39.ある男のユートピア
アパートに戻ると、俺はすぐに鬼狩警部に全てを話した。
メニューとしては、ちょっぴりいいニュースと、いいニュースと、極悪級に悪いニュースである。鬼狩警部の立場から見れば、極悪級に悪いニュースを知りたがることは明白だ。
全ての事情を呑み込んだ警部は、凛とした表情のまま頷いた。
「なるほど……ここ数日の間に何があったのかは理解した」
彼はすぐにカナエルを見た。
「仮にカナエルさん。炎竜という兵器の侵入を許したら、この街にどれくらいの被害が出るだろうか?」
カナエルは恐々とした表情のまま答えた。
「性能がわからないので、正確なところはわかりませんが……我が国が用いていた一般的な魔導兵器ブレイズドラゴンタイプだったと仮定すると、ターミネイト時の爆発だけで、半径10キロメートルは吹き飛んでしまうと予想できます」
その話を聞いていた、ドラゴン刑事こと長谷川巡査部長や倉科巡査部長は、険しい顔をした。
「暴れまわる核兵器かよ……冗談じゃねえ!」
「これは最悪でもダンジョン内で倒さなければなりませんね」
「それも、できるだけ……向こうのゲートに近い場所でという条件も付きます。そうすればこちら側の被害は最小限に……」
アウグスは険しい顔をした。
『そうしたいところだが、奴らは鋼のように強固な鱗で守られている。鱗を1枚砕くだけでも簡単ではないのだ』
「そうだった……ダンジョンって近接武器くらいしかまともに使えないもんな」
長谷川は頭を掻いた後で、俺を見た。
「ゴローさん、最大射程はどれくらい?」
「翼人相手なら70メートルだけど、鋼を貫くとなると……30メートルくらいまで近づかないと厳しいかな?」
「うわ……無理だ。絶対に爆発に巻き込まれるじゃありませんか……」
話を聞いていた倉科巡査部長は、鬼狩警部を見た。
「直接攻撃で倒すのは危険すぎます。ライフルの狙撃や地雷などで倒すことはできませんか?」
ライフルでは、爆発に巻き込まれてしまう恐れもあるが、地雷は名案だと思った。
対戦車地雷のような強力なモノを踏ませることがてきれば、いくら鋼の鱗でもダメージは受けるし、動けなくなれば、かなりこちらが有利になる。
問題があるとすれば、作れる人材がいるかどうかということくらいか……
鬼狩警部は頷いた。
「竜が現れてから対処しているようでは遅いな。地雷なら心当たりは何人かいる。これから当ってみるから、お前たちは無理をせずにここで待機」
警部は一角獣アウグスを見た。
「偵察はアウグスに頼もう。ココさんにも協力を要請して、逐一ダンジョンの様子を探ってほしい」
『承知した!』
アウグスは、ゲートから首を引っ込めると、早速鳥たちに働きかけを行った。
彼が特に注意を払ったのは、古城と周辺地域だった。とても合理的な判断だと思う。
カナエルの話では、敵国側にとっても有翼人は珍しい存在であり、戦争時でさえ500人前後しか配備されなかったという。
もしドラゴンを投入するのなら。確実に退避させるようだ。
「考えてもみれば、国宝を壊してしまったマティスでも追放処分で済むんだもんな……普通の種族だったら処刑されてもおかしくはなかった」
「恐らく、聡明な王なら名誉挽回のチャンスを与えると思います。それくらい有翼人は貴重です」
つまり、国王が普通の精神状態だったら、ドラゴンを搬入する施設を作ったうえで、貴重な有翼人こと天使たちを古城から逃す。そしてゲームセット……という形になるわけか。
まあ、俺が国王の立場でもそうするだろうな。彼らにとっての有翼人を失うということは、俺たちで言えば100億円以上するようなステルス戦闘機を壊すようなものだし……
「ですから、今のうちに我々は休みましょう!」
「そうだな。そうしよう」
まもなく就寝した俺だったが、妙な夢を見た。
どこかの薄暗い空間で、男が暗闇を睨みながらクツクツと不気味な笑い声をあげている。
そいつは、自分の指先を歯で傷つけると、岩壁に奇妙な記号を描き始めた。
「そろそろだ……そろそろ私の待ち望んだユートピアの世界を実現できる」
男は、鼻息をより荒らげながら笑った。
「全ての人々が、寒空の下にいない……誰しもが雨風をしのげる。そんなユートピアを実現するんだ!」




