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30.ある者の暗躍

 寝床に付いたとき、俺は気になっていたことがあることを思い出し、隣で寝ているカナエルを見た。

「なあ、カナ?」

「なんでしょうか?」

「お前……隠し子とはいえ王女様だったのなら、どうしてこんなに強いんだ? 普通は安全なところにいるもんなんじゃないのか?」


 彼女は、そんなことかと言いたそうに表情を和らげた。

「逆ですよ。王の隠し子だからこそ、万一の時にも自分の身を守れるように厳しく育てられましたし、いるはずがないと思うような場所で過ごしたものです」

 いるはずのない……か。

 コイツは何のためらいもなく俺のアパートに入れろと言ってきた。そのことを考えると、男と仕事をすることが当たり前で扱いに慣れ、更にダンジョンを単独で踏破できる能力を持つ職業。

「冒険者か……」

 彼女は、その通りと言いたそうに微笑んだ。


『本当にそうなのか、彼女は未だに生娘だぞ?』

 俺はそういうこと、聞きたいんじゃねーけど……と思いながら一角獣アウグスを見ると、カナエルは笑った。

「臣下の中に人を見る訓練を仕込んでくれた者がいます」

『なるほど。冒険者の中にも稀に紳士はいる。邪魔をしたな』


 アウグスは、ゲートから顔を引っ込めた。

 何だか、こうやって見ていると、ウマの顔だけが出ている置物を思い出してしまう。

「しかし不思議ですね。どうやって一角獣は処女かどうかを見抜くのでしょうか?」


 そうカナエルが不思議そうに言うと、俺は少し考えを巡らせてみた。

「……霊力と見せかけて、案外匂いとかかもな……ウマの嗅覚は人間の1000倍という話を聞いたことがあるから」

 今の答えを聞いたカナエルは、目を丸々と開いていた。

「そ、そんなにウマは鼻が利くのですか!?」

「らしいよ。犬はもっと凄いらしいけど」


 そう言いながら、俺はふと思った。

 相手は仮にも王女様なのだから、もう少し丁寧な言葉を使った方がいいのではないだろうか。そう思いながらカナエルを見ると、彼女はじっと俺を見つめていた。

「下手に敬語を使おうとか思わないでくださいね」

 先手を打たれてしまった……



 俺たちが就寝している間、密かに動き出した影があった。

 それは天使たちでも公安の関係者でもなく、一角獣アウグスだった。どうやら、夜のうちにケガを完治させていたようだ。

「…………」


 彼は角を光らせると、複数の渡り鳥たちが木の枝から目を光らせた。

『では、頼むぞ』

 そう伝えると、鳥たちは一斉に飛び立った。


 同時に彼は駆け出すと、自分の守護エリアを越えて南へと行き、密林エリアへと向かった。

 そこには複数のトナカイたちが夜闇の中で目を光らせており、一角獣アウグスが駆けてくると、嘲笑うように言った。

『あれは……ボッチ一角獣じゃねえか』

『なんだ、遂に我らの軍門に下る気になったか!?』


 アウグスは目を緑色に光らせたまま言った。

『雑魚に用はない……退け!』


 その言葉を聞いたトナカイたちは、目を真っ赤に光らせて向かってきたが、アウグスはたったの1頭で、20頭はいる牡のトナカイたちに正面から挑みかかった。

 すると、アウグスの周囲には強固なマジックシールドが現れ、ぜい弱なトナカイたちのマジックシールドを粉々に破壊したうえに、次々となぎ倒しながら進んだ。


 アウグスはゆっくりと歩みを緩めると、立派な角を持つ牡トナカイ鹿の前に立った。

『貴殿が、この密林エリアのマスターだな?』

『手荒なことを……貴様はどうやら礼儀というものを知らぬらしいな……』


 そう言い終えると、立派な角を持つ牡トナカイは体中に大地の気を纏った。

『ここで、たっぷりと礼儀作法を仕込んでやる、ウマ風情が!』

『わかりやすくて助かる。さっさと済ませるとしよう』

『ほざけぇ!』


 牡トナカイが走ると大地が隆起していき、まるで地面を抉り出すようなパワーでアウグスに向かったが、アウグスは止まったまま、角だけを光らせた。

 すると、目の前に巨大な壁が現れ、突っ込んできた牡トナカイを呑み込んでいく。

『お、おのれ……アジな真似を!』


 そう言いながら壁を突き破った牡トナカイだったが、待っていたのはアウグスの前脚蹴りだった。

 ものの見事に頬に一撃を貰った牡トナカイのマジックシールドは一発で粉々に吹き飛び、更に背中を木の幹に叩きつけていた。

『あが……うぐ……ま、まさか……さっきの壁は……』


 アウグスはゆっくりと歩み寄ると言った。

『察しがいいな。あれは目くらまし……最初から我はこの状態にすることを狙っていた』

『我が命なら……惜しくない。だが……妻と仔だけは……』

『我が欲しいのは貴殿1頭だ。妻子や家来ならお主の好きなようにすればいい』


 そう言いながら治癒術をかけると、その牡トナカイは信じられなそうに顔を上げた。

『な、何と寛大な措置だ……信じられん!』

『従ってくれるな……我が友よ』

『ああ、一角獣殿にお仕えしよう!』

 こうして俺は知らない間に、密林エリアの支配者となっていたが、基本的にアウグスは切り札のような存在だ。

 あまり彼を動かしていると、敵側に裏をかかれやすくなるから、ここから先のエリア攻略は、俺たちのような人間が担当すべきだろう。

密林の牡トナカイ

所属:裏庭ダンジョン、エリアマスター(密林地区の統治者)

能力:アースタックル(グレード★★★)

攻撃と防御が一帯となった技。走り出すと脚元の大地が隆起しはじめ、マジックシールドの外側をコーティングするように大地の防壁が現れる。貫通力のある攻撃でないとダメージを与えられない。



腕力    A ★★★★

霊力・魔法 B ★★★

行動速度  B ★★★

耐久力   A ★★★★

技量・作戦 C ★★

索敵能力  B ★★★

意志力   B ★★★

経験    B ★★★  



好きなモノ:突撃、角を磨いてもらうこと、ブラッシング、新芽を食べること

嫌いなモノ:メス同士のケンカ(自分が仲裁することになる)、仔鹿のタックルごっこ(自分が標的になる)、ダンゴムシ

備考:鉄壁防御、300度監視、嗅覚

体重:260キログラム、肩までの高さ:155センチメートル


一言:ダンジョンに住むトナカイのなかでも、かなり大柄な牡。普通は大きい個体でも180キログラムくらいしかない。つまり入り口でたむろしていた牡どもは510キログラムの筋肉モリモリ一角獣に……ゴホン。


 ちなみに、エリアマスターのトナカイはかなり強く、公安当局が付けた厄介モンスターランクでA。つまり、序盤で比名が退治したウシに匹敵する強さがある。

 なお、どうしてダンゴムシが嫌いかと言えば、仔鹿の時にワラジムシとダンゴムシを逆に覚えて、仲間たちからバカにされたからである。

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