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2.英雄の片鱗

 ベランダの向こう側には巨大な闇が広がっていた。

 ここの先は、すぐ隣の家が建っていたはずだ。その建物はどこに行ってしまったのだろう。そう心配していると、カナエルは有翼人の姿に戻りながら言った。

「ダンジョンは存在するだけで空間を歪めます。空間を覆うイメージをする人が多いですが……実際は空間を無理やり割いて、歪めた空間に食い込んでくる感じです」


 今の説明を聞いた俺は、破れて穴の開いたタオルを想像していた。

 そこに指を入れてドンドンと広げていけば、タオルの布地はみるみる裂けていき、最後には真っ二つに千切れる。

「もし、ダンジョンを放置しておけば……どうなる?」

「そうですね。様々な現象が考えられますが……一番多いのは、自然界が歪みを直そうとして大地震や噴火といった現象を起こす……でしょう」


 思わず「マジかよ……」と呟いていた。彼女が俺の記憶を読めるように、俺も彼女が本当のことを言っているかどうかわかるのである。

 住んでいる安アパートは、築30年は軽く過ぎているんだ。いま東京の直下型地震でも起これば、瓦礫と一緒に俺もペシャンコだろう。


「わかった。このまま中に入ればいいのか?」

「まずは、私が先行しますので、勇者様はあとからついてきてください」

 女の子を先に行かせるのは抵抗があったが、カナエルは天使のようなものだ。万が一、敵と遭遇しても俺よりもうまく切り抜けてくれるだろう。


 カナエルに続いて俺も、真っ暗な闇の中へと踏み込むと、周囲は何も見えなくなった後で、なにやら木の葉の香りを感じた。

 およそ10歩くらい進むと、暗闇に目が慣れたのか少しずつ周りが見えはじめ、辺りは森の中にある洞窟だということがわかる。


「ここが……ダンジョンか?」

「はい。一般の人が踏み込めば……まず生きて戻れない死の世界です。勇者様とはいえ、油断なさらないようにお願いします」

「あ、ああ……」

 そう言われても、ただの不気味な夜の洞窟にしか見えない。そう思っていたら、何やら背筋がチクチクする感じがした。

 身を守ろうとすると、暗闇の中から羽音のようなものが近付いてきて、俺はとっさに左腕で自分の身を守っていた。


ガンっ……!


 羽音の正体はコウモリだったようだ。コイツは俺の耳元まで飛んできていたが、俺の前にはガラスのような壁が現れており、コウモリの爪や牙から身を守っている。


 次の瞬間には、カナエルが手から水塊を放って、コウモリをキリモミで吹き飛ばし、樹木に叩きつけて倒していた。

「今の、俺の前に出た透明な壁は?」

「マジックシールドです。勇者様のように強い霊力を持つ方には、自分の身を守るバリアのようなものが現れます」

「それって、経験を積めば強くなったりする?」


 そう質問をすると、カナエルは微笑みながら頷いた。

「もちろん耐久力も、守備範囲も格段に強くなります」

「なるほど……」


 俺はマジックシールドのことをHPと考えることにした。RPGでは、レベルが上がるたびに当たり前のように上昇していくが、よく考えると意味不明な話だった。

 たとえ経験を積んだとしても、身体が何倍も大きくなったり、身体が鋼鉄になるワケがないんだ。

 しかし、バリアを張る能力が上がっていると考えれば、最終盤の主人公の耐久力が100倍以上になっていても何らおかしくない。


 俺とカナエルでダンジョン探索を再開すると、今度は草むらが揺れ、再び背筋がチクチクする感覚がした。

 同時に矢を撃ち出す音が聞こえてきて、カナエルが2本を避け、俺もマジックシールドで1本の矢を弾き返していた。


「前方にゴブリン……数6!」

 思わず数が多いと思った。カナエルは確かに強いだろうが、翼もあるため守らないといけない場所も多い。

 狡猾なゴブリンどもは、その辺も理解しているのか、俺たちを取り囲むように動いてきた。


「……!?」

 ちょっと待て! 物陰に身を潜めている手強い奴が潜んでいる!!

 その鎧姿のゴブリンがクロスボウを向けてきたとき、俺の身体の周りから流れ出ている気のようなものが手に集まりだした。


 身を守る武器は……俺は自分に合った武器を脳内で探した。

 剣はイマイチだ。槍も扱ったことは無い。斧なんてもっての外だ。取り立てて何の才能もない俺でも使える武器はなんだ……困ったことに脳が導き出した答えは、そんなものはないというものだった。


 だけど、できませんでは済まされない。この鎧を着た……ゴブリンナイトとか言うゴブリンの上位種は、俺ではなくカナエルを狙っているように思える。

 今の彼女は、ゴブリンたちの攻撃に晒されている。ここでコイツの紫色に光るクロスボウなんて受ければタダでは済まない。


――できませんではなく、やるんだ!


 そう自分に強く喝を入れると、左手に集まった気は、特徴的な形状へと変化していく。

「こ、これは……!?」

 俺の気は質感を伴ってくると、リボルバーとも言われる回転式拳銃へと姿を変えていた。すでにシリンダーには6発の弾が装填されている。

 どういう原理でこうなったのかは知らないが、これならケンカすらしたことのない俺でも戦える。


 静かに、ゴブリンナイトに向けて銃口を向けた。

比名吾郎(男性)

所属:なし

能力:不明


腕力    C ★★

霊力・魔法 A ★★★★

行動速度  C ★★

耐久力   B ★★★

技量・作戦 C ★★

索敵能力  B ★★★

意志力   D ★

経験    D ★


好きなモノ:天使娘、半額商品・半額セール

嫌いなモノ:現実(理由はお察しください……)


一言:カナエルに比べると見劣りする能力に見えるが、経験がD評価であることに注目すべきだろう。

これはレベルがとても低いことを意味しており、経験D評価だと、Bステータスが1つあれば優秀という状況である。

また、霊力や索敵能力など、鍛えようと思っても鍛えることが難しい能力が最初からとても高いという特徴も持っている。


能力にも目覚めかけているため、今後どのように成長するのか楽しみな使い手である。

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