように文句を囁いた。
その場にいるだけで厄介とは虫みたいな奴らだ。
「そういえば昨日のsima見たか? スーパープレイだったよな」
「!?」
首が540度回ってさらに二度見した。
今、あのツンツン頭simaって言ったか?
「ああ、ビルから落下しながら窓の敵をキル。あんなの反則――」
「違う違う、その前の手榴弾だって。物音で誘導してからのダブルキル。読みがおかしすぎるよな」
間違いない。その巧みなプレイは俺の配信に違いない。
あの場面で冷静に判断して……そしたらこうくるはずだから……でも一応――ああ、思い出したらまたゲームやりたくなってきた。
実はもっと凄い技も思いついてたんだけど、やれなかったんだよな。
天音がいなくなって時間が増えてるんだし、さっそく練習してやる。
鞄からSwitchを取り出して、起動。
「確かにそうだよな。あんなプレイを簡単にこなすとか、痺れるぅぅぜ!」
「どうしたテンション?」
あ、そうだった。
イヤホン付けてなかった、どこにやったっけ。
「今日も配信すんのかな」
イヤホンが転がり落ちた。コロコロと音が鳴り響く。
椅子の下、あった。
ちょっと汚れたけどまぁいいか。
とにかくいち早く、もっと巧いプレイ見せれるようにしてやる。
「最近連日だし、するだろ」
もちろん今日も。するに決まってるだろ。
よし、気合入れるか。
「そうとわかったら、さっさとテスト勉、終わらせるかー」
伸びをしてシャーペンを振るサッカー部の野郎。
そいつが呟いた言葉に熱の入っていた頭が一瞬で凍った。
「よし、エナドリ買ってくるわ」
元々罪悪感に似たものはあった。
でもそんなのが意味のないことだってわかっていた。
どちらにしろ俺にはゲームしかない、それだけだ。
「なのになんでだ」
スリープしているゲーム、そのボタンを押すことができないのは。
疲れてるのか、俺は。
早くまたゲームして、腕をあげて、また盛り上げないと。
「――そうか」
窓の向こう、天音が女友達と歩いている。
ただ何気ない会話をして、笑ったりして。
「――!」
俺は鞄にswitchとイヤホンを叩き込んで、担いで走った。
急いで走った。
廊下を一目散に走った。
言葉にはならない。
ただ走った。
追いかけようとした。
――そこに何かの答えがある気がして。
昇降口、下駄箱に上履き突っ込んだ。
靴を床に投げて、かかとを踏んだまま、また走り出す――その瞬間。
「なにしてるの?」
天音。
その夕陽の影が俺を覆った。
でも天音の表情ははっきりとわかる、困惑してる。
「天音……」
「な、なに?」
息を整え、袖で汗を拭いた。
相変わらず、意味わからないって感じの天音の様子。
でも俺だってまだよくわからない。
「天音……」
「は、はい?」
でもこの気持ちを伝えないといけない。
じゃないと俺は何もできる気がしない。
どこかそんなものがある。
「天音……」
「いいから言ってよ!」
よし、落ち着いてきた。
この本心を天音に伝えよう。
「天音!」
「はい?」
「――俺のとこ、こないか?」
「・・・・・・は?」
これが今の気持ちだ。
ハッキリと伝わっただろう。
「よし!」
「いや、何もよくない!」
夕陽が徐々に落ちてきて、だんだん暗くなった。
なのに天音の顔は真っ赤だ。
「あれ、そういう関係だったんだ、お邪魔しちゃ悪いか。じゃあ、楽しんでね~」
「ちょっ、そんなんじゃないって!」
天音の後ろから出てきた女子が、ニヤニヤついたまま帰っていった。
友達、まだいたのか。まったく気づかなかった。
「いきなりなんなの?」
「いや、だから……数学だけ、教えてくれさい」
「は、はぁ?」
なんでそんなに不機嫌になってるんだ。
どこにそんな要素があった、俺は誠実に気持ちを伝えたぞ。
「もう……いいよ。わかった。でもその代わり、またゲーム教えてよ」
あー、そうなるんだっけ。
ここだけ普通じゃないよな。
でもまぁいいか。
「わかった」
背に腹は代えられない。
これもカリスマ実況者の運命か。
「それで突然どうしたの?」
天音は下駄箱に靴を入れた。
よく見れば鞄を持っていない。
「いや、それは……気分転換だ。息抜きだ!」
「無茶苦茶だよ」
そんなに変なのか。
ただ思った通りに、確かに説明なんてできないけど。
でもまた天音と一緒にいられれば、なんか、なんというか。
「なんか……カノンアマネの歌枠が楽しめる気がするんだ」
「――!?」
なんかさっきからずっと変だな、天音の様子が。
怒ったり、顔赤らめたり、今はどこか嬉しそう。
「わ、私もこれ以上ゲームが上手になる理君は“悔しくて”観るに堪えないです」
「そうなのか。てかなんで敬語?」
「別にいいでしょ!」
そう言って天音は歩いて行った。
その丸い肩は、小さい背中は少し弾んでいた。
「やっぱりカノンアマネって普通の女子高校生だったんだ」
どこか残念な気持ちもあるけど、なんか楽になった。
今回はラブコメだった、よし。




