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34.ゴローの反撃

 カナが普段では決してしないような、不気味な笑みを浮かべていた。


 唯一の味方のコントロールが奪われ、周囲を敵に囲まれ、更に弾数も心許ない。

 こちらに有利な点があるとすれば、カナが白い大ギツネを倒してくれたことくらいだろう。


 カナの身体を乗っ取っている白い大ギツネは言った。

「命乞いくらいなら聞いてやるとしよう」

 今の言葉を聞き、最後にして最大のチャンスが到来したことを確信した。


「お言葉に甘えて言わせてもらおう……俺を倒すつもりなら、もっとキツネどもを連れてこい。この程度では張り合いがない」

 どうやら、白い大ギツネにとっては、意外すぎる一言だったようだ。暫くのあいだポカンとしていたが、やがて元の表情に戻った。


「どうやら、とんだ買いかぶりだったようじゃな……おまえたち! 食事の時間じゃ!! 久しぶりに人の子の血肉を心行くまで食すがいい!」


 仔ギツネたちが襲いかかるよりも早く、俺はマジックシールドを全面にだけ展開して、仔ギツネが最も多く集まっている場所に向かって突進した。

 すでに走り出そうとしていたキツネたちは急には動けずに、俺のシールドに弾き飛ばされていき、20近い仔ギツネが戦闘不能となった。


 俺は細い路地へと入ると、方向転換して仔ギツネたちを迎え撃つ体勢を整えた。

 奴らに散開されると、取り囲まれてやられてしまうが、ここなら正面からしか攻めてこれない。


「リロード!」

 さて、キャストブレッド弾こと鋳造弾だが……どの程度の威力になっているだろう。攻め寄せてくる仔ギツネたちに向かって、打ち放った。


パァーーーン


 目の前の仔ギツネの身体を貫通し、後方にいた仔ギツネの身体にも命中していた。どうやら、俺の発射速度は、バイト先で戦ったときよりも格段に向上しているようだ。

 しかし、仔ギツネたちは次々と襲ってくる。2匹抜きくらいで喜んでいては駄目だ。


 俺は全身の気を高ぶらせると、再び鋳造弾を放った。


パァーーーン!!


 鋳造弾に貫通力はないが、仔ギツネの身体はとても脆いため、一発で3匹の仔ギツネを貫いた。しかし、まだまだ数はいる。

 俺は気を高ぶらせたままトリガーを引き続けた。


パァーーーン!!

パァーーーン!!

パァーーーン!!


 今の3発で10匹を倒すと、さすがの仔ギツネの足も止まった。

 さっきまでは全部おんなじモノに見えていたが、今だからこそよくわかる。こいつらにははっきりと個性がある。最初のうちに襲い掛かってきたのは、勇敢な奴とかお調子者だったのだろう。そいつらがまとめて倒されると、他の普通の個体や臆病な個体の足も止まる。


パァーーーン


 俺は逃げ腰になっていた仔ギツネを撃つと、背後に隠れていた仔ギツネも一緒に倒した。

 すると、次々と仔ギツネたちは逃げ出した。こうなったらもう形勢は逆転だ。後は1匹ずつしらみつぶしに鋳造弾で倒していけばいい。


 再び袋小路から出ると、カナエルの中に入っていた白い大ギツネも険しい顔をしていた。

「ま、まさか……あの状況から……」

「だから言っただろう。出し惜しみをするな……残らず出せ!」


 白い大ギツネは、カナエルの身体から出ようとしたのだろう。ところが、彼女の背中からは再び翼が生え、その両翼は身を包み込むように覆っている。

 こ、これは……カナエルはあえて大ギツネを自分の身に入れ、そのまま封じ込めようとしているのだろうか!?

「お……おのれ……邪魔を致すな!」


――放しませんよ。ゴロー様に手出ししたダンジョンマスターを、みすみす逃がすような失態は犯しません!

「お、お前たち……命令じゃ、童もろともで構わん……この女をやれ!」


 彼女が強烈なオーラを放つと、先ほどまで逃げ回っていた仔ギツネたちの身体は、集まって巨大化した。

 マジかよと言いたかった。どうやら白い大ギツネは、死んでしまった個体や、大怪我をして戦闘不能になった個体同士の身体を繋ぎ合わせ、ニコイチやサンコイチという方法を取れるようだ。


 更に白い大ギツネが、霊力を絞り出すことで更に小さな仔ギツネたちを出した。そいつらを合体させることで、合わせて5匹の中ギツネたちが……エリアマスターが5体も俺の前に現れた。



 このまま放っておけば、カナエルも俺も食い荒らされてしまうだろう。かといって、銃撃も悪手……どうすればいい。

「さっさと放せーーー童は神じゃ、お主たちでどうこうできる存在ではない!」


 もはや詰んだと思える状況でも、カナエルは悪魔を体から出さなかった。

 堕ちたとはいえ、相手は神の末座にいた存在だ。自分の体に押し込めておくのは相当な負担となっているだろう。その上に魔物たちに食いつかれる寸前だ。それでも諦めない理由は何だ。なにを彼女がそこまで駆り立てるんだ!?


 そう思った直後に、うわごとのような彼女の声が聞こえた気がした。

 俺なら……比名吾郎なら、何とかしてくれる。絶対に負けないと思っている……?


 キツネの悪魔たちが向かってくる。どうすれば助かる? どうすればカナエルを守れる? 敵との距離が半分程度になったとき、俺の脳裏にはあるキーワードが浮かんでいた。

 

――スネークショット


 その言葉の意味を理解した俺は「リロード!」と叫んでいた。

「があああああ!」

 弾のチャージは6発。通常弾頭よりも大きな負担になった。だけど、俺はしっかりとキツネの化け物を睨んで、その弾を放った。


ドォオーーーン!


 弾はまっすぐに向かい、キツネの化け物の眼前でさく裂すると、体中に砕けた銃弾が突き刺さった。

 バケモノの身体は仔ギツネへと分離したが、その全てが立ち上がることもできないほどのダメージを受けて地に伏している。


 俺はすぐに、次の化けギツネを睨んでスネークショットを見舞った。

 その弾もキツネの前でさく裂して、無数の破片がキツネの化け物の身体に突き刺さっていく。無数の仔ギツネに分裂した時には、その全てが動けないほどのダメージを負っていた。


 3番目のキツネの化け物を睨むと化け物は足を止めたが、俺は容赦なく3射目を見舞った。

 スネークショットの威力は極悪の一言に尽きる。鼻先でさく裂するから回避のしようがないし、体中に突き刺さるから、こういう小さな悪魔が合体しているようなモンスターには全体に大きなダメージを与えられる。


 さすがに立て続けに3頭も仲間がやられたら、他のキツネたちもプレッシャーを受けたようだ。残った2匹は次々と逃げ出し、カナエルの中で囚われている親玉ギツネも、悲壮な顔をしたまま茫然としていた。


「キツネ様。確かにアンタの言う通りだよ……人間ってのはしょうもないことばかりする。正直、俺もアンタの話を聞いていて、耳が痛かった……」

 俺はそこまで言うと、カナエルの中にいる彼女を見据えた。

「だけど、進化だってする。本当に必要に迫られたときの人の力を……どうか侮らないで欲しい」


 カナエルの中にいた白い大ギツネは、体を震わせながら半泣きになっていた。

「童の名は……白の九十六(ここのそじあまりむつ)。馬鹿も……お主ほど突き抜ければ天晴れなものじゃ」

 彼女が涙をふくと、カナエルの身体から現れ、元のきれいな巫女服を着たキツネ面の少女へと戻っていた。

「しばし、人間の件は保留とし……お主と行動を見て判断させてもらおう。仔ギツネたちも良いな?」

 生き残った仔ギツネたちも頷いた。

白の九十六 (ここのそじあまりむつ)(女性)

愛称:ココ

所属:比名吾郎

能力:九十六 (★★★★☆)

96の使いギツネたちを操る能力。彼らは個々が意志を持ち、状況によって20~25匹で合体したり、分離したまま偵察や戦いをする。やられても一定時間で復活するようだ。


能力:ニコイチ&サンコイチ(★★★)

身体が半壊してしまった使いギツネ同士を合体させて、戦力になるキツネを作り出す。融合で消滅したキツネは全損扱いになって1週間出ることができない。


能力:九十六(★★★★☆)

非公開のもう一つの能力。仔細は不明。



腕力    A ★★★★

霊力・魔法 S ★★★★★

行動速度  A ★★★★

耐久力   測定不能

技量・作戦 A ★★★★

索敵能力  A ★★★★

意志力   A ★★★★

経験    S ★★★★★ 



好きなモノ:稲穂の波、英雄、素朴な人々

嫌いなモノ:人間の負の面、火や煙

備考:ヒール、人間変身


一言:元禄6年(西暦1694年)に生まれた白ギツネが、霊力を持って八百万の神々の一翼となった。長い間、神社に身を置いて人々を守ってきたが、1940年ごろから人々の心が変わっていくことを嘆きはじめ、神社が取り壊されたときに悪魔化。

 どうやら土地を守護していたらしく、新しい神社に引っ越すことができなかったようだ。


 神社風のダンジョンは、社も鳥居も設備もボロボロという状況だったが、これは彼女のイメージする自分の神々や人々への思いが関係しているようだ。

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