31.隠密行動
明け方が近づいたとき、公安の鬼狩警部が姿を見せた。
彼はアパート前の洞窟から、部下たちと共に突入しようとしていたが、壁にゲートが開くと、そこから一角獣のアウグスが顔を出した。
「アウグス……どうしたのかな?」
『敵はそちらのルートの監視を厳重に行っている……こっちへ』
鬼狩警部の部下たちが指示を仰ぐように鬼狩をみると、彼はしっかりと頷いた。
「わかった。突入場所を変更しよう」
『急いでくれ。朝日が出ると連中が有利になる』
鬼狩チームのメンバーは、次々とアウグスの案内に従って一角獣の泉へと向かった。
彼らは、夜の泉を抜けると、先ほどアウグス自身で従えたトナカイたちの収める森を抜け、1時間ほどで古城へと着いた。
鬼狩警部たちが見たのは、洞窟の先には幾重にも柵が張り巡らされ、その先には人質となった民間人たちが棒に括り付けられて、いつでも処刑できる状況となっていたことだ。
一角獣グリーンアウグスは、険しい顔をしながら言った。
『ちなみに、洞窟の先には武装解除を要求する立札があり、従わなければ人質を処刑するとはっきり書かれていた』
偵察役である倉科巡査部長は、目を細めてから言った。
「見張りの目は洞窟に釘付けです。警部……」
「ああ、頼むぞ俊足部隊」
そう指示を出すと、ジーンズ姿の男性は一瞬にしてワーウルフへと姿を変え、軽戦士であるクノイチ刑事と共にかく乱行動を開始した。
同時に、眼鏡をかけた男性はスナイパーライフルを出し、狙いを見張りの天使役に定める。
直後に狙撃が行われると、弾は一瞬で見張り役の天使の胸に命中し、叫び声をあげる間もなく倒れた。
続いて彼は、処刑台で欠伸をしていた見張り役の獣人に向けても発砲し、これも有無言わさずに撃破。
直後に、柵を乗り越えたオオカミ刑事とクノイチ刑事が処刑台のエリアに突入し、慣れた手つきで人質たちの縄を切って解放していく。
すでに鬼狩警部たちも動き出しており、襲撃に気が付いた天使や兵士たちは慌てて古城から出てきたが、倉科巡査部長のクロスボウや、クノイチ刑事の火遁の術で圧倒された。
「よし、人質の救出は済んだ……各自、撤収を!」
公安の警察官たちは、応戦に出てきた兵士たちを薙ぎ払いながら森方面へと後退。オオカミ刑事やクノイチ刑事は、その機動力を生かしてしんがりを務めながら時間を稼ぎ、2人とも撤収作業を完了させた。
そして俺が起きたときに公安の刑事たちは、それぞれの持ち場へと戻っていた。
「よかった……その様子だと、人質は無事に救出できたんだね」
「はい。公安の皆さんにも被害はなかったようなので良かったです!」
『これで連中も、我々が一筋縄ではいかない相手だと理解しただろう。連中が受けた被害を考えれば……しばらくは動けないだろうな』
俺は少し考えた。
「……なら、買い物とかに行っても大丈夫かな?」
『それなら我が見張っているゆえ、仲良く2人で行ってこい』
茶化された気もするが、これはコイツなりの計らいだろう。
カナエルと共にアパートを出ると、街をゆっくりと進んだ。
いつもと変わらない様子で車が走り、自転車に乗った人が通り、お店も営業している。とても平和な光景だ。何も変わらない……
そこまで考えたとき、俺は唐突に何かに見られているような気がした。何だろう。この奇妙な感覚は。
「ゴロー様」
カナはそういうと俺の手を握ってくれた。
彼女はとても気楽そうな表情をしている。俺の気のせいだろうか。
そうだよな。きっと気のせいだ。
最近は、ダンジョンに関わりっぱなしだったから、疑心暗鬼になって些細なことが気になるのだろう。みんな自分のことで忙しいのだから、俺たちのこともリア充カップルとしか思われないはず。
俺はその後、視線のことなど忘れてカナとのデートを楽しんだ。
幸いにも彼女は甘いものが好きというごく普通の女の子なので、喜ばせることは簡単だった。カフェに入って一緒に何かを飲むだけでいい。
2人で他愛もない世間話をしながらコーヒーを飲む。何て幸せなひと時なのだろう。
そう思ったときに再び視線を感じた。
先から何なのだろう。まるでデートを邪魔するように無粋な視線を感じる。確かに、近くにカップルがいると俺もおもしろくないと感じたことはあるが、ここまで露骨に視線を向けたりはしない。
「あまり気にしては駄目ですよ」
どうやら、カナも視線を感じていたようだ。
「君も気が付いていたんだね?」
「ええ、恐らく……ゴロー様が羨ましいのでしょう」
本当に危険な視線なら、カナエルことカナが警戒を促してくれるだろう。喫茶店でゆっくりとした時間を楽しむと、俺たちは店を出た。
その足で駅前へと向かうと、そこには何十という数のハトが歩行帯を歩いていたり、手すりなどに止まって羽を休めている。この辺りでは特に珍しくもない光景である。
しかし、その様子を見ていたカナは足を止めた。
「……逃げましょう……ゴロー様!」
「……え?」
絶えず警戒を怠らなかったカナと、見慣れた光景だと油断していた俺、2人の走る速度には大きな差ができていた。
その一瞬の隙を、どうやら先ほどから視線を送って来ていた者は見逃さなかったようだ。
ハトの群れの中の1羽が、威嚇するように翼と体中の毛を逆立てて俺を睨むと、それは一瞬のうちに見慣れた仔ギツネ、かつてバイト先で俺たちを襲った……はぐれ稲荷となって、俺に接触してきた。
俺は立ち眩みを感じるようによろけ、あお向けに倒れたが……転んだ感覚がコンクリートではなく、土の感触だった。
「な……なっ!?」
風に吹かれて木々がざわざわと揺れている。
あの仔ギツネは、一瞬のうちに俺を駅前のロータリーから、異空間である寂れた神社エリアへと移動させたんだ。
一体、何が始まるんだ!?
そう思った直後に、ギギギ……という廃墟と化していた神社の戸が開き、中からはキツネの面を付けた巫女が姿を現した。
だけど、コイツの巫女服はボロボロに汚れて、裾などは破れていた。
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