40.ドラゴン遅延作戦
汗を流しながら飛び起きると、俺は驚きながらカナエルを見ていた。
彼女も同じような雰囲気で俺を見てくる。二人同時に起きるということは……
「カナエル。嫌な夢を見たんだ……」
「私もです」
少しずつ呼吸を落ち着けると、俺は再びカナエルを見た。彼女も少しずつ、落ち着きはじめているようなので、俺はゆっくりと切り出した。
「暗闇のなかで、男が自分の指を傷つけて血で記号のようなモノを書いていたんだ」
俺は頭を左手でかきあげると、指先に汗が次々とついた。
「待ち望んだユートピアを実現させる……全ての人が寒空の下にいないことを実現するとか、のたまってた」
彼女も頷いた。
「全く同じ夢を見ていたようですね……偶然と片付けることはできません」
息が大分落ち着いたときアパートの外で足音がした。隣の部屋のドアが開く音も聞こえて来る。
この気配は、鬼狩警部だ。
「……」
彼らの会話は短いものだったが、俺は彼らが何を言いたいのか理解ができた。
「……目的のモノが作れる目途がたったようだね。問題があるとすれば……」
カナエルは厳しい顔をした。
「製作が間に合うか……ということでしょうか?」
俺は頷いた。
「この作戦が上手くいくかは、俺たちの準備が先に済むか……それとも向こうが先かという話になりそうだ」
翌朝になると、一角獣アウグスを通して、次々と鳥からの情報が寄せられた。
どうやら、敵は天使こと有翼人の数を減らすどころか増やしているという。その数が3倍以上になっているという話を聞き、俺は不味いなと呟いた。
「不味いな……」
するとアウグスは不思議そうな顔をした。
『どうしてそう思ったのだ?』
「恐らく敵が偵察を増やしたのは、このダンジョンの地図を正確に作るためだろう。正確に地図ができれば……」
そこまで言えば、アウグスも十分に理解したようだ。
『どのようなルートでドラゴンを歩かせればいいのか、向こう側が理解する……侵攻の目途が立つということか』
そこまで言うと、彼は更に言った。
『これからする報告を聞く前に、それほどのことがわかるのだから大したものだ』
「というと……?」
『奴らがドラゴンの投入を計画しているのは、ほぼ確定事項になった。古城を改修してドラゴンが生活する環境を整えはじめたからな』
つまり、もう時間との戦いになっているということか。こうなってしまってはもう、鬼狩警部がなるべく早くダンジョン内で使える、大型の地雷を調達してくれるのを祈るしかない。
「そうなると、一日でも長く、侵攻を遅らせないとな……」
とは言ったもののドラゴンの投入を遅らせる……或いは見合わせるにはどうしたらいいのだろうか。
強力な仲間を配置して武力を示すか? いいや、それこそ攻略対象が増えて計画を後押しするだけだ。なら、逆に戦力を少なく見せればいいのか。ドラゴンを派遣させるまでもない……と。
いや、すでに国王はドラゴンを投入することを決めているのだから、その決定を覆すには、向こうにとってかなり大きな旨味となるニュースがなければいけない。例えば……洞窟内で金脈が見つかる。といった具合のニュースだ。
「カナエル」
「なんでしょう?」
「向こうの世界でレアメタル……価値のある金属ってなんだ? 知っているモノを全て答えてくれ」
カナエルは、視線を上げてから答えた。
「金、銀、プラチナ、ルビー、エメラルド、サファイア、琥珀、サンゴ、パール……」
どれも値段の張る希少金属や宝石ばかりが並んでいる。やはり人間というモノは、美しい石に価値を見出すものなんだ。このアイディアは駄目か?
「後は……アルミニウムですね」
その一言を聞いて、俺は意外に思った。
「アルミニウムが? どうして??」
「美しいだけでなく軽いからです。貴方がたの世界ではありふれたものなのですか?」
俺は頷くと、財布から1円玉を数枚出した。
「俺たちの世界だと調達が容易な金属なんだ。だから……一番価値の低い硬貨の材料になっている」
俺はすぐにスマートフォンを出すと、鬼狩警部に話を伝えた。
アルミニウムの材料となる石を、ココが統治している渓谷から見つかった……というふうに敵に情報を伝えれば、ドラゴンの投入を見合わせることができるかもしれない。
【なるほど。ボーキサイトなら知り合いから調達できるよ。どれくらいあるといいかな?】
「1トンほどあれば……」
【わかった。手配しよう】
「あと、外出許可を下さい……ココに根回しをしたいです」
俺は鬼狩警部から許可を得ると、カナエルを護衛としてココのいる渓谷へと向かった。
計画の全容を話すと、ココは「なるほどのぅ……」と頷いた。
「確かに、ドラゴン核兵器とやらを一時的にせよ、止めることに意味はありそうじゃな」
「問題は、敵にどうやってそのことを知らせるかなんだ」
ココは少し考えた。
「つまり捨て駒が必要……ということか」
その話を聞いていた巫女たちはビクッとしたが、ココは彼女たちに関心を向けることは無かった。
「それならばちと、ゴブリンでも捕らえてきてくれんかの。生け捕りにできれば、後は童が何とかしよう」
「わかった」
作戦はこうだ。
俺たちが捕らえたゴブリンを、ココが魔法で操ってアルミニウムの原料を運ばせ、それを敵翼人たちに発見させて、敵のリーダーに報告させる。
とてもシンプルな作戦だけに、こちら側の演技力が試される。
アパートに戻ってからスマートフォンを見ると、鬼狩警部から連絡が入っており、ボーキサイトが予定通りに調達できたという知らせが届いた。
「……よし、アウグス……到着したら、アレをバレないように目的地に運ぼう」
アウグスは、ゲートから顔を出すと頷いた。




