19.ゴローの決意
俺の目の前には、幼女になってしまったカナエルの姿があった。
不動産屋の能力エリア・フォーティ―フォーの力によって、力の大半を吸われ完全にこの世界に囚われてしまったのだ。
この紙は嫌味たっぷりに言った。
【見事なほどに主君思いなご令嬢でしたね。自ら貴方の盾になるとは……貴方を盾にして自分だけこの空間から脱出することもできたでしょうに!】
彼女は悲痛な叫び声を響かせた。
「耳を貸してはだめ……逃げて!」
【無駄ですよ! 彼の足ではサービスカウンターまで走るなんてことはできません。ここで貴女と永遠に暮らす……それが運命なのです!】
その言葉を聞いた俺は、背中……いや体中の細胞が騒いで即座に走り出した。
紙は高笑いをしながら俺をなじり、そして俯きながらも安心した様子のカナエルの姿があった。何がなんでも俺を守りぬくという彼女の意志を感じる。
俺が表通りに出ると、無数の棒人形が待ち伏せていた。
銃がなければ俺こと比名吾郎は、大した運動能力はない。だけど……この包囲網を突破しなければ、一巻の終わりだ。どうすればいい。このまま終わってしまっては、全てあの紙の思うつぼだ。
棒人形が近づいてくる。俺は舌打ちをすると銃を構えた。
すると、ふと思った。
俺は銃弾をリロードするときにMPと体力を消耗している。ならば、銃弾の呼び出しを解いたときにはどうなるのだろう。
残った銃弾は2発だ。俺は試しに1発をシリンダーから抜き出すと、銃弾を消してみた。
すると、思った通り体力が回復するのを感じた。
俺は勢いよく走り出すと、棒人形を突き倒しながら包囲網を突破した。棒人形の動きは歩く程度の速度しか出ないらしく、走り出した俺に追いつくことはできない。
駆け足で進むと、計算外のことが起こっていることに気が付いた。
どうやら俺の肉体年齢は、30歳から18歳ほどまで下がっているようだ。このエリア・フォーティーフォーは、経験やオーラ力だけでなく年齢も吸い取ってしまうという副作用があるようだ。
10代の体力は30代とは大きな差があり、全力疾走しても息は大いに上がったが、筋肉そのものはしなやかに動いている。
【お、お前たち……お客様をお止めしなさい! なんとしてもサービスカウンターに行くことを阻止するのです!!】
どうやら、紙には棒人形を動かす力があるらしく、サービスカウンターの前に何十という棒人形で人垣を作っていた。
しかし、俺の狙いはサービスカウンターではない。
「…………」
そのまま進行方向を変え、真っすぐに先ほどの紙とカナエルの捕まっている場所へと戻ると、ガーディアンも慌ててこちらに戻ってきている。
「待たせた、カナエル!」
俺は、カナエルを壁から引き離した。
【無駄なことを……ガーディアン!】
紙の号令と共に、うつろな目をしたガーディアンが向かってきた。すでにカナエルの力の大半を吸い取っているため、プレッシャーはかなりのものだったが、俺は構わずに銃口をガーディアンに向けた。
すると、ガーディアンは及び腰になった。
やはり虚ろでも、あくまでカナエルの分身である。先ほど銃撃されたときのダメージが、まだ記憶に新しいようだ。同時にカナエルの小さな手が動いた。
何と彼女は、手から光を放ってガーディアンの目をくらませていた。
俺は周囲を見渡すと、そのまま棒人形たちが守りを固めているサービスカウンターを目指した。
棒人形たちは、その道を意地でも通さない様子で守りを固めている。まるで人形のバリケードである。それだけでなく、後方からも俺たちを追ってきているため、逃げ場も少なくなってきた。
しばらく走ると俺は棒人形たちの鼻先で迂回し、そのまま裏路地へと向かった。
俺が目指していた場所は、最初からサービスカウンターではない。緑のランプが印象的な非常口を意味する扉だ。
紙もこれには驚いたらしく、甲高い声を上げていた。
【ま、ま……まさかぁーーーーーー!】
「そのまさかだ!」
その直後に俺は、ドアを開けてその先へと突き進んだ。
狙い通りに非常口は店舗の外へと通じており、俺とカナエルはエリア・フォーティ―フォーから脱出することに成功していた。
息を切らせながら電柱にもたれかかると、紙の声が聞こえてきた。
【恐れ入りました……初めてですよ。我が能力から生還できる能力者が現れるなんて……】
俺は息を切らしたまま額の汗をぬぐった。今の体調だと言葉を聞くことが精いっぱいだ。
【我々が、貴方の連れの力の大半を奪ったように……貴方もまた我々の秘密を知った……まさに痛み分けという状況です】
俺が視線を向けると、そこには中学生ほどの年齢に戻ったカナエルの姿があった。
どうやら、エリア・フォーティ―フォーでは、一方的に俺たちだけが能力を吸われるワケではないようだ。これが、奴ら自身も背負っているリスクなのだろう。
紙は言った。
【そこで提案なのですが……ここは延長戦を予定しませんか? 我々は貴方の住むアパート裏のダンジョンで準備いたします。パーティーの用意が整ったら……是非いらしてください】
声のトーンが上がった。
【もちろん、今回以上のおもてなしをさせていただきましょう!】
俺はそっとカナエルを抱き寄せた。
あれほど、力強かったエンジェルオーラも、嘘のように弱まってしまっている。これは、俺が不甲斐ないばかりに、こうなってしまった。
だから、この提案は引き下がれないと思った。だからこそ、俺はしっかりと暗闇の中で耳障りな物音を響かせる紙を睨みつけた。
「受けて立つ! 俺は……必ずお前を倒し、カナエルの力を取り戻す!!」
そう答えると、カナエルの翼がまた少しだけ大きくなり、高校1年生くらいに回復していた。何のつもりかは知らないが、不動産側が、カナエルの力の一部を彼女に戻したようだ。
【契約成立ですね……今のはささやかながら餞別です】
今の言葉を聞いたカナエルは、悔しそうに歯を食いしばった。敵の……増しては魔族からの施しを受けることほど、彼女にとって屈辱的なものはないのだろう。
【では、よい冒険者ライフを!】
その言葉と共に、目の前の建物から霊力が消え、錆びだらけの廃店舗だけが残されていた。
力なく廃墟を眺めていると、カナエルは震える手で俺に縋りついてきた。
彼女は身体を震わせるだけでなく、翼の毛まで逆立ててしまっている。あの能力が相当怖かったのだろう。そう思って優しく抱き寄せると、彼女は言葉を口にした。
「よかった……貴方を失うことがなくて……」
俺は、その言葉に並々ならぬ想いを抱いた。
コイツの頭の中には、最初から自分の命を守るという勘定がないように思える。初日にこの世界に骨をうずめる覚悟と言っていたが、それを有言実行させる訳にはいかない。
「そう簡単に俺がやられるか! お前を守ると決めている」
口にした後で、凄く自分が恥ずかしくなるのを感じた。
何だこの、ベッタベタの捻りのないオレサマ言葉は!? もっと気の利いた女の子を安心させるようなセリフが頭に浮かばなかったのだろうか。
案の定、カナエルは震えるのをやめて、印象深そうに俺を見ていた。
その表情がより気恥ずかしく感じて、俺はさっさと話題を逸らすことにした。
「早く帰ろう。こんなところでいつまでも油を売ってるわけにはいかない」
「は、はい!」
比名吾郎(男性)
所属:なし
能力:ウィザードガン(グレード★★★★)
回転式の魔導拳銃を出す能力。装弾数は6発。任意のタイミングでリロードを行えるが、装弾数に比例した体力や精神力を消耗する。通常弾頭で有効射程距離は50メートルほど。
また、特殊な弾頭を作り出す力と、弾頭を解体することで体力を少しだけ回復する力がある。
能力:天啓(グレード不明)
情報不足により、効果の大半はわからないが、感覚が鋭くなっているようである。
腕力 C ★★
霊力・魔法 A ★★★★
行動速度 A ★★★★
耐久力 B ★★★
技量・作戦 B ★★★
索敵能力 B ★★★
意志力 B ★★★
経験 C ★★
好きなモノ:カナエル、半額商品・半額セール
嫌いなモノ:現実(理由はお察しください……)
備考:対空攻撃、アーマーピアシング弾(魔導貫徹弾)、キャストブレッド弾(鋳造弾)
一言:エリア・フォーティ―フォーとの戦いを経て、ダンジョン……特に裏庭に出現した魔境を攻略するという意志を持ったため、比名のデータを上書きした。
また、好きなモノ欄もはっきりとカナエルを意識しはじめたので、表現も彼女限定となっている。




